AI時代のマネジメントで、「自分の出番はどこにあるのだろう」と感じたことはありませんか。たたき台を出すつもりで部下の企画書を開くと、論点の並べ方も反論への備えも、すでにAIと相談して整えてあるのですから、戸惑うのは無理もありません。
教えられることが減ったと感じる理由は、あなたの力だけにあるわけではありません。答えを探すことや考えの整理をAIが手伝えるようになったのに、上司の役割は「答えを持って教える人」のままという職場もあるからです。
こんな場面に心当たりはありませんか。
● 部下が持ってきた企画書の構成案が、あなたが口を出す前にAIとの相談で整っている
● キャリアの迷いを、1on1でまずAIに話してみたと聞かされる
● 「この仕事は自分に合っていますか」という問いが、まだ一度も自分には持ち込まれていない
この記事では、部下がAIに何を相談しているかを調査で確かめ、AIにできることと任せるべきでないことを表で分けます。そのうえで、AI時代により重要になる3つの役割を、具体的な行動と確かめ方をつけた表にまとめました。社内やプライベートで生成AIの利用が広がるなか、次の期の目標や研修に役割の見直しを入れておけば、来期の育成と評価の場面で使えます。
それでは詳しく見ていきましょう。
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1. AI時代のマネジメントとは?相談先と上司の仕事で変わったこと
AIが身近になり、部下とどう向き合えばよいか迷う場面が増えるのは、無理もないことです。AI時代のマネジメントとは、生成AIが仕事の相談相手や作業の手伝いとして職場に入ったことを前提に、上司の役割と時間の使い方を組み直すことをいいます。
変わったのは、部下の相談先が一つ増えたことと、上司の準備や記録の作業をAIが手伝えるようになったことの2つです。変わらないものもあるので、両方を分けて押さえておきましょう。
1.1. 部下は、上司に聞く前にAIで考えを整理できる
例えば、部下が持ってきた企画書の構成案が、論点の並べ方も反論への備えも、すでにAIとの相談で整えてあったとします。そんな光景を想像してみてください。
総務省の「情報通信白書」令和8年版(2026年7月公表)によると、生成AIサービスを使ったことがある個人は58.8%でした。前の年度の調査では26.7%だったので、大きく広がっています。
この数字は一度でも使った経験の割合で、仕事で使っている人や、相談に使っている人の割合ではありません。それでも、企画書の構成もキャリアの迷いも、部下がまずAIで整理してから上司のところへ来る場面は、これから珍しくなくなるでしょう。
1.2. 準備と記録は、AIに手伝ってもらえる
「準備と記録で手いっぱいで、部下の話を落ち着いて聞く時間がない」と、あなたも感じたことはありませんか。会議のメモの整理や報告の下書き、面談の前に前回の話を振り返る作業は、AIが手伝えるようになりました。
こうした作業に使っていた時間は、部下と話す時間に回せます。ただし、空いた時間の使い道を決めておかなければ、その時間はほかの作業で埋まってしまうかもしれません。
手伝ってもらえることと、任せてよいことは別です。誰にどの仕事を任せ、どう評価するかを決めるのは、これまでどおり上司が引き受けたい判断です。
2. 部下はAIに何を相談しているか|調査から分かること
「部下は、悩みをまずAIに話しているのだろうか」と気になるのは、無理もありません。結論から言えば、AIは相談先の一つに加わった段階で、上司に代わったわけではありません。
2.1. 最初の相談相手は、同僚と上司が中心
インディードリクルートパートナーズは2026年9月に「AIと仕事に関する日米実態調査(就業者編)」を公表しました。日米の20〜59歳の就業者、それぞれ10,304人に聞いた調査です。
日本で仕事の悩みを最初に相談する相手は、同僚と上司がそれぞれ約3割で、友人・家族は約2割、生成AIは約1割でした。米国では、生成AIと上司がそれぞれ3割を超えています。
米国と比べると、日本ではまだ職場の人が中心です。ただ、最初の相談相手に生成AIを選ぶ人が約1割いることも、この調査から分かります。
2.2. キャリアの悩みは、AIにも相談しやすいと感じる人が少なくない
「この仕事は自分に合っているのかな」という迷いは、上司に切り出しにくいと感じる人もいるものです。同じ調査で、生成AIにキャリアの悩みを相談しやすいと感じる人は、米国で8割弱、日本で6割弱でした。
相談しやすいと感じることと、実際に最初に相談することは同じではありません。それでも、冒頭の場面のようにキャリアの迷いをまずAIに話してみる部下がいるのは、この数字とも合っています。
2.3. AIをよく使う人ほど、人よりAIに話すほうが気楽と感じる割合が高い
パーソル総合研究所の「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」(2026年7月公表)は、正規雇用者3,300名を対象にした調査です。生成AIの利用率は54.3%でした。「人よりAIに話すほうが気楽」と感じる人は、生成AIを週4日以上使う人では31.6%、使う頻度がそれより少ない人では20.1%です。
これは、上司の代わりにAIに相談している人の割合ではなく、気楽に感じる理由もこの数字からは分かりません。そのうえで考えたいのは、AIのほうが話しやすいと感じる部下が、それでも上司に持ち込みたくなる話は何かという点です。次の章では、その手がかりとして、上司とAIの違いを整理します。
3. AIにできること・できないこと|仕事の割り振りや評価を動かすのは誰か
「ここまでAIができるなら、上司は何をすればいいのだろう」と疑問が浮かぶのも、もっともなことです。AIにできることと、できても任せるべきではないことを分けると、答えが見えてきます。
3.1. AIは、聞く・整理する・選択肢を出すことができる
例えば夜、企画書の構成で行き詰まったときも、AIなら時間を選ばずに話を聞いてくれて、何度聞き直しても相手の時間を気にせずに済みます。
考えを整理して選択肢を並べるのも、AIの得意な使い方です。企画書の構成案を比べたり、キャリアの選択肢を書き出したりする場面では、考えがまとまる前の段階でも使えるでしょう。
3.2. AIは、職場の中で物事を動かす立場にない
しかし、AIは職場の中で物事を動かすことができません。キャリアの相談に「この仕事は向いていそうです」と答えることはできても、その仕事を任せることはできないのです。
社内の誰がどの案件を持ち、次の期にどんな仕事が生まれるかも、AIに伝えない限り答えには入りません。評価のように、AIが案を出せたとしても、決めて理由を伝える役は任せるべきではないものもあります。
場面ごとに分けると、AIにできることと、できないこと・任せるべきではないことは次のようになります。
| 場面 | AIにできること | AIにできないこと・任せるべきではないこと |
|---|---|---|
| 悩みを聞く | 時間を選ばずに聞き、話を整理する | 聞いた話をもとに、職場の状況を変える |
| 仕事の進め方 | 構成案や進め方の選択肢を出す | チームの中で仕事を割り振り、優先順位を決める |
| キャリアの相談 | 一般的な道筋や必要なスキルを並べる | 社内の配置や担当の変更を決める |
| 成長の機会 | 練習相手になり、振り返りを手伝う | 挑戦の機会を用意し、仕事を任せる |
| 評価 | 自己評価の文章づくりを手伝う | 評価を決め、その理由を本人に説明する |
| 責任 | 判断の材料を出す | 決めた結果に責任を負う |
3.3. 上司は物事を動かせるが、何でも話してもらえるとは限らない
表の右の列にある仕事を動かせるのは、職場で権限を持つ上司です。その一方で、上司は評価をつける立場でもあるので、何でも話せる相手とは感じにくい部下もいます。
AIは何でも聞いてくれても物事を動かせず、上司は動かせても何でも話してもらえるとは限りません。このずれがあると、部下が本当に聞きたいことは上司のところへ届きにくくなりがちです。
AIが中央の列の作業を手伝う職場では、上司の役割は「答えを持つ人」から、右の列の仕事と、話してもらえる関係づくりに寄っていきます。ところが、管理職研修や評価の項目は、教えて指示する上司を前提にしたままのことがあります。
4. AI時代により重要になる上司の3つの役割
AI時代に、上司に求められることは何なのかと迷うのも、無理はありません。
AIが答えと整理を手伝う職場でより重要性を増すのは、動かす・つなぐ・話してもらえる関係をつくるという3つの役割です。どれも、職場の中で権限と関係を持つ人にしか担えません。
4.1. 動かす|仕事の割り振りと成長の機会を決める
1つ目は、部下がAIと整理した考えを、実際の仕事の割り振りや機会に変える役割です。AIと作った企画書の案は、職場の事情に照らして選び、実行の段取りを決めて初めて仕事になります。答えを教える場面が減っても、答えを仕事に変える場面は、むしろ増えていくのです。
例えば、部下が顧客向けの勉強会の企画をAIと練ってきたとします。次の四半期に一度、実際に開ける枠を用意すれば、その企画は仕事として動き出します。キャリアの選択肢を書き出してきたときも、次の期の担当や目標に一つでも反映できないかを考えてみましょう。
4.2. つなぐ|人と機会、チームの中の関係をつなぐ
2つ目は、部下を社内の人や機会とつなぐ役割です。AIは「詳しい人に聞いてみましょう」と答えられても、実体験に基づくその人との関係性や繋がり方までは教えてくれません。
上司なら、部下の関心に近い経験を持つ人や、他部署で始まる案件を紹介できます。例えば初めての分野の資料づくりで部下が手間取っているなら、その分野の経験がある同僚と話す時間を設けましょう。AIの答えには出てこない社内の事情や過去の経緯・関係性は、そうした会話の中で伝わります。
一人でAIと進められる仕事が増えると、チームの中で知恵を出し合う場面が、意識しないと減っていくかもしれません。誰が何に詳しいかをチームで共有し、教え合う関係をつくることも、つなぐ役割に入ります。
4.3. 話してもらえる関係をつくる|本当に聞きたいことが持ち込まれる場
3つ目は、部下が本当に聞きたいことを持ち込める関係をつくる役割です。「この仕事は自分に合っているのか」という問いは、話しても評価に響かず、話せば何かが変わると思える相手の前でなければ、出てきにくいものです。
例えば、1on1の終わりぎわに、部下が「実は、今の仕事が自分に合っているのか迷っていて」と切り出したとします。そんな一言が出る場を、あなたはつくれているでしょうか。
定期の1on1を守り、評価の話と分けて聞き、聞いた話を4.1の「動かす」につなげましょう。話したことで仕事が変わる経験が重なると、部下は次の話も持ち込みやすくなります。
部下のAI相談を話題にするなら、「最近AIに相談したことで、職場で試してみたいものはありますか」と聞くのも一つの方法です。部下が1on1で本音を控える理由は、1on1で本音が出にくい3つの原因で詳しく紹介しています。
4.4. 3つの役割を、日々の行動に落とす
3つの役割は、具体的な行動と確かめ方まで決めておくと続けやすくなります。あなたの職場の目標や研修にも、この表をたたき台として使ってみてはいかがでしょうか。
| 役割 | AIでは代われない理由 | 行動の例 | 確かめ方の例 |
|---|---|---|---|
| 動かす | 仕事の割り振り・機会・評価を決める権限がある | 部下がAIと整理した案を聞き、次の担当や目標に一つ反映する | 1on1で出た話のうち、担当や目標に反映したものを期末に数える |
| つなぐ | 社内の人と仕事の事情を知っている・関係性がある | 部下の関心に近い経験を持つ人や、他部署の案件を紹介する | 四半期ごとに、部下に紹介した人や機会を書き出す |
| 話してもらえる関係をつくる | 聞いた話を、職場で次の行動につなげられる | 定期の1on1を守り、評価の話と分けて聞く | 部下から持ち込まれる話題が、業務の報告以外に広がっているか |
1on1の時間を、準備と記録より部下の話を聞くことに使えているでしょうか。TONOME Coreは、過去の対話と宿題の進み具合をふまえてAIが次回の話題を提案し、対話を自動で記録・要約します。AIは評価も代行もせず、対話を映す「鏡」として設計しています。上司には問いかけ方へのフィードバックが、部下には振り返りのきっかけが届きます。TONOME Coreの詳細を見る
5. AIを上司の仕事にどう組み込むか|任せることと人が担うことの分け方
上司としてAIをどこまで使ってよいのか悩むのも当然のことです。AIは準備・記録・振り返りに使い、判断と関係づくりは人が担うと分けておきましょう。分けておかないと、AIの出力がそのまま判断の材料になったり、部下のAI相談を否定してしまったりすることがあります。
5.1. 準備・記録・振り返りは、AIに手伝ってもらう
1on1の冒頭で「えーっと、前回何話したっけ」と言ってしまい、部下の顔が曇る。そんな光景を想像してみてください。
1on1の前に前回の話を見返す作業や話題の候補を出す作業は、AIに手伝ってもらいましょう。終わったあとに決まったことと次にやることを整理する作業も同じで、空いた時間は部下の話を聞くことに回せます。
ただし、AIの要約や下書きは、本人と内容を確かめてから残しておきましょう。そうしておけば、記録の食い違いを防げます。
5.2. 評価・割り振り・配置の判断は、人が担う
評価や仕事の割り振り、配置の判断は、AIの出力だけで決めないようにしましょう。判断の理由を部下に説明し、結果に責任を負うのは上司だからです。
1on1の記録をAIで扱うなら、誰が中身を見られるか、評価に使うかどうかを社内で先に決めておく必要があります。決めておく項目は、1on1のAI活用で先に決める6つのこともあわせてご覧ください。
5.3. 部下のAI相談を否定しない
例えば、部下が「AIにも聞いてみたんですが」と切り出したとします。そこで「AIに聞いたの?」と返すと、部下は次から、AIで考えたことを話さなくなるかもしれません。
1on1では、部下がAIで整理した考えも、よい材料になるものです。「AIはどう答えましたか」「そのうち、自分ではどれがしっくりきましたか」と聞けば、部下の考えと迷いの両方が見えてきます。
AIに相談したことを話しても否定されないと分かれば、部下はまとまりきっていない案も持ち込みやすくなります。上司にとっては、部下が何に迷っているかを知る手がかりが増えるのです。
5.4. AIに任せる範囲を確かめる6つのチェック
AIを上司の仕事に組み込むときは、次の6つを確かめましょう。
- 1on1の準備と記録のうち、AIに手伝ってもらう作業を決めている
- AIで空いた時間を、どの部下とのどんな対話に使うか決めている
- AIの要約や下書きを、本人と確かめてから残している
- 評価・割り振り・配置の判断を、AIの出力だけで決めていない
- 部下がAIに相談したことを、否定せずに聞く問いを用意している
- 個人の情報をAIに入れるときの社内のルールを確かめている
あなたの職場で当てはまらない項目があれば、次の1on1までに一つずつ整えておきましょう。
まとめ
AI時代のマネジメントで押さえたいことを、3つに絞って振り返ります。
● 日本では、仕事の悩みを最初に相談する相手はまだ同僚と上司が中心で、AIは相談先の一つに加わったところ
● AIは聞く・整理する・選択肢を出すことはできても、仕事の割り振りや配置、機会、評価を動かすのは職場で権限を持つ上司
● AI時代により重要になるのは動かす・つなぐ・話してもらえる関係をつくるという3つの役割で、準備と記録はAIに手伝ってもらい、判断と関係は人が担う
部下がAIと考えを整理してくるほど、上司の出番は、答えを出すことから、その答えを職場で形にすることへ移っていくと考えられます。まずは次の1on1で、部下が最近AIに相談したことを一つ聞き、その中から職場で動かせることを一つ決めるところから始めてみましょう。

