コロナ禍を機に多くの企業が導入した1on1ですが、実際に成果を上げている組織は決して多くありません。むしろ、間違った運用により部下の離職を促進してしまうケースも存在しています。
この背景には、米国発祥の1on1を日本の企業文化を考慮せずにとりあえず導入していることが挙げられます。労働市場や組織風土が大きく異なる中で、表面的な手法だけを真似ても逆効果になってしまうリスクがあります。
本稿では、1on1が離職を増やす具体的な原因と、日本の労働文化も考慮した効果的な運用について詳しく解説します。
それでは詳しく見ていきましょう。
【こんな方におすすめ】
☑1on1を導入したが思うような効果が得られない管理職 ☑部下との1on1で関係性が悪化してしまった経験がある方 ☑1on1の正しい運用方法を知りたい人事担当
1. 1on1とは
1on1とは、上司と部下が定期的に1対1で行う面談のことです。従来の人事評価面談とは異なり、部下の成長支援や課題解決を目的とした対話の場として位置づけられています。
米国のシリコンバレー企業から広まったこの手法は、日本でも急速に普及しました。特にリモートワークが増加した2020年以降、コミュニケーション不足を解消する手段として注目されたのです。
1.1. 1on1の基本的な目的
1on1の主な目的は、部下の自律性向上と組織への貢献度アップにあります。評価のための面談ではなく、部下が抱える課題や悩みを共有し、解決策を一緒に考える場といえるでしょう。
また、上司と部下の信頼関係構築も重要な狙いの一つです。定期的な対話を通じて、お互いの理解を深め、より効果的な業務遂行を目指しています。
1.2. 従来の面談との違い
従来の評価面談は、上司が部下の成果を査定することが中心でした。一方、1on1は部下が主体となって話題を提供し、上司はサポート役に徹することが基本となります。
頻度についても大きな違いがあります。年2回程度の評価面談に対し、1on1は週1回から月1回程度の高頻度で実施されることが一般的です。
2. 1on1が離職を増やす2つの原因
適切に運用されれば効果的な1on1ですが、実際には逆に離職率を高めてしまうリスクももっています。ここでは、主に2つの深刻な問題について取り上げます。
これらの問題を理解せずに1on1を継続すると、部下の信頼を失い、最終的に離職につながってしまう可能性があります。
2.1. 前回の内容を記憶していない問題
最も多い失敗パターンは、上司が前回の1on1の内容を覚えていないことです。部下が真剣に話した悩みや課題を忘れてしまい、同じ質問を繰り返してしまったり、前回の続きを意識せずに、場当たり的な会話を1on1でしてしまうケースです。
実際、部下の人数が4名以上となると、忙しい業務の中で誰と前回何を話したかを正確に思い出し、次回の1on1で何を話すかを考えるのは負担となります。
しかしこの状況が続くと、部下は「自分のことを真剣に考えてくれていない」「重要視されていない」と感じてしまう可能性があります。結果として、上司への信頼が失われ、関係性が悪化してしまいます。
2.2. アクションアイテムを実行しない問題
2つ目の問題は、1on1で決めたアクションアイテムを上司が実行しないことです。部下が勇気を出して本音を語り、改善を求めたにも関わらず、その後のフォローが一切ないというケースです。
このような経験をした部下は「この人(組織)に言っても結局無駄だ」と感じ、上司や組織への失望を深めることになります。最終的に「この会社では成長できない」などと判断し、転職や離職を検討させるきっかけとなってしまう可能性があります。
2.3. 形式的な実施による信頼失墜
多くの企業では、1on1の実施回数や時間だけを重視し、内容の質を軽視しています。上司が「やらされている感」を持ちながら形式的に実施すると、部下はその姿勢を敏感に察知するでしょう。
特に1on1はその名の通り、一対一のコミュニケーションであることから、人事や外部の人間が、実際にどのような会話をしているのかが見えにくく、1on1の質の評価や、具体的な支援をしにくいという構造的な問題もあります。
結果として、チームによる運用のバラツキが生まれ、あるチームでは1on1が単なる「時間の無駄」と認識され、上司と部下の関係性がさらに悪化してしまうということが生じます。このような状況では、1on1を実施しない方がマシだったという本末転倒な結果を招いてしまうこともあります。
3. 米国と日本の1on1文化の根本的違い
1on1の失敗のひとつには、米国と日本の労働文化の違いを理解せずに導入していることに起因します。同じ手法でも、文化的背景が異なれば効果も大きく変わってしまうのです。これは、国による違いという視点だけでなく、企業カルチャーによる違いも含めて、自社における1on1のあり方をしっかりと検討して運用していくことの大切さにも繋がります。
3.1. パフォーマンスマネジメントの浸透度
米国では、パフォーマンスマネジメントが組織文化として深く根付いています。成果と報酬が明確に連動し、短いスパンでのフィードバックをベースとした個人の業績評価システムが確立されているのです。
一方、日本企業では近年緩和の傾向にあるものの、年功序列や終身雇用の名残があり、個人の成果を客観的に測定・評価・フィードバックし合う文化が十分に発達していません。このため、米国式の1on1をそのまま導入しても、期待する効果を得られない場合が多いのです。
3.2. キャリア開発に対する考え方
米国では、キャリア開発は基本的には個人の責任とされ、社員自身が主体的に取り組むことが前提として考えられています。結果として、転職市場も活況で、1社でキャリアを終える人は多くありません。1on1も部下から話題や困りごとを提示し、上司はサポート役に徹することが前提となっているのです。
対照的に、キャリア自律・自律型人材というキーワードを多く聞くようにはなりましたが、日本では会社が社員のキャリア開発を支援するという考え方がまだ一般的です。部下は上司からの指導やアドバイスを期待し、米国と比較するとそのスタンスは受け身的な姿勢になりがちです。
3.3. 労働時間管理の違い
米国のホワイトカラーの多くは、エグゼンプション制度により労働時間管理の対象外とされています。このため、時間よりも成果を重視したマネジメントが自然に行われている傾向にあります。
一方で、日本では働き方改革関連法案など、労働時間管理が年々厳格になっている傾向にあり、時間管理と成果をセットで考えるプロセス重視の文化が根強く残っています。
4. 離職を防ぐ1on1実践の5つのポイント
日本企業で1on1を成功させるためには、文化的な違いを踏まえた独自のアプローチが必要です。以下の5つのポイントを実践することで、離職を防ぎ、部下の定着率を向上させることができるでしょう。
これらのポイントは、多くの企業での実践を通じて効果が確認されている方法です。
4.1. 記録の徹底と振り返りの仕組み化
前回の1on1内容を忘れてしまう問題を解決するため、詳細な記録を残すことが重要です。部下の悩みや課題、決定事項を必ず文書化し、次回の1on1前に必ず確認するようにしましょう。
記録には日付、話し合った内容、決定事項、次回までのアクションアイテムを明記します。無料のデジタルツールなどを活用することで、検索や振り返りも容易に実現できます。
4.2. アクションアイテムの進捗管理
1on1で決めたアクションアイテムは、必ず実行状況を管理する必要があります。進捗を定期的にチェックし、遅れが生じた場合は理由を明確にして部下に報告することが大切です。
実行できなかった場合でも、その理由を正直に伝え、代替案を提示することで信頼関係を維持できます。重要なのは、部下の要望に対して真摯に向き合う姿勢を示すことです。
4.3. 日本型の段階的アプローチ
日本の部下は、いきなり本音を語ることに抵抗を感じる傾向があります。まずは業務の状況や困っていることを軽く聞き、徐々に深い話題に発展させていくことが効果的でしょう。部下それぞれの性格や、関係性の構築がどこまでできているかといったことも、進め方の判断材料になります。
また、ときには(話し過ぎには注意しながらも)、上司が自分の経験や失敗談を共有することで、部下が話しやすい雰囲気を作ることも重要です。相互理解を深めることで、より建設的な対話が可能になります。
4.4. 継続的な関係性の構築
1on1の効果は、1回の面談で得られるものではありません。継続的な対話を通じて、上司と部下の信頼関係を徐々に深めていくことが重要です。
定期的な実施スケジュールを設定し、部下の都合に合わせて柔軟に調整することも大切です。形式的な実施ではなく、本当に部下のことを考えていることを行動で示しましょう。
4.5. 成果と成長の両面からの支援
短期的な成果だけでなく、長期的な成長も、労働人口が大幅に減少し人材の重要性が高まる現代においては重要です。1on1では、現在の業務課題の解決だけでなく、部下の将来的なキャリア開発についても話し合うことが効果的です。
部下の強みや興味を把握し、それを活かせる業務や研修機会を提供することで、仕事へのエンゲージメントを高めることができるでしょう。
5. 効果的な1on1をサポートするツール
運用負担を減らしながら1on1の質を向上させるためには、適切なツールの活用が不可欠です。記録の管理やアクションアイテムの追跡を効率化することで、上司の負担を軽減しながら効果を最大化できるでしょう。
5.1. 1on1専用管理ツール
1on1に特化した管理ツールは、面談記録の保存から進捗管理まで一元的に行えます。部下の成長履歴や課題の変遷を可視化することで、より効果的な支援が可能になるのです。
また、定期的なリマインダー機能により、1on1の実施漏れを防ぐこともできます。上司と部下の双方が同じ情報を共有できるため、認識のズレも防げるでしょう。
5.2. タスク管理・プロジェクト管理ツール
一般的なタスク管理ツールでも、1on1のアクションアイテム管理は可能です。既存のプロジェクト管理システムに1on1の項目を追加することで、日常業務との連携を図れます。
進捗状況の可視化機能を活用すれば、アクションアイテムの実行状況を部下と共有しやすくなります。透明性の高い管理により、信頼関係の構築にも寄与するでしょう。
5.3. コミュニケーションプラットフォーム
SlackやMicrosoft Teamsなどのコミュニケーションツールを活用することで、1on1の効果を日常的に維持できます。面談以外の時間でも、気軽に相談できる環境を整えることが重要です。
また、1on1専用のチャンネルを作成し、関連する情報や資料を共有することで、より深い対話をしやすくするのも一つの工夫です。非同期コミュニケーションの活用により、柔軟な支援体制を構築できるでしょう。
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まとめ
● 1on1は適切に実施すれば効果的ですが、前回内容の記憶不足とアクションアイテムの未実行により、逆に離職を促進してしまう場合があります ● 米国と日本では労働文化や組織風土が根本的に異なるため、米国式1on1をそのまま導入しても期待する効果を得られない場合があります ● 離職を防ぐためには、記録の徹底、アクションアイテムの確実な実行が重要です
まずは現在の1on1実践状況を見直し、記録管理の仕組み化から始めてみましょう。

