例えば、下期の部門方針を固めようとしていた10月に、エンゲージメントサーベイの部門別の結果が届き、部門の平均が全社を下回っていたとします。人事からは期限つきでアクションプランの提出も求められ、エンゲージメントが低い部署という結果に、気が重くなるのは無理もありません。

部門のエンゲージメントスコアが低いと、課長の力量やメンバーの意欲に原因を探したくなるものです。けれども平均が低い部門の内側は課ごとに事情がまちまちで、スコアを動かす大きな要因の一つは、課長と部下の日常の対話にあります。その対話は当事者の二人以外から見えず、課長自身にもやり方へのフィードバックが返りにくいため、原因は人だけでなく仕組みの側にもあるのです。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 手元にあるのは部門の平均と設問ごとの点数だけで、全員と一人ずつ話す時間もなく、どの課で何が起きているのか分からない

● 課長と部下の1on1でどんな話がされているのか、部門の側からは見えない

● 懇親会やイベントを増やしても変わらないことを、これまでの経験で知っている

この記事では、エンゲージメントが低い部署の原因と、結果を受けた最初の30日の手順、課長と月1回振り返る問い、下期6か月の改善サイクルを紹介します。下期の部門方針を決めるいまが始めどきで、いま始めれば、次のサーベイまでの半年を打ち手を試す期間として使えます。全社の施策を待たずに、自分の部門で始められるよう、手順と問いを具体的な形にまとめました。

それでは詳しく見ていきましょう。

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1. エンゲージメントが低い部署とは?スコアが示すものと示さないもの

結果の数字を前に、あなたが何から手をつければよいのか立ち止まってしまうのは、自然なことです。エンゲージメントが低い部署とは、エンゲージメントサーベイで、スコアが全社の平均や前回の結果を下回った部署のことです。サーベイでは、仕事への意欲や上司との関係などを問う設問への回答を集計して、部署ごとのスコアを出します。

部門の成果を上げ続けるには、人が辞めずに力を出せる状態が欠かせません。スコアは、その状態を働く人の側から見た数字の一つですが、数字だけでは打ち手は決まりません。

1.1. スコアが示すのは、回答した時点の受け止め方

部署のスコアが示すのは、回答した時点で、メンバーが仕事と職場をどう受け止めていたかです。設問ごとの点数を見ればどの領域の受け止め方が低いのかが、前回との差を見ればこの半年や1年で何が下がったのかが分かります。

回答率が低いと、スコアは回答した一部の人の受け止め方に偏っている可能性があるため、回答率もあわせて確かめておきましょう。

1.2. スコアが示さないのは、なぜ・どの課で・どの対話で

スコアからは、なぜその点数になったのかまでは分からず、例えば「上司との関係」の設問が低いとしても、その理由は一つとは限りません。1on1が開かれていない場合と、開かれていても話を聞いてもらえないと感じている場合とでは、打ち手が変わります。

スコアから分かることと分からないことを、表に分けておきましょう。

知りたいこと スコアから分かるか 確かめる方法
どの設問が低いか 分かる 設問ごとの点数
前回から何が下がったか 分かる 前回との差
どの課で起きているか 課ごとの集計があれば分かる 課ごとの結果
なぜ低いのか 分からない 課長やメンバーとの会話
いつ、何をきっかけに下がったか 分からない 半年間の出来事を課長と振り返る
日々の対話で何が起きているか 分からない 課長自身の振り返り

表の下の3行は、数字をどれだけ細かく分けても埋まらず、人と話して確かめるしかない部分です。エンゲージメントサーベイの結果を読むときに確かめる数字は、エンゲージメントサーベイ結果の見方と活用方法で整理しています。

2. 部署のエンゲージメントが低くなる3つの原因

「うちの課の誰かに原因があるのではないか」と、あなたがつい考えてしまうのも自然なことです。しかし、エンゲージメントが低い部署のスコアが戻らない原因は、課長やメンバーの努力不足とは限りません。部門の仕組みを見ると、次の3つの原因が重なっていることが少なくありません。

2.1. 施策が、部門の平均に向いている

部門のエンゲージメントの平均が低いと、例えば懇親会や部門の全体会議といった組織活性化の取り組みを、部門全体に同じように打ちたくなるものです。

どれも悪い施策ではありませんが、課ごとに事情が違えば、平均に向けた施策は、どの課の事情にも十分には合いません。ある課では業務量の偏りが課題で、別の課では課長が替わった直後の関係づくりが課題、ということもあるでしょう。

原因が課ごとに違うまま同じ施策を重ねても、スコアは動きにくくなります。回答したのに自分の課とは関係のない施策だけが届く経験になりかねないことを、メンバーの立場で想像してみてください。

2.2. 課ごとの差が、部門の平均に埋もれている

エンゲージメントサーベイの結果を読むときは、平均よりも課ごとの差に目を向けましょう。Gallupは2015年の報告書「State of the American Manager」で、事業単位のあいだのスコアのばらつきを分析しました。

そのばらつきの少なくとも70%を、管理職の違いが説明すると推定しています。米国のデータですが、事業単位のあいだの差の多くが、管理職の違いと結びついている可能性を示す推定です。

例えば、隣の課では隔週で1on1が開かれ、こちらの課では忙しさを理由に後回しになっている。同じ部門の中でも課長が違えば部下の日常も変わることがあり、1on1の頻度も相談のしやすさも仕事の割り振り方も課ごとに異なるでしょう。部門の平均だけを見ていると、こうした差は数字の中に埋もれたままです。

2.3. 課長と部下の対話が、当事者以外から見えない

スコアの差が生まれる場所の一つは、課長と部下が日々交わす対話の中にあります。ところが、部門の側から見えるのは1on1を実施したかどうかくらいで、どんな話がされ、部下が何を言わずに飲み込んだのかは見えません。

課長の側にも、自分の対話のやり方へのフィードバックは返りにくいものです。ほかの課長がどんな1on1をしているのかを知る機会も限られ、かつて自分が受けた面談や自分なりの経験を手本に、それぞれのやり方を続けている人もいます。

かといって、対話の中身を上の立場の人が読む仕組みにすれば、課長も部下も読まれる前提で言葉を選びやすくなります。あなたが部下の立場で、1on1の中身が上の人に読まれると知っていたら、本音を話せるでしょうか。

だからこそ、対話の中身は読まずに、対話のやり方だけを変えていく方法が必要になります。

3. エンゲージメントサーベイの結果を受けた最初の30日にやること

結果が届いたばかりの時期は、一刻も早く打ち手を決めたくなるものです。けれども最初の30日は、打ち手を急がず、課ごとの差と背景を確かめる期間にあてるつもりで、次の5つの手順で進めましょう。

  1. 1週目に、部門の結果を課ごとに分けて読む
  2. 2週目に、課長と1対1で、その課の結果を一緒に読む
  3. 3週目に、課ごとにメンバーへ結果を共有し、背景を聞く
  4. 4週目に、課ごとに次の3か月で試す打ち手を1つ決める
  5. 30日目までに、課ごとの打ち手と途中で見る指標を、人事へのアクションプランにまとめる

人事へのアクションプランを最後に置いたのは、先に書くと、背景を確かめる前に打ち手が決まってしまうからです。提出の期限が早い場合は、手順4までの予定と途中で見る指標を先に出し、課ごとの打ち手は後から足すと伝えておきましょう。

3.1. 課ごとの差から、原因の場所の見当をつける(手順1)

例えば、部門の平均は全社を下回っていても、課ごとに分けると、一部の課だけが大きく下がっていることがあります。手順1では、課ごとの結果を並べて、原因がどこにありそうかの見当をつけます。

人数の少ない課は、回答者が特定されないよう結果が表示されないことがあるため、いくつかの課をまとめた単位で読みましょう。

結果の形 原因がありそうな場所 最初に確かめること
一部の課だけが低い その課の日常(仕事の偏り、課長と部下の対話) その課の半年間の出来事を、課長と振り返る
どの課も同じように低い 部門全体の条件(方針の変化、業務量、人の入れ替わり) 部門として何が変わったかを、課長たちと洗い出す
前回より大きく下がった課がある 半年のあいだの変化(異動、組織変更、繁忙) 下がり始めた時期と、そのころの出来事を聞く
課の中で回答が割れている 課の中での仕事や立場の違い 仕事の割り振りや関わり方に偏りがないかを話す

どの形でも、課の順位をつけて課長を評価する材料にするのは避けましょう。課長が自分の課の結果を守ろうとすると、次の手順で背景を話してもらえなくなるからです。

3.2. 課長と読み、メンバーには会話で背景を聞く(手順2・3)

手順2では、課長と1対1でその課の結果を一緒に読みますが、最初に、結果を課長の評価には使わないことと、回答した人を探さないことを伝えましょう。

そのうえで、「この結果のうち、意外だったところと予想どおりだったところはどこですか」と聞いてみてください。課長の見立てを先に聞くと、数字からは分からない課の事情が出てきます。

手順3では、課長が進行役になり、課ごとにメンバーへ結果を共有します。全員と話す時間がなくても、あなたが冒頭の5分だけ同席することはできるでしょう。

結果を受け止めていることと、回答者を探さないことを自分の言葉で伝えたら、退席して課長に任せましょう。上の立場の人がいないほうが、話しやすくなるメンバーもいるからです。

背景を聞くときは、「なぜスコアが低いと思いますか」という問いは避けましょう。理由を説明させる問いには、「コミュニケーション不足ですかね」のような抽象的な答えが返りやすくなります。

代わりに「この半年で仕事がやりにくくなったと感じた場面はありますか」「このまま続けてほしいことは何ですか」のように、具体的な場面を聞きましょう。

3.3. 打ち手は課ごとに1つ、観察できる行動で決める(手順4・5)

手順4で決める打ち手は、数を増やすより、3か月続けられるものを課ごとに1つ選べば十分です。

「コミュニケーションを増やす」という書き方では、実行されたかどうかを誰も確かめられません。「隔週の1on1を予定に入れ、業務の都合で動かすときは同じ週のうちに入れ直す」のように、見て確かめられる行動で書きましょう。

手順5で人事に出すアクションプランには、課ごとの打ち手・担当者・時期と、途中で見る指標を書きます。部門全体の施策を一つ書くより、課ごとの事情に合わせた打ち手を並べたほうが、半年後に結果を説明しやすくなります。

4. 課長の対話の質を、責めずに上げる

課長に「もっと丁寧に対話してほしい」と言いたくなっても、責めるような形になれば、相手を身構えさせてしまうものです。課長の対話の質は課長を責めても上がらないので、自分の対話を振り返れる材料と、それを月に一度話せる場を、部門として用意しましょう。

4.1. プレイヤーを兼ねる課長は、対話の時間を取りにくい

課長に「もっと1on1をしてほしい」と伝えるだけでは、状況はあまり変わりません。産業能率大学の「上場企業の課長に関する実態調査」(2021年)では、課長の99.5%がプレイヤーを兼務していました。

仕事のおよそ半分(50.1%)が、プレイヤー業務でした。自分の数字を持ちながら部下と向き合う課長にとって、1on1は忙しい週に削られやすい予定です。

自分の数字の締め切りが迫る週に、1on1の予定が真っ先に動かされてしまう経験に、あなたも覚えがあるのではないでしょうか。時間の問題は課長の心がけに任せず、部門の段取りとして扱うようにしましょう。

たとえば部門の定例会議を一つ減らして1on1の時間にあてたり、1on1の予定を期の初めにまとめて押さえたりする方法があります。

4.2. 部下の側にも、1on1の効果を感じられない人がいる

1on1を終えた部下が、「今日も、あまり意味はなかったな」と感じながら席に戻る光景を想像してみてください。パーソル総合研究所は2025年に「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」を公表しました。

正社員3,000名への調査で、部下が挙げた1on1の困りごとの1位は「面談の効果が感じられない」で、約3割の部下がこれを選んでいます。

同じ調査では、部下が話す割合の高い1on1ほど、部下による成長の自己評価が高い傾向も報告されています。10点満点で、部下が話す割合が高い場合は6.8点、上司が話す割合が高い場合は6.3点でした。自己評価の比較であり、部下の話す量を増やせば成長するという因果を示したものではありません。

それでも、誰がどれだけ話しているかは、課長が自分の1on1を振り返る出発点として使えます。話す割合は課長自身でも確かめやすく、人柄を評価する話にもならないからです。

4.3. 課長と月1回振り返るときの問い

月に一度、課長と1対1で15分ほど、その月の1on1を振り返る時間をとり、聞くのは部下が話した中身ではなく課長自身のやり方にしましょう。

中身は当事者の二人のものであり、上に伝わると分かれば、話しにくくなる部下もいるでしょう。

問い ねらい
今月の1on1で、部下が一番長く話したのはどんな種類の話題でしたか 部下が話す時間に目を向ける
自分が話しすぎたと感じた回はありましたか 話す割合を、課長自身の感覚で振り返る
前回決めたことを、今回の1on1で話題にできましたか 対話が回ごとにつながっているかを確かめる
1on1を飛ばしたり短くしたりしたのは、どんな週でしたか 時間の制約を、責めずに段取りの問題として扱う
来月の1on1で、一つだけ変えるなら何ですか 変えることを課長自身が決める

問いに正解はないので、答えを評価せず、来月変えることを課長が一つ決めたら終えましょう。

課長が自分の1on1を振り返る材料は、記憶のほかにあるでしょうか。TONOME Coreは、1on1の対話をAIが記録・要約し、課長には発話のバランスや問いかけ方へのフィードバックを届けます。AIは評価をせず、対話を映す鏡として振り返りを支えます。対話の中身を見られるのは当事者だけで、部門で見られるのは実施率や対話テーマの傾向といった集計情報です。TONOME Coreの詳細を見る

5. 下期6か月の改善サイクル

次のサーベイまで半年と聞くと、あなたには、結果が出るのをただ待つ長い時間に思えるかもしれません。下期の6か月は、課ごとの打ち手を試して課長と振り返り、直していく期間です。次のサーベイの結果だけを待つと、エンゲージメントを上げる打ち手が合っていたかが分かるまでに半年かかります。

5.1. 月ごとの進め方

10月から3月までの6か月を、部門でやることと課長との振り返りに分けて、月ごとに次のように進めましょう。

月 部門でやること 課長との月1回の振り返り 確かめる指標
10月 結果を課ごとに読み、課長・メンバーと共有する 結果の受け止めと、課の事情 課ごとの共有の場を開けたか
11月 課ごとの打ち手を始め、1on1の予定を先に押さえる 打ち手を始めて分かったこと 1on1の実施状況
12月 1回目の見直しで、続けるか変えるかを決める 部下が話す時間の変化 打ち手の実行状況
1月 年明けの業務計画に合わせて打ち手を直す 前回決めたことが次の回につながったか 1on1の実施状況と、多かった話題の種類
2月 課長どうしでやり方を持ち寄る場を開く ほかの課から取り入れたいこと 打ち手の実行状況
3月 半年を振り返り、来期の部門方針と課長の育成計画に反映する 来期も続けること 次のサーベイと比べるための記録

5.2. 次のサーベイまでは、途中の指標で進み具合を見る

次のサーベイまでのあいだは、表の右の列のような途中の指標で、進み具合を確かめましょう。1on1の実施状況や打ち手の実行状況は、対話の中身を読まなくても確かめられます。

途中の指標が動いても、スコアが上がるとは限りません。それでも、打ち手が実行されていないのか、実行されているのにスコアが動かないのかは分けて考えられます。

前者なら段取りを、後者なら打ち手そのものを見直しましょう。例えば、12月の見直しで打ち手がほとんど実行されていなかったと分かれば、まず見直すのは打ち手ではなく段取りです。

5.3. 課長どうしで、やり方を持ち寄る

2月に予定した課長どうしの場では、互いの1on1のやり方を持ち寄ります。持ち寄るのは課長が試して変えたことと、その結果であり、部下が話した中身は持ち出しません。

ほかの課長の工夫を聞くと、自分のやり方を比べる材料ができます。2.3で見た「課長にフィードバックが返りにくい」状態を、部門の中で少しずつ変えていく場になります。

管理職の1on1を研修で終わらせずに育てる考え方は、研修で終わらせない。管理職の1on1を育てるで紹介しています。

まとめ

● エンゲージメントが低い部署のスコアは回答時点の受け止め方を示すが、なぜ・どの課で・どの対話で起きているかは示さない

● スコアが低くなり戻らない背景には、施策が平均に向き、課ごとの差が埋もれ、課長と部下の対話が当事者以外から見えない仕組みがある

● 最初の30日で課ごとの差と背景を確かめ、課長と月1回振り返る場を下期の6か月続けると、次のサーベイを待たずに打ち手を直せる

部門の平均を上げようとする前に、課ごとに何が起きているのかを課長と一緒に確かめることが、下期の最初の仕事です。まずは今週、部門の結果を課ごとに並べ、課長一人ひとりと30分ずつ結果を読む予定をカレンダーに入れることから始めてみましょう。