あなたの職場でも、10月に昇格した課長が新任管理職研修を終え、受講後のアンケートの評判も悪くなければ、ひとまず育成は順調だと感じるものですよね。ところが3週間ほどたつと、職場から聞こえてくる話が変わってくることがあります。

これは新任の課長の力量だけで説明できる話ではなく、研修は1〜2日で終わっても、管理職としての仕事は職場に戻った翌日から始まります。その最初の数か月を誰が・いつ・何で支えるのかは決まっていないことがあり、「分かった」が「できる」に変わるまでの時間は、本人に任されがちです。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 昇格した課長の1on1が、自分の案件の締切を理由に後回しになっている

● ようやく開いた1on1でも、何を話せばいいか分からず、前の上司のやり方をなぞっている

● 部長も自分の数字と複数の課を抱えていて、新任の課長を誰がどう支えるのか決まっていない

新任管理職の育成は、研修の日程を組むだけでは終わらないため、研修のあとの3か月まで含めて計画を組み直してみましょう。以下では、新任の課長が最初の3か月でつまずく3つの理由から始め、月ごとの支え方の表と最初の1on1の質問例、上司との振り返りの問いを紹介します。10月に昇格した人の3か月目は12月で、この3か月で支え方を試しておけば、4月の昇格者の育成計画を、試した結果をもとに組めます。

それでは詳しく見ていきましょう。

新任の課長が、最初の1on1を準備も振り返りもないまま迎えていないでしょうか。TONOME Coreは、AIが1on1を支援するツールです。過去の対話と宿題の進み具合をふまえてAIが次回の話題を提案し、対話の記録と要約から次にやることを整理します。TONOME Coreの詳細を見る

1. 新任管理職の育成とは?研修と、研修のあとの3か月

研修の評価が高いと、育成はもう終わったように感じてしまうものです。しかし新任管理職の育成とは、昇格した人が管理職の仕事を身につけ、職場で実際にこなせるようになるまでを支えることです。研修で知識と型を渡すことと、研修のあとに職場で試して振り返る期間を支えることの両方を含みます。

1.1. 研修で「分かる」ことと、職場で「できる」ことは違う

研修で分かったことが、職場ですぐにできるようになるとは限りません。例えば、研修のロールプレイでは落ち着いて聞けたのに、実際に部下の前に座ると沈黙が長く感じられて次の問いが出てこない場面を、想像してみてください。

研修の直後に感じる手応えは、まだ部下と1on1を開いていない時点のものです。新任管理職の立ち上がりを調べた調査は、リクルートマネジメントソリューションズのコラムで紹介されています。

コラムの題名は「新任マネジャーのほとんどがトランジションに苦労している」(2018年公開、2024年更新)です。管理職に就いたあとの適応が「うまくいかなかった」と振り返る人は、20.1%でした。

管理職の仕事が分かるまでの期間は、半年未満が40.5%、1年未満が64.6%、2年未満が80.6%です。研修で渡せるものと、職場で試して身につくものを分けると、次のようになります。

項目 研修で渡せるもの 職場で試して身につくもの
1on1 進め方の型、問いかけの例 部下一人ひとりに合わせた聞き方と、話を続ける間合い
仕事の任せ方 任せる基準の考え方 どの仕事を誰に渡すかの判断と、渡したあとの見守り方
部下の育成 育成計画の立て方 部下の得意と苦手を知り、次の仕事を選ぶこと
時間の使い方 プレイヤーと管理職の役割の違い 自分の案件を減らし、部下と話す時間を予定に入れること

右の列は、職場で試し、うまくいかなかった点を誰かと振り返るなかで少しずつ身につくものです。

1.2. 育成の期間を、就任後の数か月で考える

育成の期間は、研修の日数ではなく就任後の数か月で考えましょう。仕事が身につくのは職場に戻ってからで、その時期に相談できる相手と振り返る場があるかどうかは、研修の計画から抜け落ちやすい部分といえます。

新任の課長が最初に迷いやすいのは、部下との最初の数回の1on1や、自分の案件と管理の仕事がぶつかったときです。

2. 新任管理職が最初の3か月でつまずく3つの理由

新任の課長が思うように動けていないと、つい本人の向き不向きを疑いたくなるかもしれません。しかしつまずくのは、本人の向き不向きだけが理由ではなく、昇格の手続きと研修の計画に次の3つの抜けがあるからです。

本人の性格や部署の忙しさはすぐに変えられなくても、昇格時に手放す仕事や、支える人と時期は来期の計画の中で決められます。

2.1. プレイヤーの仕事が減らないまま、管理の仕事が加わる

昇格しても自分の担当案件が減らなければ、管理の仕事は後回しになりやすくなります。産業能率大学の「上場企業の課長に関する実態調査」では、第7回(2023年)で課長の94.9%が「自身はプレイングマネジャー」と認識していました。第6回(2021年)では、プレイヤー業務が仕事のおよそ半分(50.1%)を占めていました。

例えば、辞令が出た翌週に、担当顧客の引き継ぎ先が決まらないまま、提案書の締切が金曜に迫っているとします。そんな状況では、月曜に入れた部下との1on1より提案書が先になっても、不思議ではありません。

部下との1on1には締切がないぶん、自分の案件より延ばしやすい予定になりがちです。手放す仕事を決める手続きが昇格の流れにないことが、1on1が後回しになる理由の一つです。

2.2. 部下との関係をつくる型が、最初の1回目まで届いていない

研修で1on1の型を習っても、目の前の部下と最初に何を話すかまでは決まっていません。ALL DIFFERENTの「管理職意識調査(2024年 悩み・課題編)」(2024年9月公表)は、同社の管理職研修の受講者415名が対象です。

回答者のうち、1〜3年目の課長クラスにあたる新任管理職では、悩みの1位が「部下の育成」で57.3%でした。

部下の育成に悩むのは、育成への関心が薄いからではないでしょう。どう始めればよいかの手がかりが少ないまま、部下の前に座っていることも理由の一つと考えられます。

前の上司がやっていた1on1を思い出し、「最近どう?」「仕事は順調?」と聞いているうちに、30分が業務の進み具合の確認だけで終わってしまう。そんな時間が、あなたの職場にもあるかもしれません。

手がかりがなければ、自分が受けてきた1on1を手本にしやすくなります。前の上司のやり方をなぞるのは、ほかに参考にできるものが手元にないからともいえます。

2.3. 相談できる相手と、振り返る場が決まっていない

迷ったときに誰に相談するかが決まっていないことも、つまずきの理由の一つです。上司の部長も、自分の数字と複数の課を抱えていることがあり、新任の課長だけに時間を割くのは簡単ではないでしょう。

研修で一緒だった同期の新任とは、研修が終わると顔を合わせる機会が減りやすく、研修を運営した部署からも、職場での日々のやりとりまでは見えません。

例えば、夜に1on1の進め方で迷っても、誰に聞けばよいのか浮かばないまま、翌朝には案件の対応が始まっているとします。上司も同期も運営側も気にかけていても、支える役が誰にも割り振られていないことがあります。

その結果、迷いは本人の中にとどまり、周りが気づくのは部下の不満が表に出てからになりがちです。

3. 就任後3か月の支え方|三者の役割を月ごとに決める

支える人が複数いると、誰がどこまで動けばよいのか、かえって分かりにくくなるものです。そこで就任後の3か月は、新任管理職と上司の部長、育成担当の三者で役割を分けて進めましょう。

月ごとに誰が何をするかを1枚の表にしておけば、支える役が宙に浮きません。あなたの職場に10月に昇格した人がいるなら、たとえば次のように組めます。

時期 新任の課長がやること 上司(部長)がやること 育成担当がやること
1か月目(10月) 部下全員と最初の1on1を行う。手放す仕事を上司と決める 就任時の面談で、期待することと手放す仕事を決める。月1回の振り返りを予定に入れる 上司に支え方の表と振り返りの問いを渡す。研修で扱った1on1の型を1枚にして本人に配る
2か月目(11月) 2回目の1on1で、前回の話の続きを聞く。迷った場面を書き留める 1回目の振り返りで、迷った場面を具体的に聞く 同じ時期に昇格した人が集まる相談の場を1回開く
3か月目(12月) 3か月の1on1を振り返り、次の3か月で変えることを決める 3か月の振り返りで、手放した仕事と1on1の続き具合を確かめる 本人と上司から3か月の様子を聞き、4月の計画に反映する

3.1. 1か月目は、手放す仕事と最初の1on1を決める

最初の1か月で決めるのは、手放す仕事と部下との最初の1on1の日程の2つで、手放す仕事は上司の部長と一緒に決めましょう。

新任の課長が自分から「この案件は渡します」と言い出すのは、周りの目を気にして難しいことがあります。担当している案件を書き出して、部下に渡すもの・上司が引き取るもの・続けるものに分けてみてください。

部下との最初の1on1は、1か月目のうちに全員と一度ずつ行い、最初の1回で話す内容は、4章で紹介します。

3.2. 2か月目は、上司との月1回の振り返りを始める

2か月目からは、上司との振り返りを月1回の予定として開きましょう。「困ったら声をかけてください」と言われていても、会議続きの上司の背中を見て遠慮し、相談を控える人もいます。

30分の枠を先にカレンダーに入れておけば、相談するかどうかを本人が判断しなくて済みます。同じ時期に昇格した人どうしが集まる場も、2か月目に1回あると心強いものです。

ほかの課の新任も同じことで迷っていると分かるだけで、ひとりで抱え込む状態から抜けやすくなるでしょう。

3.3. 3か月目は、次の3か月と来期の計画につなぐ

3か月目には、新任の課長と上司で3か月を振り返り、次の3か月で変えることを決めましょう。管理職の仕事が分かるまでに半年以上かかる人は少なくありません。

3か月で支えを打ち切らず、振り返りの頻度を下げて続けるかどうかを決め、この時期には本人と上司の両方から短く話を聞いておきましょう。

聞くのは、1on1の続き具合と、上司との振り返りが予定どおり開かれたか、何に一番迷ったかの3点です。研修のあとに行動が変わったかを確かめる方法は、研修の効果測定の方法で紹介しています。

4. 最初の1on1で話すこと|新任の課長が使える質問例

最初の1on1を前に「何から話せばいいのだろう」と身構えてしまうのは、ごく自然なことです。新任管理職と部下の最初の1on1は、評価や指示の場にせず、お互いを知ってこれからの約束を決める場にしましょう。最初の1回で「この人には話しても大丈夫だ」と部下が感じれば、2回目以降の1on1も続けやすくなります。

4.1. 最初に、自分の役割と1on1の約束を伝える

最初の数分は、新任の課長から2つのことを伝えましょう。課長になって自分の役割がどう変わったかと、1on1を何のためにどのくらいの頻度で行いたいかです。

あわせて、1on1で聞いた話を本人の了解なしにほかの人へ伝えないことも約束しておきます。約束は口にして終わりではなく、2回目以降も守られていると部下に伝わって、初めて意味を持ちます。

4.2. 最初の1on1の質問例

最初の1on1では、今の仕事と困りごと・これまでの上司との関わり・これからの希望を順に聞きましょう。30分の1on1なら、次の中から4〜5問を選べば十分です。

聞くこと 質問の例 ねらい
今の仕事 「いま一番時間を使っている仕事は何ですか」 部下の仕事の全体と負担を知る
困りごと 「最近、進めにくいと感じていることはありますか」 最初に手を貸せることを見つける
これまでの関わり 「これまでの上司との1on1で、役に立ったのはどんなときでしたか」 前の上司のやり方のうち、部下に合っていたことを引き継ぐ
関わり方の希望 「相談は、どんなタイミングや方法だと話しやすいですか」 部下に合わせた関わり方を決める
これから 「この半年で、できるようになりたいことはありますか」 次に任せる仕事を選ぶ手がかりにする
次回の約束 「次回までに、私が確かめておくことはありますか」 1on1が次につながることを示す

最後の質問は省かないようにしましょう。次回までに課長が何かを確かめて返せば、1on1で話したことが動いたと部下に伝わるからです。

4.3. 元の同僚が部下になったときの最初の1on1

昨日まで同じ立場で働いていた人や、自分より長くその職場にいる人が、部下になることもあります。そうした相手に急に上司として話すと、お互いに気まずく感じることもあるものです。

そんなときは、教える立場に立とうとせず、相手の経験を聞くところから始めてみましょう。たとえば「この課の仕事で、私がまだ分かっていないことを教えてください」と頼む形で始めると、相手の経験を認めたまま話を進められます。

研修で習った1on1を、新任の課長がひとりで試していないでしょうか。AI-OJT研修は、管理職研修とAIの実践支援を組み合わせたプログラムです。月1回90分の集合研修を全3回行う3か月のあいだ、職場の1on1ではTONOME Coreを使い、発話のバランスや質問の傾向を毎回確かめられます。研修費として計上できます。AI-OJT研修の詳細を見る

5. つまずきに早く気づく仕組み|上司との振り返りと本人の振り返り

迷っていても、忙しいなかで自分から切り出すのはためらわれることがあります。そこで、上司との月1回の振り返りと、本人が自分の1on1を振り返る習慣を組み合わせましょう。どちらも、本人が「困っている」と自分から言い出さなくても、迷いが話題に上がる仕組みです。

5.1. 上司との月1回の振り返りで聞く5つの問い

上司の部長が月1回の振り返りで聞く問いは、あらかじめ決めておきましょう。決まった問いがあれば、忙しい上司でも30分で同じことを確かめられます。答えの中に、つまずきのサインが表れることもあるでしょう。

問い 確かめること 気にかけたいサイン
「今月、部下と何回1on1ができましたか」 1on1が続いているか 延期が2回以上続いている
「1on1で、一番話が続いたのはどんな話題でしたか」 部下と話せているか 業務の進み具合の確認だけで終わっている
「手放すと決めた仕事は、手放せていますか」 プレイヤーの仕事が減っているか 部下に渡した案件を、結局自分で進めている
「今月、一番迷ったのはどんな場面でしたか」 何につまずいているか 「特にありません」が続く
「来月、私に手伝ってほしいことはありますか」 上司を頼れているか 頼みごとが一度も出てこない

上司の側では、部下からの相談が課長を通らずに部長へ直接届くようになったときも、サインの一つです。その場合は、課長と部下の関わり方を振り返りの話題にしましょう。

5.2. 本人が自分の1on1を振り返れる記録を残す

新任の課長が1on1のあとに短い振り返りを残すことも、つまずきに早く気づく手がかりになります。書き留めるのは、部下が一番長く話した話題・自分が答えに詰まった場面・次回までに約束したことの3つです。

1on1の直後に数行で残しておけば、上司との振り返りで具体的な場面をもとに話せます。この記録は評価に使わないと、最初に伝えておきましょう。

上司との振り返りでは、記録の中から本人が話したい場面を選んでもらうと進めやすくなります。研修のあとの1on1を日々の振り返りで育てる進め方は、研修で終わらせない。管理職の1on1を育てるでも紹介しています。

5.3. 10月の昇格者の3か月を、4月の育成計画に生かす

10月に昇格した人の3か月で分かったことは、あなたの職場の4月の昇格者の育成計画に、そのまま生かしましょう。次の手順で進めると、研修のあとの3か月を計画に組み込めます。

  1. 10月の昇格者の3か月を、本人と上司の両方から振り返る(12月〜1月)
  2. つまずいた場面を、手放す仕事・最初の1on1・相談相手の3つに分けて整理する(1月)
  3. 4月の昇格者の上司に、就任後3か月の支え方の表と振り返りの問いを渡す(2月〜3月)
  4. 昇格の内示から就任までのあいだに、手放す仕事を本人と上司で決める(3月)
  5. 研修の日程と、上司との振り返りや同期の相談の場の日程を、まとめて予定に入れる(3月〜4月)

手順4を内示の時期に置くのは、就任してからでは目の前の案件に追われて決めにくいからです。研修の予算に、研修のあとの相談の場や振り返りの運営も含めておけば、来期の計画として説明しやすくなります。

まとめ

● 新任管理職の育成は、1〜2日の研修と、職場に戻ってからの数か月の両方で考える

● 最初の3か月でつまずくのは、手放す仕事と最初の1on1の型、相談相手が、昇格と研修の計画の中で決まっていないから

● 就任後3か月の役割を、新任管理職・上司・育成担当の三者で月ごとに決め、上司との月1回の振り返りで迷いを早めに話題にする

あなたの職場でも、研修のあとに「何を話せばいいか分からない」という声が出たら、それは支える仕組みを足す時期が来たという合図です。まずは10月に昇格した人の上司に、11月の振り返りの30分を予定に入れてもらうところから始めてみましょう。