10月に入り、下期の生成AIの定着に向けた推進計画をまとめる時期になりました。毎月の利用ログを開くと、利用は一部の部署と一部の人に偏ったままで、研修を開き、プロンプト集を配っても、使う人の数は思ったほど増えていません。手を打ってきたのに数字が動かない状況に、あなたがもどかしさを感じるのは無理もありません。
例えば、同じ研修を受けたのに、ある部署では毎週のように生成AIが使われ、隣の部署ではほとんど開かれていない状況を想像してみてください。違いが部署の単位で出ているなら、原因は一人ひとりの意欲や慣れだけではなく、仕事の進め方の側にもあります。生成AIの定着には、ツールを配って個人に使ってもらう発想から、業務の手順に組み込む発想への切り替えが欠かせません。
こんな場面に心当たりはありませんか。
● 利用ログを開くと、使っているのはいつも決まった部署と決まった顔ぶれになっている
● 研修やプロンプト集のあとも、使う場面が思いつかないまま画面を閉じてしまう人がいる
● 経営会議で「それで、効果は」と聞かれ、利用回数の推移しか示せなかった
この記事では、定着が進まない3つの理由を整理し、利用率の先で見る指標と、業務の流れに組み込む4つの手順を紹介します。使わない理由を本人から聞くための問いも、そのまま使えるように表にまとめました。来期のDX(デジタル変革)投資の計画が固まるまでに、一つの業務で手順が変わった結果を示せれば、「それで、効果は」に業務の変化で答えられます。
それでは詳しく見ていきましょう。
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1. 生成AIの定着とは?利用率との違い
利用率の数字は伸びていても、仕事のやり方が変わったという実感を持てないことがあります。そんなときは、利用率と定着を分けて考えてみてはいかがでしょうか。
生成AIの定着とは、業務の手順の中でAIを使う場面が決まっていて、担当者が替わっても使われ続けている状態です。利用率が示すのは、一定の期間に使った人がどれだけいたかという量で、誰がどの業務でどのくらいの間隔で使い続けているかまでは、利用率だけでは分かりません。
定着を確かめる単位は、個人というより業務とチームです。利用率と定着の違いを、観点ごとに並べると次の表のとおりです。
| 観点 | 利用率で分かること | 定着として確かめること |
|---|---|---|
| 対象 | 期間内に使った人の割合 | AIを使う手順が決まっている業務とチーム |
| 続き方 | その期間の利用の有無 | 数か月後も同じ場面で使われているか |
| 担当の交代 | 分からない | 後任も同じ手順で使っているか |
| 経営への説明 | 何人が使ったか | どの業務の手順が、どう変わったか |
1.1. 企業としての導入と方針づくりは進んでいる
AIの活用を進めようとしているのは、あなたの会社だけではなく、企業として導入し、活用の方針を定める動きも広がっています。
総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月)では、生成AIの活用方針を定めている日本企業が68.9%で、前年度の49.7%から上がっています。何らかの業務で生成AIを使っている日本企業は、「わからない」を除いた集計で86.4%です。この調査の回答者は、デジタル化に取り組む企業の管理職以上です。
一方で、「組織的な取組はない」と答えた日本企業は27.0%で、米国・ドイツ・中国より高い割合でした。これらは企業としての取り組みの数字で、社員一人ひとりの業務の中で使われ続けているかは、別に確かめる必要があります。
1.2. 導入が進んでも、期待を超える効果を感じる企業は一部にとどまる
導入を進めても、期待したほどの効果を実感できないことがあります。PwC Japanは2026年6月に「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較」を公表しました。回答者は、売上高500億円以上の企業で生成AIの導入に関わる課長職以上です。
日本で生成AIを「活用・推進中」と答えたのは87%でしたが、「期待を大きく上回る効果」を得ていると答えたのは、日本では9%でした。米国の38%、英国の32%と比べて低く、6か国の中で最も低い割合でした。
この数字だけでは、日本の割合がなぜ低いのか、その理由までは分かりません。ただ、導入が広がっていることだけでは、期待を超える効果があったことの説明にならないとは言えます。経営から効果を聞かれたときに必要なのは、何人が使ったかより、どの業務がどう変わったかを示す材料です。
2. 生成AIの定着が進まない3つの理由
プライベートではふだんからAIを使っている人でも、仕事では手が止まってしまうことがあります。そう考えると、使われない原因は意欲やデジタルへの慣れだけではなく、AIの配り方と測り方、チームの仕事の進め方の側にもあります。どれも会社として変えられるものなので、一つずつ見ていきましょう。
2.1. 使う場面を、一人ひとりが考えなければならない
汎用の生成AIは業務の流れの外に置かれていて、どの仕事で使うかは、使う人が毎回考えることになります。資料づくりやメールの作成は、ふだん使っている業務のシステムや文書の中で進むからです。
例えば、資料づくりの途中で生成AIを使うなら、手を止めて別の画面を開き、何を頼むかを考えて情報を貼り付け、返ってきた文章を資料に戻すことになります。忙しい時期ほど、あなたもその一手間を省いて、いつものやり方で済ませたくなるかもしれません。
使える場面を自分で見つけた人は使い続けやすく、見つけられなかった人は少しずつ開かなくなっていくこともあります。プロンプト集は頼み方の例を示しますが、自分の仕事のどの作業に当てはめるかを決めるのは、読んだ本人です。使う場面を探す手間が一人ひとりに残っている限り、利用は使い方を思いついた人に偏りやすくなります。
2.2. 利用ログは量を示しても、使わない理由は示さない
利用ログから分かるのは誰がいつ何回使ったかという量で、使っていない人がなぜ使わないのかは、ログには残りません。理由は人によって違い、たとえば、自分の仕事のどこで使えるか分からない人がいます。使ってみたものの、出力の手直しにかえって時間がかかった人もいるでしょう。
社外秘の資料を入れてよいか判断できず、使うのをやめた人もいるかもしれません。理由が違えば打つ手も違い、頼み方が分からない人には研修が役立ちますが、入れてよい情報が分からない人に必要なのは、規程の具体的な例です。ログの数字だけを見て研修を重ねても、研修では解決しない理由を抱えた人は、使い始めにくいままです。
2.3. チームの仕事の進め方が、AIを配る前のまま
AIを使う場面がチームの段取りに入っていないと、個人の工夫は長続きしにくくなります。たとえば議事録をAIで下書きする人がいても、チームの決まりが「会議の3日後までに共有」のままなら、早く仕上げても仕事の流れは変わりません。
担当が替われば、次の人は前任者の工夫を知らないまま、元のやり方に戻ってしまうかもしれません。業務の手順や期限は、チームを率いる立場の人が決めている場合が多いものです。
全社の推進を担う側は、研修やツールを用意できても、各チームの段取りまでは変えられません。管理職の段取りにAIを使う場面が書き込まれない限り、AIは一人ひとりの工夫のままにとどまります。
3. 利用率の先で見る4つの指標
利用率の数字だけでは、あなたが経営に説明しきれないもどかしさを感じることもあるかもしれません。定着を確かめるには、利用率に加えて、利用の頻度・業務の中で使っている場面・効果の実感・使わない理由の4つを見ましょう。利用率は全社の広がりを見るのに使い、4つの指標で業務の中に入っているかを確かめます。
3.1. 定着を見る4つの指標の表
4つの指標は、あとで数字を集められるように、測り方と見る間隔をあわせて決めておきましょう。
| 指標 | 測り方 | 見る間隔 | 分かること |
|---|---|---|---|
| 利用の頻度 | 利用ログを週ごとに集計し、週に何日使ったかで分ける | 毎月 | 試しに使った人と、仕事の中で使っている人の違い |
| 業務の中で使っている場面 | チームごとに、AIを使う手順が決まっている業務を書き出す | 四半期ごと | 個人の工夫か、チームの手順になっているか |
| 効果の実感 | 選んだ業務の所要時間や手直しの量を前後で比べ、担当者に役立ったかを聞く | 組み込んでから1か月後と3か月後 | 経営に説明できる業務の変化 |
| 使わない理由 | チームの振り返りや短いアンケートで、本人の言葉を集める | 四半期ごと | 研修・規程・手順のどれを直すべきか |
3.2. 利用の頻度は、利用率と分けて見る
利用率が上がっていても、毎日の仕事で使う人とときどき試す人とでは、定着の度合いが違います。パーソル総合研究所の「AI環境における人材とマネジメントに関する定量調査」(2026年7月公表)は、正規雇用者3,300名を対象にした調査です。
この調査では、生成AIの業務利用率は54.3%で、2025年10月の41.9%から上がりました。使う頻度では、週4日以上使う人が21.1%、週1〜3日の人が20.7%でした。
自社のログでも、利用率と並べて、週に何日使ったかの分布を毎月見ておくと、数字の中身が見えてきます。
3.3. 効果は、業務を決めてから前後で比べる
効果は、AIを組み込んだ業務ごとに、所要時間や手直しの回数を前後で比べて確かめましょう。全社の合計で「何時間減った」と示そうとしても、どの業務のどの作業が減ったのかを説明できなければ、経営は判断に使いにくくなります。
時間だけが効果とは限らず、たとえば会議の議事録なら、会議から決定事項が共有されるまでの日数も比べられます。担当者に「役に立ったか」「次も使うか」を聞いた答えも、数字と並べて残しておきましょう。
4. 生成AIを業務の流れに組み込む4つの手順
何から手をつければよいのかと、あなたが迷ってしまうのは当然のことです。選ぶ範囲が広いほど、決めることも調整することも増えていくからです。
生成AIを業務の流れに組み込むときは、一つの業務から始め、次の4つの手順で進めましょう。
- 毎週くり返し、形が決まっている業務を一つ選ぶ
- 業務の手順書に、AIを使う場面と確かめ方を書き込む
- チームの段取りに入れ、管理職が手順として決める
- 1か月ごとに振り返り、手順を直す
全社で一斉に広げるより、一つのチームの一つの業務で手順が変わった例をつくるほうが、ほかのチームにも具体的に説明できます。
4.1. 毎週くり返し、形が決まっている業務を選ぶ(手順1)
最初の業務は、くり返し発生し、出来上がりの形がおおむね決まっているものから選びましょう。先に挙げた総務省の白書では、生成AIの社内活用で最も多かったのは議事録やメールの作成補助で、約7割でした。
どちらも部署を問わず発生し、出来上がりの形もある程度決まっている業務なので、選ぶときの目安を、業務の例とあわせて表にしました。
| 選ぶ目安 | 理由 | 当てはまる業務の例 |
|---|---|---|
| 毎週・毎月くり返し発生する | 使う機会が多く、手順として覚えやすい | 定例会議の議事録、週次の報告 |
| 出来上がりの形が決まっている | AIの出力が使えるかを判断しやすい | 訪問後の報告書、よくある問い合わせへの回答の下書き |
| チームの複数の人が担当している | 個人の工夫にとどまらず、チームの手順として決められる | 会議の議事録、社内向けのお知らせ |
| 入れてよい情報が規程で判断できる | 使ってよいかで迷わずに済む | 社内会議の議事録、公開済みの資料の要約 |
個人の情報を扱う業務にAIを組み込むなら、入れてよい情報と記録を見られる人を、始める前に決めておく必要があります。1on1のように個人の対話を扱う場合に先に決めておくことについては、1on1のAI活用で先に決める6つのこともあわせてご覧ください。
4.2. 手順書に、AIを使う場面と確かめ方を書き込む(手順2)
選んだ業務の手順を書き出し、どの段階で生成AIを使い、出力を誰がどう確かめるかを手順書そのものに書き込みましょう。たとえば定例会議の議事録なら、書き込む内容は3段階です。会議中のメモをAIに渡して決定事項と宿題を整理させ、担当者が事実と違う点を直し、当日中に共有する流れです。
プロンプト集の中から、この業務に合う頼み方を一つ選び、手順書のその段階に載せておきましょう。どこで使うかを探す手間がなくなり、使うかどうかを毎回判断する場面が一つ減ります。確かめ方まで書いておくと、AIの出力をそのまま使ってよいのかという迷いも減らせます。
4.3. チームの段取りに入れ、管理職が手順として決める(手順3)
AIを使う手順を決める役割は、その業務を回しているチームの管理職が担う場合が多いものです。手順書の型や相談先は全社で用意し、「このチームでは定例の議事録をこの手順で作る」という決定は、管理職に任せてみてはいかがでしょうか。あわせて、共有の期限や確認する人といった段取りも、新しい手順に合わせて変えてもらいます。
たとえば共有の期限を「会議の3日後」から「当日中」に変えると、AIで下書きを作る理由がチームの側に生まれます。使うかどうかが個人の工夫に左右されず、チームの約束として決まるからです。
4.4. 1か月ごとに振り返り、手順を直す(手順4)
組み込んだ業務は、1か月ごとにチームで振り返りましょう。見るのは手順どおりにAIを使えたか、使わなかった回は何が引っかかったか、所要時間や手直しの量がどう変わったかの3点です。振り返りで出た無理は、手順書を直して次の月に反映します。
10月に業務を選んで11月から始めれば、1月末には3か月分の振り返りがそろいます。3か月続いた手順は、同じ業務を持つほかのチームへ手順書ごと渡しましょう。来期のDX投資の計画には、どの業務の手順がどう変わったかを、振り返りの記録とあわせて載せられます。
毎週・毎月くり返される業務の中にAIを置くと、使うかどうかを毎回考える必要がなくなります。TONOME Coreは、1on1という決まった業務の流れの中でAIが動くように設計しています。対話を自動で記録・要約して次にやることを整理し、前回の宿題を次回のアジェンダに自動でつなげます。対話の内容を見られるのは、上司と部下の当事者だけです。TONOME Coreの詳細を見る
5. 使わない理由を本人から聞く仕組み
使っていない人に「なぜ使わないのですか」と聞くのは、聞く側も聞かれる側も、少し構えてしまうものです。使わない理由はログに残らないので、本人の言葉で聞く場を決まった間隔で設けましょう。聞いた理由ごとに次の手を決め、何を変えたかを本人に返すところまでを、一つの仕組みとして考えます。
5.1. チームの振り返りと1on1で、理由を聞く
使わない理由は、聞く場によって出てくるものが違います。チームの振り返りで出てくるのは、選んだ業務の手順のどこに無理があるかです。
上司と部下の1on1では、ふだんの対話の延長で、本人の仕事のどこにAIを使えそうか、何に迷っているかを聞けます。全社の傾向は、選択肢つきの短いアンケートで集めましょう。
| 問いの例 | 聞く場 | 答えから分かること | 次に打つ手 |
|---|---|---|---|
| 「手順どおりにAIを使えなかった回は、何が引っかかりましたか」 | チームの振り返り | 手順や期限の無理 | 手順書を直す |
| 「いまの仕事で、毎回同じ形で作っているものは何ですか」 | 1on1 | AIを組み込める業務の候補 | 次に選ぶ業務に加える |
| 「AIに入れてよいか迷った情報はありましたか」 | 1on1・アンケート | 規程の分かりにくさ | 規程に具体的な例を足す |
| 「使わない理由に近いものを選んでください」 | アンケート | 全社で多い理由 | 研修・規程・手順のどこを直すかを決める |
1on1で聞くときは、使っていないことを責める場にしないよう気をつけましょう。「なぜ使わないのか」と聞くより、「どの作業に時間がかかっているか」から聞くほうが、本人も答えやすくなります。
5.2. 利用を評価や目標に入れる前に考えること
利用を増やしたいあまり、目標に回数を入れたくなる気持ちは分かります。ただし、生成AIの利用回数を個人の評価や目標に入れるのは、慎重に考えましょう。
回数が目標になると、必要のない場面でも回数を増やす使い方が出てきて、ログの数字が業務の変化を表さなくなります。使わない理由も、評価への影響を気にして言いにくくなるでしょう。
目標に入れるなら、個人の利用回数よりチームとして「この業務の手順をAIを使う形に改めた」かどうかを対象にするほうが、定着の考え方に合います。使わない理由を聞くときにも、答えを個人の評価に使わないことを先に伝えておきましょう。
5.3. 聞いた理由に、変えたことを返す
もしあなたが勇気を出して答えたのに何も変わらなかったら、次に聞かれたときは口が重くなってしまいますよね。集めた理由には、何を変えたかを返しましょう。
「規程に例を足した」「手順書を直した」と伝われば、答えた人は自分の声が扱われたと分かります。理由を聞いたのに何も変わらなければ、次に聞いたときには答えが返ってこなくなるでしょう。
まとめ
生成AIを業務の流れに組み込むために押さえたいことを、3つに絞って振り返ります。
● 生成AIの定着は、利用率の高さより、業務の手順の中でAIを使う場面が決まり、使われ続けているかで確かめる
● 定着が進まないのは、使う場面を一人ひとりが考える配り方、量しか示さないログ、AIを配る前のままのチームの段取りという3つの理由があるから
● 一つの業務を選んで手順書に書き込み、チームの段取りに入れて振り返り、使わない理由を本人の言葉で聞く
経営の「それで、効果は」に答えられるのは、利用回数の推移より業務の手順がどう変わったかの記録です。まずは各部門の管理職と一緒に、毎週くり返されて形が決まっている業務を一つ選び、AIを使う場面を手順書に書き込むところから始めてみましょう。

