気になることがあっても、ネガティブフィードバックの伝え方に迷って言えないまま日が過ぎてしまうとき、自分を責める必要はありません。「パワハラと受け取られたらどうしよう」という不安があれば、黙っておくほうが安全に思えるのは無理もないことです。

例えば、週次会議の資料で、売上の数字が先月のまま残っていた場面を想像してみてください。同じ部下の同じミスは3回目で、その場は自分で数字を直して終わりにしました。半年後の評価面談で触れると、「なぜ、そのとき言ってくれなかったのですか」と返されてしまいます。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 同じミスが続いているのに、「今回は自分で直しておこう」と黙って済ませてしまった

● 「パワハラと思われたら」と考えて、口にしかけた言葉を飲み込んだ

● 気になっていることを、評価面談の時期までずっと心にためている

この記事では、ネガティブフィードバックの伝え方を、パワハラとの境目から伝えた後のフォローまで順にまとめました。境目の表で「どこまでなら伝えてよいか」を確かめ、SBI(状況・行動・影響)の型と例文で「どう言えばよいか」を決められるようにしています。

それでは詳しく見ていきましょう。

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1. ネガティブフィードバックとは?叱責や人格への評価との違い

「注意する」と聞くと、相手を叱ることのように感じて、気が重くなってしまう人もいるかもしれません。けれども、ネガティブフィードバックは叱ることとは別のもので、目的は相手を責めることではありません。

ネガティブフィードバックとは、相手の行動と期待とのずれを伝え、次の行動を変えてもらうための働きかけで、改善点の指摘や注意と呼ばれることもあります。「ネガティブ」とつくのは、相手にとって耳の痛い内容を含むからです。

1.1. 話すのは行動で、人柄や能力ではない

もしあなたが、資料のミスを指摘されたときに「責任感がないね」と言われたら、どう感じるでしょうか。何を直せばよいのか分からず、否定された気持ちだけが残るのではないでしょうか。

ネガティブフィードバックで扱うのは、業務の中で起きた具体的な行動で、資料のミスや期限の遅れなら、次の仕事から変えられるものです。一方で「責任感がない」「向いていない」のような人柄や能力への評価は、言われた側が何を変えればよいのか分かりにくくなります。

ネガティブフィードバックと、叱責や人格への評価との違いを整理すると、次の表のとおりです。

観点 ネガティブフィードバック 叱責・人格への評価
何について話すか 業務の中の具体的な行動 性格や能力、態度全般
目的 次の行動を変えてもらう 反省させる、不満をぶつける
話し方 相手の見方も聞く 一方的に話して終わる
終わり方 次の行動と、確かめる日が決まる 謝罪や反省の言葉で終わる

同じ「注意する」でも、行動について話せば次の一手が決まりますが、人柄について話すと、相手は身構えるだけで終わりやすくなります。

1.2. 先送りするほど、指摘は伝わりにくくなる

言いにくいことを後回しにしたくなるのは自然な気持ちですが、指摘は出来事から時間がたつほど、伝わりにくくなっていきます。

理由の一つは、二人の記憶が薄れることです。あなたも、3か月前の資料のミスを持ち出されたら、そのときの状況を細かく思い出せるでしょうか。

もう一つの理由は、言われなかった期間に、「あのやり方で問題なかった」と受け取ったままになる人もいることです。そこへ半年分の指摘を評価面談でまとめて伝えると、指摘の中身より、今まで黙っていた理由のほうが気になる人もいます。

話が「なぜ今なのか」に移ると、冒頭の場面のような一言が返ってくることもあります。期が終わってから聞いた指摘は、直したくても直す機会が残っておらず、後出しに聞こえやすいものです。

2. ネガティブフィードバックが先送りされる3つの理由

伝えなければと思いながら言えないとき、自分を責めてしまう人もいますが、言えなかったのは勇気が足りなかったからだけではありません。

先送りされる主な理由は、ハラスメントへの不安と関係が気まずくなる不安、そして改善を伝える定期の場がないことの3つです。どれも、伝える人の性格だけでなく、手元の基準と仕事の進め方が関わっています。

2.1. どこからがハラスメントか、確かめる基準がない

「これは指導の範囲だろうか、それとも言い過ぎだろうか」と迷うのは、あなたが相手のことを考えているからこそです。一つ目の理由は、その迷いを確かめるための基準が手元にないことにあります。

ダイヤモンド・コンサルティングオフィスの「ハラスメント実態調査(管理職編)」(2021年12月)は、管理職312名へのネット調査です。対象は、部下を3名以上持つ30〜50代の管理職で、ハラスメントを心配して発言をためらった経験がある人は、8割強にのぼりました。

基準がなければ、迷ったときは言わないほうを選びたくなるものですが、その境目の考え方は3章で整理します。

2.2. 指摘すれば、関係が気まずくなると考えてしまう

指摘した途端に相手の表情が曇り、明日から話しかけにくくなるかもしれないと思うと、足がすくむのは無理もありません。二つ目の理由は、この「関係が気まずくなる」という不安です。

ただ、指摘を受けたくない人ばかりとは限りません。米国のコンサルティング会社Zenger Folkmanが、2014年にHarvard Business Reviewで発表した調査があります。約2,500人に尋ねたところ、改善点の指摘を望む人が57%、称賛を望む人が43%でした。

これは米国のデータで、日本の職場に同じ傾向があるかは分かりません。それでも、指摘を望む人のほうが多い調査がある以上、「指摘すれば相手は嫌がる」と決めつけることはできないと考えられます。

関係を気まずくしているのは、指摘そのものより、指摘がめったにないことのほうかもしれません。ふだん改善の話をしない相手から急に呼ばれると、一度の指摘を自分への判定のように受け取りやすくなります。

2.3. 改善を伝える定期の場がない

忙しい毎日のなかで、わざわざ時間をもらうほどのことだろうかと迷うのは、よくあることです。三つ目の理由は、改善を伝える定期の場がなく、指摘のたびに特別な場を設けることになる点です。

「少し時間をもらえますか」と声をかけた時点で、何か悪いことがあったのかと身構える人もいます。伝える側も、呼び出すほどのことかと迷って次の機会を待ち、待っているうちに次のミスが起きて、伝えたいことが少しずつたまっていきがちです。

3. パワハラとの境目|厚生労働省の定義と適正な指導

「もしパワハラと言われたら」という心配は、相手を傷つけたくないという気持ちの裏返しでもあります。厚生労働省の定義では、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導は、パワハラにあたりません。

伝える前に、定義の3つの要素と適正な指導の範囲を確かめておけば、心配の正体が見えて、言葉も出しやすくなります。

3.1. パワハラは、3つの要素をすべて満たすもの

厚生労働省の「あかるい職場応援団」は、職場のパワーハラスメントを、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であること
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
  3. 労働者の就業環境が害されるものであること

根拠は、労働施策総合推進法と厚生労働省の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)です。事業主には防止のための措置が義務づけられ、大企業は2020年6月から、中小企業は2022年4月から対象になりました。

指導という名目があれば、どんな言い方でも許されるわけではありません。パワハラに該当しないとされるのは、あくまで業務上必要かつ相当な範囲で行われる「適正な」業務指示や指導です。

3.2. 伝える前に確かめたい、適正な指導との境目

伝える前に、自分の言い方が業務上必要かつ相当な範囲に収まっているかを、一度立ち止まって確かめてみましょう。次の表は、定義の2つ目の要素に照らして、確かめたい観点を目安としてまとめたものです。

法令が定める基準そのものではありませんので、あくまで自分の伝え方を見直すための手がかりとして使ってください。

観点 適正な指導に近い伝え方 境目を越えるおそれがある言動
何について 資料のミスや期限の遅れなど、業務上の行動 人格や能力の否定、仕事と関係のない私生活への言及
目的 次の行動を変えてもらう 怒りをぶつける、ほかの人への見せしめにする
場所 1対1で話せる場 ほかの社員の前で、必要以上に責める
時間と回数 短く伝え、次の行動を決めて終える 長い時間をかけて、同じことを繰り返し責める
言葉 事実と影響、期待する行動 大声や威圧的な言い方、処遇をちらつかせる脅し

「適正な指導に近い伝え方」の列のとおりに伝えるなら、指摘そのものを控える理由は小さくなります。ただし、個別のケースがパワハラにあたるかは、具体的な事情をふまえて判断されます。

迷うときは、社内の相談窓口や、社会保険労務士・弁護士などの専門家に確かめましょう。

4. ネガティブフィードバックの伝え方|SBIの型をもとにした6つの手順と例文

いざ伝えるとなると何から話せばよいのか分からなくなりますが、順番を決めておけば、その場で迷う場面を減らせます。

ネガティブフィードバックは、早めに1対1で事実を伝え、部下の見方を聞いてから次の行動を一緒に決める、6つの手順で伝えましょう。

  1. 気づいたら、数日以内に伝える
  2. 1対1で話せる場をつくる
  3. 状況と行動を、事実で伝える
  4. その行動が周りに与えた影響を伝える
  5. 部下の見方を聞く
  6. 次の行動を一緒に決め、確かめる日を決める

手順1と2は伝える時期と場所の決まりで、時間がたつほど伝わりにくくなることは、1.2で触れたとおりです。

ほかの社員の前で指摘すると、内容が正しくても、恥をかかされたと感じる人もいます。手順3と4がSBIの型にあたり、手順5と6で伝えた話を次の行動につなげていきます。

4.1. SBIは、状況・行動・影響の3つで事実を伝える型

SBIは、状況(Situation)・行動(Behavior)・影響(Impact)の3つに分けて事実を伝えるフィードバックの型です。米国のCenter for Creative Leadershipが提唱し、研修などで教えています。Sloan R. Weitzelの『Feedback That Works』(初版2000年)でも紹介されました。

冒頭の場面なら、たとえば次のように伝えられます。「今朝の週次会議の資料で、売上の数字が先月のままになっていました。直前に気づいて直しましたが、そのまま出ていたら先月の数字で議論が進むところでした」。

最初の一文が状況と行動、次の一文が影響にあたり、状況と行動を分けて伝えると、どの場面の何の話かが二人のあいだでそろいます。影響を添えるのは、なぜ直してほしいのかを、相手が自分で判断できるようにするためです。

もしあなたが「気をつけて」とだけ言われたら、何に気をつければよいのか分からないまま、次の仕事に向かうことになります。

4.2. 部下の見方を聞いてから、次の行動を決める

事実と影響を伝えたら、結論を急がずに部下の見方を聞きましょう。行動の理由は外からは見えないことがあり、本人に聞いてみて初めて分かる事情もあるからです。

たとえば数字が更新されなかったのは、元データが更新される前に資料を作り始めているからかもしれません。そうであれば、次の行動は「もっと注意する」ではなく、数字の欄を最後に埋める段取りに変えることになります。

次の行動は、部下自身の言葉で決めてもらいましょう。上司が対策を言い渡すと、その場では「分かりました」と答えるしかないと感じる人もいます。本人が挙げた対策なら、続けられそうかを、その場で一緒に確かめられるのではないでしょうか。

最後に、次の行動が取れたかを確かめる日を決め、伝えた話が宙に浮かないようにしておきましょう。

4.3. 場面別の例文

言葉選びに迷うときは、避けたい言い方を先に知っておくと、少し気持ちが軽くなるものです。よくある場面ごとに並べた伝え方の例は、どれも事実と影響を伝えたうえで、部下の見方を聞く形にしています。

場面 避けたい言い方 伝え方の例
同じミスが続く 「何度言ったら分かるの」 「売上の数字が先月のままだったのは、これで3回目です。直前に直せましたが、どこで更新が漏れるのか一緒に見てもいいですか」
期限に遅れる 「もっと計画的に動いてほしい」 「見積書が約束の金曜に届かず、先方への回答が月曜にずれました。間に合わないと分かったのは、いつごろでしたか」
会議で人の話をさえぎる 「協調性が足りない」 「今日の会議で、ほかのメンバーの説明を途中で2回引き取っていました。説明していた人は最後まで話せなかったようです。どう見えていましたか」
報告が遅れる 「社会人として常識でしょう」 「先週の苦情を知ったのが2日後でした。当日に一言もらえれば、その日のうちにお客様へ電話を入れられました」
部下が事情を話し始めた 「言い訳はいいから」 「そうなった事情を、先に聞かせてください。そのうえで、次にどうするかを決めましょう」

例文は、そのまま読み上げるのではなく、あなたの普段の言葉に置き換えて使ってみてください。評価面談で、期待に届かなかった評価を伝えるときの進め方と例文は、評価フィードバック面談の進め方で詳しく紹介しています。

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5. 伝えた後のフォローと、年上の部下に伝えにくいとき

伝えた直後は、相手がどう受け止めたのか気になって落ち着かないものです。けれども、伝えた後の一言まで含めて、ようやくネガティブフィードバックは完結するのです。

この章では、決めた行動が取れたかの確かめ方と変化への触れ方、そして年上の相手に伝えにくいと感じたときの考え方を取り上げます。

5.1. フォローは、変化に触れるまで続ける

伝えた後のフォローでは、時期ごとに次のことを確かめておくのがおすすめです。

時期 すること 声のかけ方の例
伝えた当日か翌日 決めた次の行動を短く文字にして、部下と共有する 「昨日決めたこと、この書き方で合っていますか」
決めておいた確認日 次の行動が取れたかを一緒に確かめる 「数字の欄を最後に埋めるやり方にしてみて、どうでしたか」
変化が見えたとき 何が変わったかを、その場で具体的に伝える 「今週の資料は数字がすべて更新されていて、手を入れずにそのまま会議に出せました」
変わらなかったとき 責める前に、決めた行動に無理がなかったかを見直す 「決めたやり方で、続けにくいところはありましたか」

変化が見えたときの一言は、省かれやすいものです。直したことに誰も触れなければ、前の指摘は責められた話のまま心に残ることがあります。

反対に、改善を認める一言があれば、同じ出来事が「直せた話」として残りやすくなります。あなたの一言が、次に指摘を受け止めるときの安心にもつながるのではないでしょうか。

5.2. 改善の話を、定期の1on1の流れに組み込む

改善の話を特別な呼び出しにしないために、定期の1on1で前回決めたことを確かめる時間を、毎回とっておきましょう。確かめる時間が決まっていれば、新しい指摘も同じ流れの中で短く伝えられます。

例えば1on1の最初の数分で、「前回決めたこと、その後どうなっていますか」と聞いてみてください。そうした確認が毎回の流れになれば、指摘が「何か悪いことがあったときだけの話」という印象も、少しずつ薄れていきます。

1on1の進め方を組織で決めている場合は、手引きに「前回決めたことの確認」を毎回の議題として入れておきましょう。3章の境目の表を手引きに添えておけば、指摘をためらう理由の一つを、組織として減らすことにもつながります。

5.3. 相手が年上でも、敬意と行動の指摘を分けて伝える

「年上の相手に、こんなことを言ってよいのだろうか」と迷って、言葉を探すうちに時間がたってしまう。遠回しな言い方を選びたくなるのは自然なことですが、そのぶん、何を変えてほしいのかがぼやけてしまいます。

そこで、相手への敬意と、行動についての指摘を分けて伝えましょう。手順は同じで、状況・行動・影響を事実で伝え、違いが出るのは手順5の、相手の見方を聞く場面です。

年齢にかかわらず、今のやり方を選んだ理由をはっきり持っている人もいます。その理由に、今も通じる知恵が含まれている場合もあるため、先に理由を聞き、残したい部分と変えてほしい部分を分けて話しましょう。

経験の長い相手の知識をどう生かし、どの慣習の見直しを求めるかは、ベテラン部下の経験活用術もあわせてご覧ください。

まとめ

ネガティブフィードバックの伝え方で押さえたいことを、3つにまとめます。

● ネガティブフィードバックは、行動と期待とのずれを伝えて次の行動を変えてもらう働きかけで、人柄や能力を評価するものではない

● 指摘が先送りされるのは、ハラスメントの境目を確かめる基準と、改善を伝える定期の場がないから

● 業務上必要かつ相当な範囲で伝え、状況・行動・影響と相手の見方をもとに、次の行動と確かめる日を決める

指摘を評価面談まで持ち越さなければ、相手にも直せるうちに直す機会が生まれます。まずは、いま気になっている指摘を一つ選び、状況・行動・影響に分けて書き出してから、次の1on1で伝えて確かめる日を決めるところから始めてみましょう。