「1on1にAIを使うツールを入れたい」という相談が届き、審査票を前に手が止まってしまったことはありませんか。社内のAI利用規程には「個人情報を入力しない」とあっても、上司と部下の対話を毎回記録する1on1のAI活用までは想定されていないからです。

全社に生成AIを配ってから1年ほどたちましたが、毎日のように使う人もいれば、ほとんど開かない人もいて、業務の流れに組み込めた例はまだ一部です。そこへ個人の対話データが続けてたまる使い方が加わるのですから、審査の途中で立ち止まってしまうのは無理もありません。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 「個人情報を入力しない」という規程の一文を前に、1on1の記録を認めてよいのか判断できなくなる

● ベンダーに質問を送ったあと、回答が届くまで検討が止まり、会議が「リスクはないのか」という議論に戻ってしまう

● 法務や人事部門、労働組合への確認について、誰がどこまで済ませたのかが分からなくなる

この記事では、1on1のAI活用で対話データを扱う前に決めておく6つのことを、確認先とあわせて表にまとめました。試行から全社展開までの手順も紹介するので、人事部門との最初の打ち合わせや、審査票を見直す材料として使ってください。下期のAI活用の推進計画と来期のDX(デジタルトランスフォーメーション)投資計画に人事領域を載せるなら、下期のうちに結論を出したいところです。

それでは詳しく見ていきましょう。

1on1のAIを審査するとき、対話の中身を誰が見られるのかを説明できるでしょうか。TONOME Coreは、1on1の記録と要約をAIが支える1on1支援ツールです。対話の内容を見られるのは上司と部下の当事者だけで、組織に届くのは実施率やテーマの傾向といった集計情報だけです。TONOME Coreの詳細を見る

1. 1on1のAI活用とは?汎用の生成AIとの違い

「生成AIならすでに社内で使っているのに、1on1に入れるとなぜ審査が別になるのだろう」と感じたことはありませんか。まずは、その違いを整理するところから始めましょう。

1on1のAI活用とは、議事録づくりや要約、振り返りの支援などを通じて上司と部下の1on1にAIを組み込むことです。使う人が必要なときに呼び出す汎用の生成AIと違い、1on1では決まった業務の流れの中でAIが動くため、対話のデータがたまっていきます。

人事領域のように個人の情報を扱う業務へ生成AIを広げるとき、最初に押さえたいのはこの違いです。

1.1. 汎用の生成AIは、使う人が毎回判断して使う

汎用の生成AIでは、何を頼み、何を入力するかを、使う人が毎回考えます。使い方を思いつく人ほどよく使い、思いつかない人はだんだん開かなくなりがちです。

仕事でも私生活でも生成AIを使う人が増えるなか、企業の側はどこまで進んだのでしょうか。総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026年)によると、生成AIの活用方針を定めている日本企業は68.9%(2025年度調査)でした。

前年度の49.7%から上がりましたが、米国・ドイツ・中国と比べるとまだ低い水準です。何らかの業務で生成AIを使っている企業は86.4%で、2024年度の55.2%から大きく増えました。

個人の側では、生成AIを使ったことがある人は58.8%でした。これは一度でも使った経験の割合で、日常的に業務で使っている人の割合ではありません。

会社が方針を定めてツールを配ることと、一人ひとりの業務の流れに組み込まれることは、分けて考えたいところです。全社の生成AIを業務の手順に組み込んで定着させる進め方は、生成AIの定着が進まない3つの理由で詳しく紹介しています。

1.2. 1on1のAIは、対話のデータが続けてたまる

1on1にAIを組み込むと、上司と部下が話した内容が1on1のたびに記録として残るため、データの扱いを使う人がその都度判断する場面はなくなります。

例えば、部下がふと「この先のキャリアに迷っていて」と漏らした一言を想像してみてください。その一言も、話した本人が入力を選んだわけではないまま、記録に残ります。

汎用の生成AIでは使う人の注意に任せていた個人データの扱いを、導入する前に組織として決めておく必要があるので、2つの違いを表にまとめました。

観点 汎用の生成AI 1on1に組み込むAI
使うきっかけ 使う人が必要なときに呼び出す 1on1のたびに動く
入力されるもの 使う人が選んだ文章や資料 上司と部下の対話
含まれる情報 主に使う人の仕事の情報 部下を含む二人の発言
データの残り方 使い方によって変わる 続けてたまる
扱いを決める人 使う人が入力のたびに判断する 組織が導入の前に決める

2. 1on1のAI活用が審査で止まる3つの理由

審査が思うように進まないと、「自分の進め方が悪いのだろうか」と感じてしまうものです。しかし、あなたや関わる人の努力が足りないわけではなく、確認の仕組みが個人の対話データを扱う前提でつくられていないのです。

2.1. 社内のAI利用規程が、入力する人の注意を前提にしている

社内のAI利用規程は、「個人情報や機密情報を入力しない」のように、使う人に注意を求める形で書かれていることが少なくありません。汎用の生成AIでは、入力するのが使う人自身なので、この書き方で運用できました。

ところが1on1のAIでは、対話そのものが記録の対象になります。例えば、体調のことや家族の事情が話の流れで出てきたとき、それも記録に入ってしまう場面を想像してみてください。

「入力しない」という書き方のままでは、この使い方を認めてよいかどうかを判断できません。規程の側に判断の物差しがないことが、審査が止まる一つ目の理由です。

2.2. 確かめる相手が、社内外に分かれている

1on1のAIの審査では確かめる相手が社内外に分かれ、保管や処理の場所、学習への利用といった点は、ベンダーに聞かなければ分かりません。

本人の同意や利用目的の範囲は法務が、1on1の運用や評価制度との関係は人事部門が判断します。労働組合がある会社では、従業員の対話を記録することについて説明が求められる場合もあるでしょう。

確認先が分かれていても、項目の一覧がなければ、誰が何を確かめたのかを審査の場で示せません。会議で「どこまで確認が済んでいますか」と聞かれ、あなたが答えに詰まってしまう場面を想像してみてください。

2.3. 決める項目がないと、懸念が出るたびに議論が戻る

決めるべき項目が整理されていないと、審査の議論は「リスクはないのか」という一般論になりがちです。懸念が一つ出るたびにベンダーへ質問を送り、回答を待つあいだは検討が止まります。

あなたも、そんな繰り返しの中で「結局、何が決まったのだろう」と感じたことがあるかもしれません。項目を先に並べておけば、確かめ終えたことと残っていることを一覧で示せます。止まっているのは判断ではなく、判断に必要な項目の整理です。

3. 1on1のAI活用で先に決める6つのこと

「結局、何から決めればよいのか」とあなたが迷ったときは、次の表を手がかりにしてください。導入の審査に入る前に決めておきたい6つの項目を、誰に確かめるかとあわせてまとめました。

どれもベンダーの回答と社内の判断を組み合わせて決める項目なので、審査票にそのまま加えて使えます。

決めること 確認すること なぜ必要か 誰に確認するか
1. AIに任せる範囲 記録・要約・振り返りの支援に限るか。評価や判定に使わないか 評価に使うと、部下が記録を意識して言葉を選びやすくなる 人事部門・ベンダー
2. 保管と処理の場所 データを保管する国と、AIの処理を行う国。処理を別の事業者に委ねているか 外国にある第三者への提供に当たるかで、本人の同意の要否が変わる ベンダー・法務
3. 学習への利用 対話データがAIの学習に使われないか。契約や規約のどこに書かれているか 応答以外の目的で扱われると、法違反になる可能性がある ベンダー・法務
4. 見られる人 中身を見られるのは誰か。組織に返すのは集計だけか。管理者やベンダーの社員が見られる条件 読まれる前提では、本音が出にくくなる 人事部門・ベンダー
5. 説明・同意と削除 説明の内容と同意の取り方。保存期間、削除の依頼、異動や退職のときの扱い 利用目的の範囲で使い、本人が納得して話せるようにする 法務・人事部門・労働組合
6. 規程と広げ方 規程に書き足す項目と見直しの時期。試行の範囲と、広げるかを決める基準 いまの規程が、個人の対話データを想定していない 規程を所管する部門・法務

3.1. AIに任せる範囲を決める(項目1)

AIに任せる範囲は、記録・要約・次回の話題の準備・振り返りの支援までにとどめてはいかがでしょうか。部下の評価や、人を判定する用途には使わないことも、あわせて決めておきます。

線を引く基準は、AIにできるかどうかではありません。AIは要約や整理が得意で、評価の材料づくりにも使おうと思えば使えるので、任せてよいかどうかで考えましょう。

AIの要約が評価の材料になると知れば、部下は記録に残る前提で言葉を選びやすくなります。任せないことを先に書いておけば、ベンダーに確かめる点もはっきりします。たとえば、個人に点数をつける機能があるか、あるなら止められるかを聞いてみてください。

記録や要約をAIに任せるぶん、上司は相手の表情や間に目を向け、次の一言を選ぶことに集中できます。二人の関係と実体験を持つ人が担うこの部分は、AI時代にいっそう大切になります。

3.2. データの行き先と、学習への利用を確かめる(項目2・3)

データの保管場所とAIの処理が行われる場所は、国の名前までベンダーに聞いておきましょう。生成AIの処理を別の事業者のサービスに委ねているかどうかも、確かめておきたい点です。

個人情報保護法第28条では、外国にある第三者に個人データを提供するときは、原則として本人の同意が必要です。ただし個人情報保護委員会のQ&Aでは、「提供」に当たらない場合が整理されています。クラウド事業者が契約上その個人データを取り扱わず、適切にアクセス制御している場合です。

その場合も、自社の安全管理措置と外国の制度の把握は必要になります。どちらに当たるかは契約の中身で決まるので、ベンダーの「問題ありません」という一言で済ませず、法務と契約書の該当箇所まで確かめましょう。

入力したデータがAIの学習に使われないかも、契約で確かめる項目です。個人情報保護委員会は2023年6月に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しました。

個人情報を含むプロンプトを入力するときは、利用目的の範囲内かを確認するよう求めています。あわせて示しているのが、提供事業者が入力データを機械学習に使わないことなどの確認です。

本人の同意なく入力した個人データが応答以外の目的で扱われると、法違反になる可能性があるためです。規程を見直すときは、個人情報の入力を一律に禁じる内容ではない点も押さえておきましょう。

3.3. 見られる人と、本人への説明を決める(項目4・5)

対話の中身を見られるのは、当事者の二人に限ってはどうでしょうか。組織として把握するのは、実施の有無やテーマの傾向といった集計で足ります。

あわせて、システムの管理者やベンダーの社員が中身を見られる条件も確かめておきます。画面に表示されなくても、管理者の権限で記録を書き出せる場合があるからです。

本人への説明は始める前に行い、何を記録して何に使い、誰が見られるのかを書面で示すと、伝わりやすくなります。

例えば、説明がないまま記録が始まっていたと、あとから知った部下を想像してみてください。話した内容が残っていると知って、次の1on1で言葉を控える人もいます。

同意の取り方に加えて、録音を止めたいときの扱いや記録の保存期間も決めておきましょう。削除を頼まれたときに誰がいつまでに対応するかを書いておくと、試行の途中で迷いません。

3.4. 規程への追記と、見直しの時期を決める(項目6)

社内のAI利用規程には、個人の対話データを扱うAIについての項目を書き足しましょう。書き足す内容は、3.1から3.3で決めたことを規程の言葉に直したものです。

総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、2024年4月の第1.0版に続き、2025年3月に第1.1版が公表されました。2026年3月31日には第1.2版が出ています。

法的な拘束力はありませんが、規程を見直すときに目を通しておきたい文書です。また、個人情報保護法の改正法が2026年7月17日に公布され、公布から2年以内に施行されます。

運用の整理が今後変わる可能性もあるため、規程には見直す時期も書いておきましょう。

4. 対話データの扱いで迷いやすい3つの場面

6つの項目を決めても、運用を始めると判断に迷う場面は出てきて、規程に書かれていなければ、あなたが一人で答えを出すことになりかねません。審査の段階で答えを用意しておきたい3つの場面を整理しましょう。

4.1. 対話の中身を見たいと言われる

例えば、上位の上司から「あの部下の様子が気になるので、記録を見せてもらえないか」と頼まれた場面を想像してみてください。気遣いから出た言葉だからこそ断りにくいのですが、組織として把握するのは集計にとどめましょう。

ここで中身を開くと、上司も部下も読まれる前提で言葉を選びやすくなります。1on1で出てくる迷いや不安には、二人のあいだだからこそ話せる言葉もあります。

例外を設けるなら、誰がどんな条件で見られるのかを規程に書いておきましょう。部下が本音を話しにくくなる理由は、1on1で本音が出にくい3つの原因でも取り上げています。

4.2. 1on1の記録を評価に使いたいと言われる

評価の時期が近づくと、1on1の記録を評価の根拠に使えないかという声が出ることもあります。「せっかく記録があるのだから」と考えるのは、自然なことです。

ただ、AIに評価をさせることと、二人で確かめた記録を見返すことは、分けて考える必要があります。AIの要約をそのまま評価の材料にすると、3.1で決めた範囲から外れます。

記録を評価面談で見返すなら、本人が確認した内容に限り、使い方を事前に説明しておくことが欠かせません。半年前の1on1で話した悩みが、説明のないまま評価面談で持ち出されたら、部下はどう感じるでしょうか。

4.3. 上司の異動や本人の退職で、記録をどうするか

上司が異動したとき、新しい上司が過去の記録を見られるのかを決めておきましょう。記録が引き継がれれば、新しい上司は本人のこれまでの経緯を知ったうえで話せます。

一方で、どこまで引き継がれるかを本人が知らないと、話す内容を控えるようになるかもしれません。そうならないよう、引き継ぐ範囲は始める前の説明に含めておきましょう。

本人が退職したときの保存期間と削除の手順も、試行の前に決めておきたい項目です。

6つの確認項目に、ベンダーの答えを並べてみましょう。TONOME Coreでは、AIは評価も代行もせず、対話を映す「鏡」として設計しています。対話の内容を見られるのは当事者だけで、組織に届くのは傾向だけです。通信と保存データは暗号化し、アクセス権限も分離しています。確認項目への詳しい回答は、お問い合わせいただければセキュリティに関する資料でご案内します。

5. 試行から全社展開までの手順

「決めることは分かったけれど、どう進めればよいのか」と迷うのは当然です。試行から全社展開までは、次の5つの手順で進めてみてはいかがでしょうか。

  1. 試行する部署と期間を決める
  2. 6つの確認項目をベンダーに送り、回答を文書で受け取る
  3. 法務・人事部門・労働組合と、規程の追記案を確かめる
  4. 対象者に説明し、同意を得てから始める
  5. 期間の終わりに、事前に決めた基準で続けるか広げるかを決める

下期のうちに手順5まで進めておけば、来期のDX投資計画に試行の結果を載せられます。

5.1. 試行は、部署を絞って期間を区切る(手順1)

試行は一つか二つの部署で、期間を区切って始めましょう。たとえば3か月と決めておけば、その間に1on1を数回行えるので、記録や閲覧の運用を一通り確かめられます。

AIに前向きな部署だけで試すと、全社に広げたときに出る懸念が見えにくくなります。前向きな部署と慎重な部署を一つずつ選べば、両方の声を集められるでしょう。

例えば「記録が残ると思うと落ち着かない」といった率直な声は、全社展開の前に聞いておきたい手がかりです。

5.2. ベンダーの回答は、確認項目の表のまま受け取る(手順2・3)

ベンダーには3章の表をそのまま送り、項目ごとに文書で答えてもらいましょう。口頭の説明だけでは審査の記録に残せないので、回答は必ず文書で受け取りましょう。

回答がそろったら、法務・人事部門・労働組合と規程の追記案を一緒に確かめます。会議で「この項目は誰が確認したのか」と聞かれても、表を開けばその場で答えられます。

5.3. 広げるかどうかは、試行の前に決めた基準で判断する(手順4・5)

手順4の説明と同意は、3.3で決めた内容を書面で示して行うのが基本です。始める前に、対象となる一人ひとりが納得できているかを確かめましょう。

広げるかどうかの基準は、試行を始める前に決めておきましょう。始めてから基準を決めると、結果に合わせて基準を動かしやすくなるからです。

見ること 確かめ方 判断に使う問い
1on1が続いているか 期間中の実施率の推移 試行の前より、1on1が途切れずに行われたか
本人への説明と同意 同意の状況と、説明への質問 説明を受けて、納得して始められたか
閲覧や削除の運用 閲覧権限の設定と、削除や停止の依頼への対応 決めた手順どおりに対応できたか
上司と部下の受け止め 期間の終わりの短い聞き取り 記録があることで、話しにくくなっていないか
規程との整合 規程では判断できなかった場面 規程に書き足すことが残っていないか

試行の中で出た「規程では判断できなかった場面」は、全社に広げる前に規程へ書き足しましょう。

まとめ

● 1on1のAI活用では対話のデータが続けてたまるため、扱いを使う人の判断に任せず、導入の前に組織として決める必要があります

● 審査が止まるのは慎重さのせいではなく、個人の対話データについて決める項目と確認先が整理されていないからです

● 6つの確認項目を表にしてベンダー・法務・人事部門・労働組合と確かめ、小さく試してから決めた基準で広げます

人事部門からの相談に、「何を決めれば進められるか」で答えられる状態をつくることが、審査を前に進める近道です。あなたが一人で抱え込まなくても進められるよう、まずは6つの確認項目の表を審査票に加え、人事部門と一緒にベンダーへ送るところから始めてみましょう。