上期の振り返りで実施率が期初の目標に届いても、経営会議で「それで、1on1で何が良くなったのか」と聞かれて、答えに詰まったことはありませんか。1on1の効果測定の材料が実施率と満足度アンケートしかなく、来期も管理職の時間を充てる理由を数字で説明しきれない。そんなもどかしさを抱えるのは、無理もないことです。

答えに詰まるのは、あなたの推進の工夫が足りないからでも、取り組みに効果がないからでもないかもしれません。いまの測り方は、実施率という量と、エンゲージメントや離職という結果の両端しか見ていません。そのあいだで起きる対話の中身と部下の変化を測る指標が、まだないのです。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 経営会議で「1on1で何が良くなったのか」と聞かれ、実施率と満足度のスコアしか示せない

● 「1on1は効果がない」という現場の声に、数字で答えられず、続ける理由を説明しきれない

● 対話の中身を知りたいと思っても、部下が本音を控えてしまわないかが気になって踏み込めない

この記事では、続いているか・対話の中身・部下の変化という3つの指標で、実施率の先を測る方法を紹介します。指標ごとの測り方と見る人は表にまとめ、3か月・半年・1年の時間軸と、本音を守るために測る前に決める約束もあわせて載せました。下期の最初から測り始めれば、来期の予算を固める頃には、3か月分の数字を示せるでしょう。

それでは詳しく見ていきましょう。

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1. 1on1の効果測定とは?量と結果のあいだを測る

実施率も満足度も毎月まじめに集めてきたのに、効果を言い切れないと感じるのは、あなたの努力が足りないからではありません。

1on1の効果測定とは、この取り組みが部下と組織に何をもたらしているかを、観察できる指標で確かめることです。実施した回数を数えることも、エンゲージメントのスコアを追うことも、効果測定の一部にすぎません。

1.1. 量と結果のあいだに、確かめられる2つの段階がある

1on1の効果は、実施の量と組織の結果のあいだにある「対話の中身」と「部下の変化」で確かめられます。実施が続かなければ対話の中身は変わらず、中身が変わらなければ、部下が仕事の進め方を変えるきっかけも生まれにくいでしょう。エンゲージメントや離職の数字が動くとしてもその先の話なので、以下ではこの流れを、量・中身・変化・結果の4つの段階として扱います。

実施率は実施の事実そのものを数えるので、ほかの施策の影響をほとんど受けませんが、その代わり、対話の質までは分かりません。反対に結果の数字は組織にとって大切ですが、評価制度や異動、景気など多くの要因と一緒に動きます。量だけでは効果を説明できず、結果だけでは1on1の分を取り出せないのです。

1.2. 調査で分かっていることと、分かっていないこと

「ほかの組織では、効果をどう確かめているのだろう」と気になることはありませんか。調査で分かっているのは、1on1の効果を感じられない人が一定数いることと、結果の数字との因果がまだ示されていないことです。

パーソル総合研究所は2025年2月、正社員3,000名を対象にした「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」を公表しました。困りごととして「面談の効果が感じられない」を選んだ人は、部下でも上司でも約3割にのぼります。

リクルートマネジメントソリューションズは2022年4月に、「1on1ミーティング導入の実態調査」を公表しました。人事担当の正社員936名に導入効果を聞くと、「コミュニケーションの機会が増えた」は60.1%、「部下の成長が見られる」は30.3%にとどまりました。ただし回答者は人事担当の社員で、部下本人に効果を尋ねた結果ではありません。

米国のGallupは2015年、米国の成人7,712人の調査結果を報告しました。上司が部下と定期的な会議を持つ場合は、持たない場合に比べて、部下がエンゲージしている可能性が約3倍でした。

ただし米国のデータで、会議とエンゲージメントの結びつきを示すにとどまります。1on1がエンゲージメントや離職を改善するという因果を示した国内のデータは、見当たりません。

結果の数字から効果を言い切れない以上、途中の変化を自社で確かめるしかありません。他社の数字に頼れないぶん、あなたの組織で測った数字が、いちばんの手がかりになります。

2. 実施率と満足度では、1on1の効果が見えない3つの理由

毎月まじめに数字を集めてきたあなたの手間が、無駄だったわけではありません。ただ、実施率と満足度で効果が見えないのは、いまの測り方に3つの抜けがあるからで、どれも測る仕組みを変えれば埋められます。

2.1. 実施率は、1on1が行われたことしか示さない

実施率が示すのは、予定どおりに実施されたかどうかだけで、その時間に何が話され、部下が何を持ち帰ったかまでは分かりません。

Kakedasの「上司との1on1に関する実態調査」(2024年)は、1on1を受けている会社員400名が対象です。上司との1on1で、仕事へのモチベーションが1回でも下がった経験がある人は54.2%でした。

例えば、予定表のうえではすべて「実施済み」でも、そのうちの一回が部下にとって気の重い時間だったかもしれません。実施率の100%の中には、部下の意欲を下げた回も含まれている可能性があります。

1on1のKPI(重要業績評価指標)を実施率だけに置くと、予定を入れて実施すること自体が目的になりやすくなります。二人だけで話す場は外から質が見えず、改善の手がかりをつかみにくいものです。その事情は、1on1の改善が進まない3つの理由でも取り上げています。

2.2. 結果の数字は、ほかの施策と一緒に動く

エンゲージメントのスコアや離職率は、1on1だけで動く数字ではありません。上期のあいだにも、評価制度の見直しや研修、組織の変更が同時に進んでいたかもしれません。

スコアが上がっても、1on1によるものか、ほかの施策によるものかは区別できないのです。下がった場合も同じで、この取り組みが役に立っていないとは言い切れません。例えば、スコアが少し下がったという報告だけで「1on1は意味がなかった」と結論づけてしまう場面を想像してみてください。

離職率のように1年単位で集計する数字は、半期ごとの振り返りに間に合わないこともあります。結果の数字だけで判断すると、続ける価値のある取り組みを、効果が見える前にやめてしまうおそれがあります。

2.3. 満足度は場の印象を測り、聞き方しだいで本音から離れる

満足度アンケートが測るのは、対話の場への印象です。「満足している」と答えた部下に何が起きたのかは、点数からは読み取れません。

しかも聞き方によっては、答えが本音から離れていきます。回答が上司に伝わる形で聞けば、上司との関係を考えて点数を選ぶ部下もいるでしょう。

点数が上司の評価に使われると知れば、上司も部下も点数を気にしやすくなります。中身や部下の変化を測るときも同じことが起こるので、4章で測る前の約束として扱います。

3. 1on1の効果測定で見る3つの指標

では、何を測れば効果が見えてくるのでしょうか。1on1の効果測定では、続いているか・対話の中身・部下の変化の3つを指標にしましょう。

エンゲージメントや離職は、3つの指標の先にある結果として、別に長い目で見ます。3つの指標を表にまとめると、次のとおりです。

指標 測り方 頻度 誰が見るか
1. 続いているか 実施率、前回からの間隔、延期した回が再び設定されたか 毎月 管理職本人と部長。推進の担当は部署単位の集計
2. 対話の中身 部下が話す割合、前回決めたことの確認、話題の広がり 四半期ごと 管理職本人。組織は部署単位の傾向だけ
3. 部下の変化 部下が挙げる「役に立った場面」、仕事の進め方を変えた経験 半期ごと 部下本人と管理職。組織は匿名の集計だけ

3.1. 続いているか|実施率に、間隔と延期の扱いを加える

1つ目の指標は、1on1が途切れずに続いているかで、実施率だけでなく、前回からの間隔と延期した回の扱いも見ます。

実施率を「期間中に1回以上行った部下の割合」で数えていると、2か月あいた部下も実施済みに入ってしまいます。例えば「来週に回そう」という延期が二度三度と重なり、気づけば2か月が過ぎていた場面を想像してみてください。

先のパーソル総合研究所の調査では、1on1の実施頻度は平均で月0.8回でした。月1回の運用を決めていても、延期が重なれば間隔は広がっていきます。

延期そのものより、延期した回が再び設定されたかどうかを確かめましょう。延期されたまま消えた回が多い部署では、管理職が時間を確保できていない可能性があります。

この指標はカレンダーの予定や記録から数えられるので、部下にアンケートを取る必要はありません。

3.2. 対話の中身|部下が話す割合と、前回からのつながり

2つ目の指標は、どんな対話になっているかで、部下が話す割合と前回からのつながり、話題の広がりの3つを見ます。

パーソル総合研究所の同じ調査では、部下が話す割合が高い1on1で部下の成長の自己評価が10点満点で6.8点、上司が話す割合が高い場合は6.3点でした。テーマを部下が決める場合は6.9点、上司が決める場合は6.4点でした。

いずれも部下による自己評価で因果を示すものではありませんが、部下が話す割合を中身の指標に選ぶ理由にはなるでしょう。

部下が話す割合は録音がなくても測れ、四半期に一度、部下に「直近の1on1であなたが話した時間はどのくらいでしたか」と尋ねる方法で確かめます。答えは、半分より多い・半分くらい・半分より少ないの3択で集めましょう。

前回からのつながりは、会話の冒頭で前回決めたことを確かめたかどうかで見ます。「前回決めたこと、どうなった?」と一言たずねるだけでも、つながりが生まれやすくなります。

話題の広がりは、業務の進み具合のほかに困りごとやキャリア、働き方の話が出ているかで確かめましょう。毎回が業務の進み具合の確認だけなら、その場は進捗会議とほとんど変わりません。

この指標は、まず管理職本人が自分の対話を振り返るために使い、組織が見るのは部署単位の傾向までにとどめましょう。

3.3. 部下の変化|部下自身の言葉で「役に立った場面」を集める

3つ目の指標は、1on1をきっかけに部下に何が起きたかです。点数で満足度を尋ねる代わりに、部下自身に「役に立った場面」を具体的に挙げてもらいましょう。

半期に一度、匿名のアンケートで次の3つを尋ねます。

● 直近半年の1on1で、役に立った場面を一つ挙げてください

● 1on1で話したことをきっかけに、仕事の進め方を変えたことはありますか

● 1on1で話しにくかったことや、話せなかったことはありますか

集計で見るのは、具体的な場面を挙げられた部下の割合と、挙がった場面の種類です。「特にない」という答えが多い部署は、2つ目の指標と並べて理由を探しましょう。

例えば「評価面談の前に自分の強みを言葉にしてもらえて、資料の見せ方を変えた」といった答えが集まれば、点数にはない手応えのある報告材料になります。

4. 測る前に決める約束と、管理職ごとの差の見方

「測るなら、現場の本音をつぶしたくない」と思うのは当然のことです。1on1の効果を見える化する前に、測った結果を何に使い、誰が見るのかを約束として決めておきましょう。

約束がないまま測り始めると、上司も部下も見られることを前提に言葉を選びやすくなります。そうなれば、測りたかった本音が対話から消えていくでしょう。

4.1. 測り始める前に決める4つの約束

約束にする項目は、次の4つです。

  1. 3つの指標を、管理職と部下の人事評価に使わない
  2. 対話の中身は、上司と部下の当事者だけが見る
  3. 組織が見るのは部署単位の傾向とし、人数の少ない単位では結果を出さない
  4. 何を測り、誰が見るのかを文書にして、管理職と部下の両方に伝える

1つ目の約束が最も大切で、指標が評価に使われると分かれば、管理職は数字を整えることを優先しやすく、部下も上司に配慮した答えを返しがちになります。

例えば、「この数字は人事評価に響く」と聞いた管理職が、対話の中身よりも回答の見栄えを気にしてしまう場面を想像してみてください。

2つ目と3つ目は、本音を守りながら組織が傾向をつかむための約束です。たとえば回答者が5人に満たない課のように、誰の回答かを推測できる単位では結果を出さないようにしましょう。

4.2. 管理職ごとの差は、順位ではなく支える先を決めるために見る

管理職ごとの差は、順位をつけるためではなく、どこに支えが必要かを決めるために見ましょう。部長会で管理職ごとの数字を一覧にして見せる運用は、避けたほうがよいと考えられます。順位表を前に、数字の低い管理職が肩身の狭い思いをする場面を想像してみてください。

続いているかの指標で差が出たときは、まず管理職の業務量と部下の人数を確かめましょう。間隔があく理由は、本人の意欲だけでなく、時間を確保できない事情にもあるかもしれません。

中身の指標で差が出たときは、管理職本人が自分の数字を振り返れるようにしましょう。ほかの管理職と比べる前に、自分の前回の数字と比べるほうが受け止めやすくなります。

対話の中身を読まずに、1on1の続き方と話題の傾向をつかむには、記録の仕組みが要ります。TONOME Coreでは、組織ダッシュボードで実施率や対話テーマの傾向を組織単位で見られます。個人の発言がそのまま上がることはなく、対話の内容を見られるのは上司と部下の当事者だけです。上司には、問いかけ方の改善につながるフィードバックがAIから届きます。TONOME Coreの詳細を見る

5. 3か月・半年・1年で、1on1の効果を確かめる

「いつ、何を報告すればよいのか」と迷うのは自然なことです。1on1の効果は、3か月・半年・1年と時期を分け、見る指標を変えながら確かめましょう。3つの指標は、変化が数字に表れるまでの時間がそれぞれ違うからです。

5.1. 時期ごとに、見る指標と決めることを変える

続いているかと対話の中身は最初の3か月で見え始めますが、部下の変化を尋ねるのは半年後が目安です。エンゲージメントや離職は、1年たってから3つの指標と並べて見ましょう。下期の初めから測る場合の時間軸は、次のようになります。

時期 主に見る指標 確かめること 決めること
3か月後(12月) 続いているか、対話の中身 間隔があいた部署、延期のまま消えた回、部下が話す割合 時間が足りない部署への支え方
半年後(3月) 対話の中身と部下の変化 前回からのつながり、話題の広がり、役に立った場面 来期の1on1の運用と、管理職を支える重点
1年後(翌年9月) 3つの指標と結果 3つの指標と、エンゲージメントや離職の推移 1on1を今の形で続けるか、形を変えるか

来期の予算を検討する時期に間に合うのは、3か月後の数字です。その時点では、続いているかと対話の中身の数字に加えて、測る仕組みを整えたことを報告しましょう。

部下の変化については、3月の数字で報告すると先に伝えておきましょう。エンゲージメントのスコアを途中の指標と組み合わせて読む方法は、エンゲージメントサーベイ結果の見方と活用方法で紹介しています。

5.2. ほかの施策と同時に変わるときの切り分け方

1on1の効果をほかの施策から完全に切り分けることはできません。その代わりに、いくつかの材料が同じ向きを示しているかを、次の4つの手順で確かめましょう。

  1. 上期と下期に始まった施策を、時期とともに書き出す
  2. 1on1が続いている部署と途切れている部署で、部下の変化の答えを比べる
  3. 部下へのアンケートに、変化のきっかけを選ぶ設問を加える(1on1・研修・異動など)
  4. 3つの指標と結果の数字が、同じ時期に同じ向きに動いたかを見る

例えば、続いている部署と途切れている部署で、部下が挙げる「役に立った場面」に違いが見えたとします。それは、効果を考えるうえで一つの手がかりになるでしょう。

部署どうしの比較には、仕事の内容や人数の違いも影響します。一つの比較だけで結論を出さず、4つの手順の結果をあわせて判断しましょう。

5.3. 経営への報告は、4つの段階を分けて書く

経営会議への報告では、量・中身・変化・結果を分けて書き、それぞれで言えることを添えましょう。段階を分けておけば、結果の数字が動かない時期でも、途中で起きている変化を示せます。

段階 報告に入れるもの 添える説明の例
量 実施率、平均の間隔、延期のまま消えた回 途切れている部署には、時間の確保を支援する
中身 部下が話す割合、前回からのつながりの傾向 個人の発言は読まず、部署単位の傾向で見ている
変化 役に立った場面を挙げた部下の割合と、場面の例 部下自身の言葉を、匿名で集めた結果である
結果 エンゲージメントのスコア、離職率の推移 ほかの施策の影響も含んだ数字である

「1on1で何が良くなったのか」という問いへの最も具体的な答えになるのは、変化の段階で集めた部下の言葉です。場面の例を報告に使うときは、誰の言葉か分からない形に整えてから使いましょう。

まとめ

● 1on1の効果測定を実施率とエンゲージメントや離職だけで行うと、そのあいだにある対話の中身と部下の変化が見えません

● 続いているか・対話の中身・部下の変化の3つの指標を、測り方と頻度、見る人まで決めて測ります

● 評価に使わない、中身は当事者だけが見るという約束を先に決め、3か月・半年・1年で見る指標を変えます

経営会議で聞かれた「何が良くなったのか」に答える手がかりは、実施率と結果の数字のあいだにあります。あなたの手元にある実施率は、その先を測るための出発点です。まずは4つの約束を文書にして管理職と部下に伝え、カレンダーから数えられる「続いているか」の指標から測り始めてみましょう。