来期の配置を話し合う人材会議の準備が始まる10月は、タレントマネジメントの活用が問われる時期でもあります。自己申告欄の更新を頼み、締切の前に2度目の督促まで送ったのに、戻ってきたキャリアの希望欄には「現状維持」や「特になし」が並んでいる。ここまで手間をかけても報われないと感じるのは、無理もありません。

会議の当日、画面にプロフィールを映していても、話を進めるのは上司の記憶です。「本人は最近、企画の仕事をやってみたいと言っていました」という一言は、システムのどこにも書かれていません。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 入力をお願いするたびに、「これは何に使われるのですか」と聞かれて答えに詰まる

● 去年と同じ文面の自己申告を前に、この情報で何を決めればよいのかと迷ってしまう

● 人材会議で決めた配置の理由を、あとから本人に説明しにくいと感じている

システムを入れても使われない原因は、協力が足りないことだけではなく、人材データが日々の仕事の外にある「入力」から生まれる設計にもあります。この記事では、タレントマネジメントが活用されない3つの理由と、人材データを最新に保つ方法を整理します。いまのシステムを入れ替えずに見直せる棚卸し表と、来期の人材会議までの準備手順も紹介するので、手元の資料と照らしながら読み進めてください。

それでは詳しく見ていきましょう。

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1. タレントマネジメントの活用とは?人材会議で答えられる状態のこと

システムに情報は入っているのに会議では頼りにならない、そんな経験を重ねると、「活用できている」とはどういう状態なのか分からなくなってきますよね。

タレントマネジメントとは、社員一人ひとりの経験や強みと意向を把握して、配置や育成の判断に生かす取り組みです。そのための情報を集めて管理する仕組みが、タレントマネジメントシステムです。

ただし、情報がシステムに入っていることと、活用されていることは同じではありません。この記事では、配置や育成を話し合う場で「この人はどんな人か」に今のデータで答えられる状態を、活用されている状態と呼びます。

1.1. 活用の目安は、人材会議でデータが判断に使われるか

例えば、会議で「この人に次の案件を任せられるだろうか」という問いが出たとします。画面を開いても評価の点数と資格の一覧しか見当たらなかったら、あなたならどう答えますか。

活用できているかどうかは、人材会議でシステムのデータが判断の材料になったかで確かめられます。会議でよく出る問いは、「次に何を任せられるか」「本人は何をしたいと思っているか」「異動したら力を発揮できそうか」といったものです。どれも、評価の点数や資格の一覧だけでは答えにくい問いで、答えが画面になければ、話は参加者の記憶と印象に移っていきます。

印象で決まった配置は、なぜその人なのかを後から説明しにくく、本人にとっても納得しにくいものです。会議の発言が印象に寄るほど、システムに入力する意味も薄れてしまいます。

1.2. 人材データは、変わる速さで3つに分かれる

人材データと一口にいっても更新される速さはそろっておらず、変わる速さで分けると、大きく次の3つになります。

データの種類 例 変わる速さ 更新のきっかけ
基本情報 所属、等級、職歴、資格 遅い 異動・昇格・取得の手続き
評価と実績 評価の結果、目標の達成度 半期〜1年ごと 評価の締め
本人の内面 強み、キャリアの意向、気がかりなこと 速い 決まったきっかけがない

人材会議で問われるのは、表の3つ目にあたる本人の内面であることが多いものです。ところが、更新のきっかけが決まっていないのも、表のなかではこの3つ目だけです。

基本情報や評価は、手続きのたびに記録が残ります。一方で強みや意向には、記録が生まれる手続きがなく、その穴を埋めているのが年に1回の自己申告という形になっています。

2. タレントマネジメントが活用されない3つの理由

何度お願いしても入力が進まないと、「どうして協力してもらえないのだろう」と感じてしまうものです。けれど、タレントマネジメントが活用されない理由は、システムの機能や社員の意識だけではなく、人材データの生まれ方にもあります。

入力が業務の外にあること、更新が年に1回であること、本人の内面が申告欄に書かれにくいことの3つです。

2.1. 入力が業務の外にあり、入力する人の得にならない

あなたが自己申告の入力を頼まれる側だと想像してみてください。日々の仕事とは別に時間を取って入力しても、その情報がいつ、何に使われたのかは伝わってきません。配置の結果を知らされても、申告した内容がどう考慮されたのかは分からないままです。

見返りのない作業は、締切の直前に最低限の文面で済まされやすくなります。そこで督促を重ねると、入力は「やらされるもの」という印象がさらに強まりかねません。

項目が入力されない、あるいは入力されても中身が薄いから会議で使われず、使われないから次の入力もさらに薄くなっていきます。この循環は、督促と項目の更新作業に追われてデータを分析するところまで手が回らなくなるため、制度を運用する側の負担にもなります。

2.2. 年1回の更新では、情報がすぐ古くなる

年に1回の更新では、人材会議の時点のデータが、半年以上前の本人の姿になってしまうことも少なくないのです。そのあいだにも、新しい仕事を任されたり上司が変わったりして、本人の関心や気がかりは動いています。

例えば、春に「現状維持」と書いた人が、夏に新しいプロジェクトへ加わり、秋には別の仕事に興味を持ち始めているかもしれません。意向は、評価の時期に合わせて変わるわけではなく、その時々の仕事や環境に左右されながら動いていくものなのです。

もう一つの問題は、更新から時間がたったデータの古さが、画面からは見えにくいことです。1年前に書かれた意向も、先月書かれた意向も、同じ欄に同じ形で表示されます。

会議の参加者は古さを感じ取ることがあっても、どれが今の情報かを判断する手がかりがありません。その結果、確かめようのないデータより、上司の最近の記憶のほうが信用されやすくなります。

2.3. 意向や強みは、申告欄には書かれにくい

キャリアの意向や強みのような本人の内面は、申告欄の形では書かれにくい情報で、その理由の一つは、申告欄が会社に読まれる文書であることにあります。

あなた自身が、会社に読まれる欄に「本当はこの仕事をやってみたい」と書けるかを考えてみてください。評価や異動に影響するかもしれないと思えば、無難な答えを選ぶ人もいます。

「現状維持」や「特になし」が並ぶのは、書く気がないからとは限りません。書いた結果を予想できないなかで、いちばん安全な答えを選んでいる場合もあります。

もう一つの理由は、意向や強みが本人の中でもまだ言葉になっていないことが多い点です。「次に何をしたいか」と白紙の欄で問われても、すぐには書けないことがあります。

ところが会話の中で「最近、時間を忘れて取り組めた仕事は?」と聞かれると、具体的な話が出てくることがあります。強みも同じで、本人の自己評価より、日々の仕事ぶりを見ている人との対話のほうが見つかりやすい場合もあるのです。

3つの理由と、それぞれの見直しの方向をまとめると、次のようになります。

理由 起きること 見直しの方向
入力が業務の外にある 督促しても文面が薄い 入力する項目を減らす
更新が年に1回 会議の時点で情報が古い 鮮度を指標にする
内面は申告欄に書かれにくい 「現状維持」「特になし」が並ぶ 対話から育て、本人が確認する

3. 人材データの棚卸し|項目ごとに生まれる場所を確かめる

項目が増え続けたタレントマネジメントシステムを前に、どこから手をつければよいのか途方に暮れてしまうこともあります。そんなときの最初の作業は、システムの項目を一つずつ、どこで生まれて誰が更新しているかで棚卸しすることです。棚卸しをすると、手を入れるべき項目と、今のままでよい項目が分かれてきます。

3.1. 棚卸し表に、項目ごとの更新のされ方を書き出す

棚卸し表には、項目ごとに「誰が・いつ更新するか」「業務の副産物として生まれるか」「本人の確認があるか」を書き出しましょう。業務の副産物として生まれる項目とは、仕事や手続きを進めると自然に記録が残る項目のことです。

よくある項目で実際に書き出してみると、たとえば次のような形になります。

項目 誰が・いつ更新するか 業務の副産物として生まれるか 本人の確認 見直しの方向
所属・等級・職歴 異動や昇格の手続きのたび 生まれる 不要(事実の記録) このまま
評価の結果 上司が評価期ごと 生まれる 評価面談で伝える このまま
研修の受講歴・資格 受講や取得のたび 一部は生まれる ある 研修の記録から取り込む
スキルの自己評価 本人が年1回 生まれない 本人が書く 会議で使う項目に絞る
キャリアの意向 本人が年1回 生まれない 本人が書くが、本音とは限らない 対話から育てる
強み・気がかりなこと 本人か上司が年1回 生まれない ないことが多い 対話から育てる

「生まれない」が並ぶ項目ほど督促が必要になり、情報も古くなりやすいものです。反対に、手続きのたびに記録が残る項目は、入力をお願いしなくても新しさが保たれます。見直しの手間をかけるべきなのは、表の下の3行のように本人の申告に頼っている項目です。

3.2. 入力率だけでなく、鮮度を指標にする

人材データの状態を測る指標には、入力率に加えて鮮度を持ちましょう。入力率は督促が行き届いたかを示しますが、会議の時点で今の姿が分かるかどうかは示しません。

鮮度は最終更新からの経過月数で測れるので、指標の例を次の表にまとめました。

指標 測り方 分かること
入力率 項目が埋まっている人の割合 督促が行き届いたか
鮮度 最終更新からの経過月数 会議の時点で、今の姿に近いか
締切以外の更新 年1回の締切のほかに更新された回数 仕事の中で更新が起きているか
参照 人材会議で判断に使われた項目 データが活用されたか

人材会議の資料には、各項目の横に最終更新日を載せておきましょう。古さが見えるだけで、参加者はどの情報を確かめ直すべきかを判断できます。

例えば、キャリアの意向の横に昨年の秋の日付が載っていれば、「これは本人に確かめ直してから決めよう」と会議の場で話が進みやすくなります。

3.3. 会議で使われない項目は、入力をやめる候補にする

項目を減らすのは、あなたがこれまで積み上げてきたものを手放すようで、気が引けるかもしれません。それでも、棚卸しの結果、人材会議の判断に使われていない項目は、入力をやめる候補です。

項目が多いほど1項目あたりの入力は薄くなり、確かめる側の手間も増えます。入力を減らすことは、手を抜くことではなく、残した項目の鮮度を保つための選択です。

4. 人材データを最新に保つ方法|日々の対話から育てる

入力のお願いを工夫しても限界があると感じているなら、データが生まれる場所のほうを見直してみてはいかがでしょうか。タレントマネジメントで本人の内面にあたる人材データを最新に保つには、入力の回数を増やすより、データが生まれる場所を日々の対話に移すほうが現実的です。対話は仕事の中で続いているので、年1回の締切を待たずに情報が新しくなります。

4.1. 意向や強みは、上司との日常の対話で話されている

冒頭で触れた「本人は最近、企画の仕事をやってみたいと言っていました」という一言も、1on1や面談での何気ない会話から生まれた情報です。

意向や強みは、上司と本人の日常の対話で初めて言葉になることが少なくありません。最近うまくいった仕事や、次に挑戦したいことも、その場で話題にのぼります。

ただ、その内容は記録されないまま、上司の記憶の中にだけ残りがちなのです。記憶にだけ残った情報は、上司が異動すれば一緒に失われてしまいます。

見方を変えれば、新しい情報は入力を増やさなくても、日々の対話の中ですでに生まれていて、足りないのはそれを残して人材データにする仕組みです。対話の中で意向や強みが話題になりやすい聞き方には、たとえば次のようなものがあります。

人材データの項目 対話での聞き方の例
強み 「最近、周りから頼られた仕事は何でしたか」
キャリアの意向 「1年後、今より増やしたい仕事と減らしたい仕事は何ですか」
気がかりなこと 「今の仕事や働き方で、気になっていることはありますか」

4.2. 本人が確認してから、データに反映する

対話で話された内容を人材データにするときは、本人の確認を経てから反映しましょう。上司が聞いた内容を本人の確認なしに書き込めば、それは上司の印象の記録と変わりません。

本人が確かめる手順があれば、データの正しさと本人の納得の両方を保てます。この手順は先に挙げた見返りの問題にも関わり、本人の作業は、白紙の欄に一から書くことから、自分の話をもとにした案を確かめることに変わります。

自分の言葉がどう記録されるのかが見え、上司が変わっても話した内容が引き継がれるという実感は、次の対話で率直に話す理由にもなるでしょう。

4.3. 対話の中身は当事者に残し、組織には傾向だけを渡す

1on1で話した内容がそのまま組織に読まれると知っていたら、あなたはどこまで本音を話せるでしょうか、想像してみてください。

対話の中身は、上司と本人の当事者だけが見られるようにしておきましょう。組織に渡すのは、本人が確定したプロフィールの項目と、実施率やテーマの傾向といった集計の情報で足ります。

対話の中身まで組織が読める設計にすると、本人は読まれる前提で言葉を選びやすくなります。そうなれば、申告欄と同じように話が無難なものに寄っていくでしょう。データを最新に保つ仕組みは、本音で話せる場があってはじめて成り立ちます。

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5. 来期の人材会議までの準備手順

やることが多いと、何から手をつければよいのか分からなくなってしまいます。来期の人材会議までの準備は、次の5つの手順で進めていきましょう。

すべてのデータを一度に直す必要はなく、会議で使う問いから逆算して、手を入れる項目を絞るのが進め方の基本です。

  1. 人材会議で答えたい問いを、3つまでに絞る
  2. 棚卸し表で、問いに答える項目とその鮮度を確かめる
  3. 会議で使わない項目は、次の更新から入力をやめる
  4. 意向や強みは、会議前の1on1で話す時間をつくり、本人の確認を経て反映する
  5. 会議の資料に最終更新日を載せ、会議のあとに使われた項目を記録する

会議の日から数えた準備の時期の目安を、手順との対応が分かるように次の表にまとめました。

時期の目安 手順 準備するもの
会議の2か月前 1. 問いを絞る、2. 棚卸し 会議の議題、棚卸し表
会議の1か月前 3. 項目を減らす、4. 1on1で意向を話す 上司への依頼文、聞き方の例
会議の当日 5. 最終更新日を載せる 会議の資料
会議のあと 5. 使われた項目を記録する 振り返りの記録

5.1. 問いを先に決め、項目はあとから選ぶ(手順1・2)

最初に決めるのは、項目の見直しではなく、人材会議で答えたい問いのほうです。たとえば「来期のプロジェクトを任せられる人は誰か」「異動を望んでいる人は誰か」のように、会議の議題から問いを書き出します。

問いが決まれば、棚卸し表のどの項目が答えになるかが分かり、その項目の最終更新が古ければ、会議までに手を入れる対象になります。

5.2. 会議の前の1on1で、意向を話す時間をとる(手順3・4)

意向や強みを会議の前に新しくするには、上司と本人の1on1で話す時間をとりましょう。申告欄の締切を設けて督促するより、「会議までに一度は来期の希望を話しておく」ことを上司に頼むほうが、今の本人の言葉が集まります。

話した内容は、本人に確かめてもらってから記録に残すようにしてください。1on1の時間が増えるぶん、使っていない項目の入力をやめておけば、上司と本人の負担は増えずに済みます。

例えば、いつもの1on1の終わりに少しだけ時間をとって、「来期は、どんな仕事を増やしてみたいですか」と聞いてみるところから始めてもかまいません。

5.3. 会議のあとに、使われた項目を振り返る(手順5)

最終更新日を載せた資料で会議を行ったら、判断に使われた項目と使われなかった項目を記録しましょう。使われた項目は次回も鮮度を保ち、使われなかった項目は、次の棚卸しで減らす候補です。

この記録を続けると、タレントマネジメントシステムが会議の役に立っているかを数字で説明でき、来期の運用を見直す材料にもなります。年に1回の評価だけに頼らず、日々の対話で仕事ぶりを把握する考え方は、パフォーマンスマネジメント完全ガイドで詳しく紹介しています。

まとめ

この記事でお伝えしたことを整理したのが、次の3つの要点です。

● タレントマネジメントの活用とは、人材会議で「この人はどんな人か」に今のデータで答えられる状態のこと

● 活用されない理由は、入力が業務の外にあること、更新が年に1回であること、本人の内面が申告欄に書かれにくいことの3つ

● 意向や強みは日々の対話から育てて本人の確認後に反映し、鮮度を指標として持つと、人材データを最新に保ちやすい

人材会議を上司の印象に頼らずに進められる状態は、督促を増やしても近づきにくいものです。あなたの手元にあるタレントマネジメントシステムも、見直し方しだいで会議の力になります。まずは項目を棚卸し表に書き出し、来期の人材会議で答えたい問いを3つに絞るところから始めてみましょう。