パーパスを掲げ、ポスターや動画、全社のワークショップと発信を重ねてきたのに、現場の判断に使われている手応えがない。パーパスの浸透がなかなか進まないと感じて、あなたがもどかしい思いをするのは無理もありません。

社内アンケートで「知っている」と答える人が増えても、その言葉を理由に何かを選んだという話は、現場から聞こえてこないことがあります。このずれは、社員の関心や説明の力だけでなく、言葉を「この職場のこの判断」に言い換える場が設計されていないことにも原因があると考えられます。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 発信を重ねて認知は上がっているはずなのに、現場の打ち合わせでパーパスが話題に上らない

● 「自分の仕事とどうつながるのか、説明しにくい」という声を聞き、返す言葉に迷ってしまう

● ポスターや動画を重ねても、浸透が進んでいるのかを何で確かめればよいか分からない

この記事では、浸透が止まる3つの理由と、段階ごとの確かめ方、1on1で使える問いの例、下期に進める手順を紹介します。下期の方針が現場の仕事に下りていくこれからの半年は、パーパスを具体的な判断と結びつけて語りやすい時期です。この半年で判断の事例を集めておけば、次期の経営計画でパーパスと戦略のつながりを示す材料になります。

それでは詳しく見ていきましょう。

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1. パーパスの浸透とは?認知から行動までの4つの段階

「浸透している」とは、どんな状態を指すのでしょうか。ものさしがはっきりしないまま、手探りで取り組みを進めるのは、なかなか大変なことです。

パーパスとは、会社が社会の中で何のために存在するのかを言葉にしたものです。パーパスの浸透とは、その言葉を社員が知って理解し、共感したうえで、日々の仕事の判断に使っている状態をつくることを指します。企業理念やミッションも含め、掲げた言葉を行動につなげる取り組みは、理念浸透とも呼ばれてきました。

1.1. 浸透を「認知・理解・共感・行動」の4つの段階で考える

パーパスの浸透は、認知・理解・共感・行動という4つの段階で考えると整理しやすくなります。認知は、その言葉を知っている段階で、理解は、その言葉の意味と会社がなぜ掲げたのかを説明できる段階を指します。

共感は、自分もその言葉を大切だと思える段階です。そして行動は、仕事で迷ったときに掲げた言葉を判断の理由として使っている段階にあたります。

ポスターや動画といった発信の施策が主に届くのは、認知と理解の段階です。共感と行動は、受け手が自分の仕事に言葉を当てはめて考えたときに起きます。

掲げた言葉が会社の動きを変えるのは、最後の行動の段階まで届いたときです。例えば、パーパスの一文をそらで言える人でも、迷った場面でその言葉を理由に選ぶとは限りません。

1.2. 行動に近い段階ほど、到達する人は少ない

行動に近い段階ほど、そこまで届いている人は少なくなる傾向があります。パーソル総合研究所の「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」(2023年7月公表)は、20〜59歳の正規雇用の就業者を対象にした調査です。

企業理念の内容を「十分理解している」と答えた人は41.8%、「内容について同意できる」と答えた人は44.5%でした。さらに、実践や習慣といった行動に近い段階ほど、割合が低い傾向が見られました。

この調査は企業理念が対象で、回答者は理念浸透の施策がある企業で働く人が中心とみられるため、日本で働く人全体の実態を示す数字ではありません。それでも、行動に近い段階ほど割合が下がるという傾向は、浸透を考えるうえでも参考になります。

2. パーパスが浸透しない3つの理由

取り組みを続けているのに手応えがないと、あなたも「何が足りないのだろう」と悩んでしまうかもしれません。ただ、言葉が行動の段階まで届かない主な理由は3つあり、どれも社員の意欲だけでなく、浸透の進め方の側にもあります。

2.1. 発信が一方向で、受け手の解釈が返ってこない

ポスターや動画、トップのメッセージは、どれも会社から社員へ向かう一方向の発信です。受け手が言葉をどう解釈し、自分の仕事にどう当てはめたのかは、会社の側に返ってきません。

例えば、全社のワークショップで、付箋にたくさんの意見が貼られたとします。その意見が何に使われたのかが参加者に伝わらないまま、半年が過ぎてしまう光景を想像してみてください。

返ってくるものがなければ、手応えは認知の数字で確かめるしかありません。その数字が上がり続けるかぎり、浸透が言い換えの手前で止まっていても気づきにくいのです。

2.2. 言葉が、日々の判断の場面と結びついていない

パーパスは、会社の存在意義を長い時間軸で表した言葉なので、どうしても抽象的になります。一方で、現場の判断はいつも具体的で、納期と品質のようにどちらも大事なものの間で選ぶ場面が少なくありません。

例えば、パーパスに「顧客の挑戦を支える」という言葉があったとします。その会社で、営業の担当者が値引きを求める既存の顧客と、新しい提案に時間をかけたい見込み客のどちらを先にするかで迷っています。

「顧客の挑戦を支える」は、どちらを選ぶ理由にもなりうる言葉で、答えは状況によって変わり、読むだけでは決まりません。どう使うかを誰とも話し合えなければ、言葉に共感していても、判断のときには使いにくいものです。

2.3. 自分の仕事への言い換えが、管理職に任されたまま

掲げた言葉を部署の仕事に言い換える役は、はっきりした取り決めのないまま管理職に任されていることがあります。管理職は、パーパスを策定した議論の場にいなかったかもしれません。

例えば、課会で「うちの仕事はパーパスとどう関係するんですか」と聞かれたとします。言葉がどんな議論を経て選ばれ、どんな判断の場面を想定していたのかを知らなければ、返す言葉に詰まっても無理はありません。

言い換えた内容が意図に合っているかを、確かめる相手もいません。言い換えを試す場として自然なのは1on1や課会ですが、そこで言葉を話題にする決まりも手がかりも用意されていないことがあります。

「説明しにくい」という声は、説明する力の不足だけでなく、言い換えに必要な材料と場が足りないことの表れでもあります。

3. パーパスの浸透を、段階ごとに確かめる方法

浸透の状況を確かめようとしても、あなたの手元にある数字が認知のアンケートだけ、ということは珍しくありません。

確かめ方は、段階ごとに変えましょう。認知はアンケートで分かりますが、行動の段階は、判断の理由としてパーパスが使われた事例を集めなければ見えてきません。

段階 確かめたい状態 確かめ方の例 頻度の目安
認知 掲げた言葉を知っている 社内アンケートの選択式の設問 年1回
理解 なぜ掲げたのかを自分の言葉で説明できる アンケートの自由記述、説明会や研修で出た質問 半期に1回
共感 自分もその言葉を大切だと思える アンケートの同意の設問、ワークショップや面談で出た違和感の声 半期に1回
行動 迷ったときの判断の理由に使っている 部門から集める判断の事例、会議の議事録、1on1や課会で出る話題の傾向 四半期に1回

3.1. 認知のアンケートで分かること、分からないこと

認知のアンケートで分かるのは言葉が社内のどこまで届いたかであり、日々の判断に使われているかどうかまでは分かりません。「知っている」と答える人は、発信を重ねるほど増えやすくなります。

認知の数字は発信の成果として記録し、浸透の到達点としては扱わないようにしましょう。理解や共感まで確かめたいときは、自由記述で「自分の仕事とパーパスのつながり」を書いてもらいましょう。

部門ごとに読むと、言い換えが進んだ部門と、言葉を書き写しただけの部門の違いが見えてきます。

3.2. 行動の段階は「判断の事例」で確かめる

行動の段階を確かめるには、掲げた言葉を理由に何かを選んだり、やめたりした事例を集めるのが近道です。あなたの職場でも、四半期に一度、各部門に「パーパスに照らして判断した場面」を一つか二つ挙げてもらってはいかがでしょうか。

集める事例は、うまくいった話に限りません。言葉に沿おうとして迷った話や、目の前の数字とぶつかった話からも、次に何を整えるべきかが分かります。

事例が一つも挙がらない部門は、言い換えがまだ起きていない部門かもしれません。ただし、評価に響くとなれば数をそろえるための事例が増えてしまうため、事例の数を部門の評価に使うのは避けましょう。事例の数は、どこに支えが必要かを見つけるためだけに使います。

3.3. 送り手の手応えと、受け手の答えを分けて読む

浸透の状況を確かめるときは、送り手の評価と受け手の答えを分けて集め、両者を並べて見ましょう。日本の人事部の「人事白書2022」は、主に企業の人事部門などに尋ねた調査です。

パーパスを明確化できていると答えた企業は50.0%で、そのうち従業員に「浸透している」「やや浸透している」と答えた企業は合わせて72.6%でした。これは人事の側から見た評価で、従業員本人に尋ねた数字ではありません。

1.2で紹介したパーソル総合研究所の調査は、働く人本人に尋ねたものです。企業理念の内容を「十分理解している」と答えた人は41.8%でした。

二つの調査は年も対象も問いも違うため、数字の差をそのまま比べることはできません。ただ、送り手が感じる浸透と受け手の答えのあいだに、開きが出ることがあると考える材料にはなります。

4. パーパスを日々の仕事につなぐ1on1の対話

全社への発信が一人ひとりの仕事にまで届いたのかは、見えにくいものです。そこで頼りになるのが、普段から続けている1on1です。

パーパスを一人ひとりの仕事につなぐ場として、上司と部下が定期的に話す1on1が向いています。全社への発信と違い、1on1では部下が実際に抱えている仕事を材料にでき、部下の解釈をその場で聞き返せるからです。パーソル総合研究所の先の調査も、浸透の鍵として対話の機会と意見の吸い上げ、プロセスの透明性を挙げています。

4.1. 部署の仕事との結びつけ方は、3つの問いで考える

言葉を自分の部署に言い換えるときは、次の3つの問いを順に考えましょう。

  1. このパーパスに対して、自分の部署はどんな仕事で貢献しているか
  2. その貢献のために、今期の部署で特に大事にしたい判断は何か
  3. 部下一人ひとりの仕事では、その判断がどの場面で出てくるか

1つ目と2つ目は管理職が1on1の前に自分で答えを用意しておく問いで、3つ目は部下と一緒に考える問いです。管理職が答えを決めて伝えるより、部下が自分の仕事から場面を挙げるほうが、判断のときに思い出す手がかりになりやすいものです。

2.2の「顧客の挑戦を支える」という言葉を例にとります。営業の部署なら、2つ目の答えは「目先の値引きより、顧客の次の一手につながる提案を優先する」になるかもしれません。

4.2. 1on1で使える問いの例

1on1でパーパスを話題にするときは、言葉そのものより、部下の具体的な仕事の場面から入りましょう。例えば、1on1の終わりに上司が「この1か月で、迷った末に選んだことはありますか」と尋ねたとします。

部下が言葉を持ち出さなくても、判断の理由を語ってくれたなら、それが言い換えの出発点になります。次のような問いを、場面に合わせて選んでみてはいかがでしょうか。

場面 問いの例 ねらい
下期の方針を伝えた後 「下期の方針のうち、パーパスとつながっていると感じるのはどこですか」 方針とパーパスのつながりを、部下の言葉で聞く
最近の仕事の振り返り 「この1か月で、迷った末に選んだことはありますか。何を決め手にしましたか」 判断の場面を具体的に思い出してもらう
迷っている案件の相談 「パーパスに照らすと、この件ではどちらを選びたいですか。それはなぜですか」 言葉を判断の理由に使ってみる
違和感を聞く 「パーパスと実際の仕事のあいだで、ずれを感じる場面はありますか」 つながらない場面を、隠さず出してもらう
次の行動を決める 「次の1か月で、パーパスを意識して試したいことは何ですか」 次の1on1で振り返る約束にする

毎回すべてを使う必要はなく、月に1回、1on1の終わりの5分で一つ聞くだけでも続けられます。前回の答えを次の1on1で振り返れば、その話は一度きりで終わりません。問いの組み立て方は、1on1の質問設計メソッドでも詳しく紹介しています。

4.3. 正しい答えを言わせる場にしない

パーパスについて話すときは、部下に正しい答えを言わせる場にしないようにしましょう。もしあなたが部下の立場で、上司から「パーパスをどう思う?」と聞かれたら、まず期待されている答えを探してしまうかもしれません。

上司が模範解答を持って問いかけると、その答えを探し始める部下もいます。それでは言葉の確認にはなっても、本人の判断の理由にはなりません。

「正直、つながりが見えません」という答えも、言い換えが足りない仕事を知る手がかりとして受け止めましょう。話した内容を評価の材料にしないことも大切で、安心して話せないと感じれば、部下の答えは無難なものに寄りやすくなります。

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5. パーパスを仕事につなぐ仕組みを、下期に整える手順

やることの多い下期に、新しい取り組みを足すのは、あなたにとっても気が重いものです。だからこそ、今ある施策と1on1を生かしながら、無理なく進められる順番を考えてみましょう。

パーパスを日々の仕事につなぐ仕組みは、下期の半年で一巡させましょう。次の手順で進めると、次期の経営計画を立てる時期に、浸透の状況を材料にできます。

  1. 今ある施策と測り方を、4つの段階に当てはめる(10月)
  2. 策定の経緯を管理職に伝え、言い換えを持ち寄る場を設ける(10月〜11月)
  3. 1on1でパーパスにふれる問いを、月に1回使ってもらう(11月〜1月)
  4. 部門ごとに判断の事例を集め、選んで社内に返す(12月〜2月)
  5. 段階ごとの状況と寄せられた声を、次期の経営計画に反映する(3月)

5.1. 管理職に、言い換えの材料と場を渡す

管理職に言い換えを任せるなら、その材料を先に渡しましょう。材料とは、言葉をどんな議論を経て選び、どんな判断の場面を想定していたのかという策定の経緯です。

そのうえで、管理職どうしが自分の部署の言い換えを持ち寄る場を設けましょう。4.1の1つ目と2つ目の答えを見せ合えば、部署ごとの言い換えの幅がそろいます。この場には経営の側も加わり、言い換えがパーパスの意図からずれていれば、その場で補うとよいでしょう。

5.2. 集めた判断の事例を、社内に返す

部門から集めた判断の事例は、いくつかを選んで社内に返しましょう。社内報や全社の会議で紹介すると、社員が抽象的な言葉を自分の仕事に当てはめる手がかりを得やすくなります。事例の種類ごとに、返すときに添えたいことをまとめました。

事例の種類 場面の例 返すときに添えること
言葉を理由に選んだ 短期の売上より、顧客の成果が続く提案を選んだ なぜその判断がパーパスに沿うと考えたか
言葉を理由にやめた 掲げた言葉に合わなくなった慣行の業務を見直した やめたことで、仕事の何が変わったか
迷った・ぶつかった 言葉に沿う選択と、今期の数字の達成が両立しなかった 会社としてどちらを優先するか、その理由

判断が分かれた事例に会社としての考えが添えられていると、言葉を判断にどう使えばよいかが具体的に伝わります。

5.3. 「つながらない」という声に応える

1on1や事例の収集で「パーパスと仕事がつながらない」という声が出たら、その声に応えるところまでを仕組みに入れましょう。

内閣官房・金融庁・経済産業省の「人的資本可視化指針(改訂版)」(2026年)は、経営トップのコミットメントを欠かせないものとしています。あわせて、従業員との対話を通じて長期ビジョンや根幹の価値観への共感を深め、社内に浸透させることも欠かせないとしています。

対話は、聞いて終わりにすると、かえって「言っても変わらない」という経験を残しかねません。声を受けて説明を補ったのか、目標や制度の置き方を見直したのかを、言った側に返しましょう。声に応える仕組みのつくり方については、現場の声を吸い上げる方法が参考になります。

まとめ

● パーパスの浸透は認知・理解・共感・行動の4つの段階で進み、会社の動きを変えるのは行動の段階まで届いたとき

● 浸透が認知の先で止まるのは、発信が一方向で、言葉が判断の場面と結びつかず、言い換えが管理職に任されたままだから

● 行動の段階は判断の事例で確かめ、1on1の問いと管理職どうしの持ち寄りで、言い換えが起きる場をつくる

パーパスが浸透したかどうかは、言葉を知っている人の数より、迷ったときにその言葉を手がかりに選んだ場面がどれだけあるかに表れます。まずは、あなたの職場にある浸透の施策と測り方を4つの段階に並べ、行動の段階を確かめる手段があるかを見直すところから始めてみましょう。