秋のキャリア面談を前に、あなたも「どう進めれば本音を聞けるのだろう」と迷っていませんか。これからの希望を書く欄に「特にありません」「今のままで」と並ぶと、キャリア面談の進め方に自信が持てなくなるのも無理はありません。

「特にありません」は、希望がないという意味とは限りません。以前に話した希望がどうなったのかを知らされず、評価に響くかもしれないと感じていれば、何も言わないのがいちばん安全な答えになります。本音が出るかどうかは、面談の中の聞き方だけでなく、面談の外にある流れにも左右されるのです。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 希望を書く欄に、「特にありません」「今のままで」と書かれたシートが戻ってくる

● 異動の希望が出たのに、「伝えておくね」と受け取ったまま、深く聞けずに面談が終わる

● 話した内容がその後どうなったのかが本人に伝わらないまま、次の年の面談の案内が届く

この記事では、キャリア面談の進め方を、面談の中でやることと話した後にやることに分けて整理します。本音が出ない3つの理由と質問例に続けて、約束できない希望への返し方と記録の扱い、面談後の流れを紹介します。秋の面談で聞いた希望を来期の配置の検討まで届け、結果を本人に返す流れを決めておけば、今期の中で一巡させられるでしょう。

それでは詳しく見ていきましょう。

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1. キャリア面談とは?1on1・評価面談との違い

あなたの職場にも面談がいくつもあり、何がどう違うのか分かりにくいと感じるのは、おかしくありません。キャリア面談とは、社員がこれまでの仕事を振り返り、これから伸ばしたい力や挑戦したい仕事を言葉にするための面談です。

目的は、本人が自分のキャリアを考える手がかりを得ることと、会社が本人の意向を知って配置や育成に生かすことの二つです。社内では上司のほか、人事やキャリアコンサルタントが面談を行う場合もあります。上司が面談すれば仕事の任せ方をすぐに変えられる反面、上司は評価者でもあるので、本人は話す内容を選びやすくなることがあります。

厚生労働省が企業の中でこうした支援を進める仕組みとして示しているのが、「セルフ・キャリアドック」です。企業の人材育成の方針にもとづき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせる取り組みです。体系的・定期的に従業員の主体的なキャリア形成を支援する企業内の仕組みで、面談だけで完結させない点に特徴があります。

あわせて、厚生労働省の「能力開発基本調査」(令和7年度、2026年7月公表)の数字も見ておきましょう。正社員向けにキャリアコンサルティングの仕組みを導入している事業所は、48.4%でした。これは仕組みを持つ事業所の割合で、実際に面談を受けた社員の割合ではありません。

1.1. キャリア面談・1on1・評価面談の違い

3つの面談は、目的と話題の時間軸、評価との関係と記録の行き先が違います。

観点 キャリア面談 1on1 評価面談
目的 これからの仕事を考え、意向を言葉にする 日々の仕事の困りごとや成長を話し、次の行動を決める 期間の評価と理由を伝え、次の期待を共有する
話題の時間軸 これまでの経験から数年先まで 前回から次回まで 評価の対象期間
評価との関係 評価に使わないと決めておく 評価の場ではない 評価そのもの
記録の行き先 本人が同意した範囲で、配置や育成の検討へ 当事者の二人 評価の記録として人事へ

1on1と重なる話題もありますが、キャリア面談で話した内容は配置や育成の検討に使われるかもしれません。そのため、話す前に「この話はどこへ行くのか」を気にする人もいます。

1.2. キャリア自律の支援と、離職への心配

キャリア面談は、社員が自分でキャリアを築いていくキャリア自律を支援する手段の一つです。パーソル総合研究所の「従業員のキャリア自律に関する定量調査」は、2021年9月に公表された正社員10,000名ほかへの調査です。

この調査では、キャリア自律を「自分自身のキャリア形成を組織に委ねずに、働く人自らが形成していく」ことと定義しています。キャリア自律度が高い層は低い層に比べ、学習意欲が1.28倍、仕事の充実感が1.26倍でした。

ワーク・エンゲイジメントは1.27倍、個人のパフォーマンスは1.20倍です。いずれも相関を示す数字で、キャリア自律がこれらを高めたという因果を示すものではありません。

キャリアを考える機会を増やすと辞めてしまうのでは、という心配が頭をよぎるのも無理はありません。同研究所が2022年に公開したコラムでは、キャリア自律と転職意向のあいだに統計的に意味のある関係は見られなかったと報告されています。少なくともこのデータからは、キャリア自律が高い人ほど転職を考えているとは言えません。

2. キャリア面談で本音が出ない3つの理由

せっかく時間をとって聞いたのに、返ってくるのは当たり障りのない答えばかりだと、あなたももどかしく感じるのではないでしょうか。本音が出ない理由は、社員の意欲や上司の聞き方だけではありません。

面談の前後の設計にも、本音を遠ざける原因が隠れています。希望のその後が見えないこと、記録の行き先が分からないこと、約束できない希望への返し方がないことの3つです。

2.1. 話した希望のその後が、本人に見えない

例えば、異動を希望したのに、届いたのは配置の結果だけで、希望が検討されたのかどうかも分からないまま、次の年の面談の案内が届いたとします。そんな状況を想像してみてください。

こうした経験が重なると、「話しても何も変わらない」と受け止めて、次の面談で希望を口にしなくなる人もいます。希望が叶わなくても、理由が分かれば、本人は次に何を経験すればよいかを考えられますが、検討されたのかどうかさえ分からなければ、考える材料も残りません。

2.2. 記録を誰が読み、何に使うのかが分からない

面談シートや記録を誰が読み、何に使うのかが分からなければ、本人はいちばん安全な答えを選びやすくなります。例えば「今の部署を離れたい」と書いた内容が、今の上司の評価に響くかもしれないと考えたとします。

そう考えれば、「今のままで」と書いておくほうが、本人にとっては自然な選択です。キャリア面談の記録は、面談した上司のほかに、人事や次の上司が読むこともあります。誰が読み、評価に使うかどうかを面談の前に知らされていないことが、「特にありません」の背景にある場合もあるでしょう。

2.3. 約束できない希望への返し方を、上司が持っていない

異動や昇格のように上司一人では決められない希望が出ると、返す言葉に困ることがあります。「難しいと思う」と言えば本人の意欲を下げ、「伝えておく」と言えば守れない約束になるかもしれません。

そこで、希望を深く聞かずに次の話題へ移るのが、上司にとっていちばん無難な進め方になりがちです。上司には面談シートと実施の依頼が届いていても、返し方や、聞いた後にできることまでは決まっていないことがあります。

3. キャリア面談の進め方と質問例

何から聞けば本音を話してもらえるのか、進め方が決まっていないと迷ってしまうものです。キャリア面談は、次の5つの手順で進めましょう。記録の扱いを先に伝え、過去から順に話を進めると、本人は答えやすくなります。

  1. 面談の目的と、記録を誰が見るかを最初に伝える
  2. これまでの仕事を振り返ってもらう
  3. 今の仕事で感じていることを聞く
  4. これからの希望を、仕事の中身の言葉で聞く
  5. 話した内容を本人の言葉でまとめてもらい、次にやることを決める

過去から聞くのは、これからの希望をいきなり聞かれると答えに詰まる人もいるからです。手応えを感じてきた仕事が先に見えれば、それが希望を考える手がかりになります。

3.1. 面談の最初に、記録の扱いを伝える(手順1)

面談の最初の数分で、面談の目的と記録を見る人、評価に使うかどうかを本人に伝えましょう。「この話は誰が読むのだろう」と気にしたままでは、その先の質問にも身が入りにくいものです。

説明の文面は上司ごとに変えず、制度を運用する側が1枚にまとめて配っておくと安心です。文面に入れる内容は、4.2と4.3であわせて紹介します。

3.2. 過去・現在・これからの順に聞く質問例(手順2〜4)

質問は、過去・現在・これからの順に並べ、どの問いも具体的な場面を思い出せる形にしましょう。

時間軸 ねらい 質問の例
過去 手応えのあった経験を思い出す 「この1年で、いちばん手応えがあった仕事は何でしたか」
過去 力を出せた条件を知る 「その仕事がうまく進んだのは、何がそろっていたからだと思いますか」
現在 今の仕事への実感を聞く 「今の仕事のうち、もっと任されたいと思うのはどの部分ですか」
現在 気がかりを聞く 「今の働き方で、この先も続けるのが難しいと感じることはありますか」
これから 増やしたい仕事を聞く 「来年の今ごろ、今より多く手がけていたい仕事はどれですか」
これから 足りない経験を聞く 「数年後に任されていたい仕事に向けて、まだ足りないと感じる経験は何ですか」

これからの希望は、「企画部に行きたい」のような部署の名前より、「顧客と直接やりとりする仕事を増やしたい」のような仕事の中身の言葉で聞きましょう。部署の名前で出た希望は、叶うか叶わないかの二つに一つになります。仕事の中身の言葉で出た希望なら、今の部署で近い経験をつくれる場合もあります。

3.3. 「特にありません」と返ってきたときの聞き方

例えば、「これからの希望はありますか」と聞いたあとに「特にありません」と返ってきて、会話が止まってしまった場面を想像してみてください。そんな沈黙は、あなたにとっても気まずいものではないでしょうか。

そんなときは、これからの希望を聞き直すより、過去と現在の話に戻りましょう。希望がないのではなく、まだ言葉になっていないだけのこともあるからです。

たとえば「今の仕事で、この先も続けたいのはどの部分ですか」と聞けば、「今のまま」の中身が見えてきます。今のままでいたいという答えも、本人の意向の一つとして記録してかまいません。

3.4. 最後に、本人の言葉でまとめてもらう(手順5)

面談の最後に、話した内容を本人の言葉で短くまとめてもらいましょう。上司がまとめると、上司自身の受け止め方が混ざってしまうこともあるからです。

まとめた内容のうち、上司がすぐに動けることを一つ決め、次の1on1で進み具合を話す日まで決めておけば、年に1回の面談が日々の対話の話題につながります。

4. 約束できない希望への返し方と、記録の扱い

異動の希望を聞いて、返す言葉に詰まってしまうのは無理もありません。約束できない希望が出たとき、上司が約束できるのは結果ではなく、希望の扱われ方です。

希望を誰に伝え、いつ本人に結果を返すのかを約束すれば、叶うかどうか分からない希望でも本人は話しやすくなります。

4.1. 決められない希望には、次に起きることを約束する

希望を聞いたら、上司が自分で決められるものと決められないものに分けて返しましょう。決められない希望には、結果の見込みを語るより、次に何が起きるかを伝えるほうが誠実です。

本人の話 避けたい返し方 返し方の例
別の部署に異動したい 「難しいと思うよ」 「異動は私だけでは決められません。来期の配置を話し合う場で希望として伝え、結果が出たら私から話します」
今の部署にない仕事をしてみたい 「うちの部署では無理だね」 「その仕事に近い経験を、今の部署でつくれないか一緒に考えましょう」
早く昇格したい 「頑張っていれば上がるよ」 「昇格は評価の場で決まります。今の基準に照らして何が足りないかを、評価面談で具体的に話しましょう」
まだ何も決まっていない 「早く決めたほうがいいよ」 「決まっていなくて大丈夫です。半年後にもう一度、一緒に考えましょう」

どの返し方も、結果は約束せず、次に何が起きるかだけを約束しています。その代わり、約束した以上は結果を本人に返すところまでが上司の役目になります。

4.2. 記録を誰が見られるかを決め、本人の同意を取る

キャリア面談の記録は、情報の種類ごとに見られる人を決め、面談の最初に本人へ伝えましょう。人事や次の上司に渡す情報は、渡す前に本人の同意が必要です。

情報 見られる人 本人の確認
面談で話した内容の記録 本人と、面談した上司 記録の中身を本人が確かめる
異動や育成の希望 本人・上司・配置を検討する人事 共有する範囲に本人が同意してから渡す
上司が替わるときの引き継ぎ 次の上司 引き継ぐ内容を本人が確かめる
組織全体の傾向 人事と経営 個人が分からない集計にする

どこまで伝わるかを本人が決められれば、記録に残る前提でも話せる内容は増えるでしょう。

4.3. 評価と切り離すことを、運用で示す

「評価には使いません」と伝えるだけでは、本人の不安が消えないこともあります。上司が評価者を兼ねている場合、言葉だけでは本人が確かめようがないからです。あなたの職場でも、切り離しは次のような目に見える運用で示しましょう。

● キャリア面談は、評価面談とは別の日に行う

● キャリア面談の記録を、評価の資料に添付しない

● 評価を話し合う会議では、キャリア面談の記録を参照しない

この3つを文書にして面談の最初に示せば、約束が守られているかを本人も確かめられます。

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5. キャリア面談で話した後にやること

面談が終わるとほっとして、そのまま次の仕事に戻ってしまうのは、あなただけではありません。面談の後は、次の6つの手順で進めましょう。記録の確認から結果を本人に返すところまでを決めておけば、本人は次の年の面談でも希望を話しやすくなるでしょう。

  1. 面談から1週間以内に、上司が記録をまとめて本人に確かめてもらう
  2. 面談で決めた対応を上司が進め、次の1on1で進み具合を話す
  3. 本人が同意した範囲の希望を、人事に共有する
  4. 来期の配置や育成を話し合う場で、共有された希望を検討する
  5. 検討の結果と理由を、上司から本人に返す
  6. 次のキャリア面談は、前回の記録を二人で読み返すところから始める

5.1. 上司と人事の役割分担を決める

面談の後の流れは、上司と人事のどちらが担うのかを決めておかないと、途中で止まってしまいます。とくに手順5で結果を本人に返す役目は、上司と人事のあいだで抜け落ちやすいところです。

やること 上司 人事
面談の準備 前回の記録を読み返す 面談シートと、記録の扱いの説明文を用意する
面談後の記録 記録をまとめ、本人に確かめてもらう 記録を残す場所と、見られる人を決める
すぐにできる対応 仕事の任せ方を変える、社内で話を聞ける人を紹介する 研修や社内公募などの情報を上司に渡す
希望の検討 本人が同意した範囲で人事に伝える 配置や育成の検討の場に希望を出す
結果を返す 結果と理由を本人に伝える 検討の結果を上司に届ける

上司の裁量でできる対応があれば、異動のように時間のかかる希望でも、本人は待つあいだに手応えを得られます。たとえば顧客と話す仕事を増やしたい人なら、商談への同行がその一つです。

5.2. 希望の行き先を一覧で追う

共有された希望は一覧にし、いつ検討するかと本人に結果を返したかを追いましょう。見る数字の例は、共有した希望のうち本人に結果を返した割合と、面談の記録を本人が確かめた割合です。

面談の実施率が高くても、結果を返した割合が低いままなら、2章で挙げた1つ目の理由はそのまま残ります。希望の欄に「特にありません」以外の言葉が書かれた割合も、翌年の面談で比べてみましょう。

5.3. 年に1回の面談を、日々の1on1につなぐ

キャリアの意向は、年に1回の面談の日だけに生まれるものではありません。日々の1on1でも、任された仕事への手応えや、次に挑戦したいことが話題にのぼります。

キャリア面談で決めたことを1on1で話し続ければ、翌年の面談は前回の続きとして始められるでしょう。日々の対話から人材データを最新に保つ方法は、タレントマネジメントが活用されない3つの理由で紹介しています。

まとめ

キャリア面談の進め方で押さえたいことを、3つに絞って振り返ります。

● キャリア面談は、本人がこれからの仕事を考えて意向を言葉にする場で、1on1や評価面談とは目的と記録の行き先が違う

● 本音が出にくい背景には、希望のその後が見えないこと、記録の行き先が分からないこと、約束できない希望への返し方がないことがある

● 上司が約束するのは結果ではなく希望の扱われ方で、記録の範囲と本人の同意を決め、結果を本人に返すまでを一つの流れにする

「特にありません」を減らすには、面談での聞き方を工夫するだけでなく、話した希望が本人に返ってくる経験を重ねることも必要です。まずは、記録を誰が見るかと評価に使うかどうかを書いた1枚の文面を作り、次の面談の冒頭で伝えるところから始めてみましょう。