来期の計画と予算を組む時期になると、今期の管理職研修の効果をどう伝えるかが気になってきますよね。研修の効果測定の方法が分からないまま、受講後アンケートの満足度だけを手に、予算の相談へ向かうことになってしまう場合もあります。

行き詰まってしまう原因は、研修の中身や受講した人の意欲だけではありません。学んだことが職場で使われているかを見る場所と手段が、設計の中に置かれていないことがあるのです。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 予算の相談で「で、現場は変わったの?」と聞かれ、手元にあるのが受講後アンケートだけで言葉に詰まる

● 受講した人の上司から「研修のあと、何も変わっていない」という声が、耳に入ってくる

● 満足度は高いのに、職場での行動がどう変わったのかを、誰も確かめられていない

この記事では、管理職研修を例にしながら、効果測定の方法を順番に整理していきます。カークパトリックの4段階評価で測る対象をつかんだうえで、行動の変化を測る3つのステップと、来期の予算説明に入れる項目をお伝えします。11月ごろの予算検討までに、測り方を来期の計画へ組み込む材料として使ってください。

それでは詳しく見ていきましょう。

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1. 研修の効果測定とは?カークパトリックの4段階評価で整理する

「効果測定」と聞くと、専門的な分析が要りそうで、身構えてしまうこともあるかもしれません。けれども考え方はシンプルで、研修の前後で何が変わったかを、あらかじめ決めた基準で確かめることです。

広く使われているカークパトリックの4段階評価は、1959年に提唱され、研修の効果を反応・学習・行動・結果の4つの段階に分けて考えます。のちにフィリップスが、第5段階としてROI(投資対効果)を加えましたが、これはカークパトリック自身が示した段階ではありません。

1.1. 4段階評価で、それぞれ何を測るか

4つの段階は、研修の場ですぐに分かることから、職場や組織で時間をかけて表れることへと順に並んでいます。まずは、どの段階で何を測るのかを、表で整理しておきましょう。

段階 測るもの 方法の例 測る時期の目安
反応(レベル1) 受講者が研修をどう受け止めたか 受講後アンケート 研修の直後
学習(レベル2) 知識やスキルが身についたか 確認テスト、ロールプレイ 研修の直後
行動(レベル3) 職場での行動が変わったか 本人・部下・上司による観察 研修の数か月後
結果(レベル4) 組織の成果が変わったか 業績、離職率、サーベイのスコア 研修から時間がたってから
ROI(第5段階) 費用に見合う効果があったか 成果の金額換算と費用の比較 結果が出たあと

1.2. 満足度が高くても、行動が変わるとは限らない

受講後アンケートの満足度が高いと、うまくいったと感じたくなりますよね。しかし4つの段階は、下の段階が良ければ上の段階も必ず良くなる、という関係にはありません。

例えば、受講した全員が「大変勉強になりました」と答えた管理職研修があったとします。それでも、受講した人が職場で部下との接し方を変えたかどうかは、その回答からは分かりません。

予算の相談で聞かれる「で、現場は変わったの?」はレベル3の行動を問う質問なので、満足度をどれだけ丁寧に示しても答えられません。一方で、いきなり業績や離職率で効果を示そうとしても、これらの数字は研修以外の多くの要因でも動きます。

研修と組織の成果のあいだをつなぐのはレベル3の行動の変化なので、管理職研修の効果測定は、まずここを測れるようにするところから始めましょう。

1.3. 学んだことは、時間とともに使われにくくなる

せっかく学んだことが職場で少しずつ使われなくなると聞くと、残念に感じるかもしれません。研修で学んだことが職場で使われる割合は、時間がたつにつれて下がると推定されています。

よく引かれるのが、「研修で学んだことのうち、職場の行動に表れるのは10%」という数字です。ただ、出典とされる1982年のGeorgensonの論文は、研修担当者の印象をもとにした問いかけであり、実証データではありません。

Fordらも2011年の論文で、この一般化が根拠を欠いたまま受け入れられてきたと論じました。10%という数字は実証の根拠がない通説で、実態は何をどう測るかによって変わります。

参考になる推定として、SaksとBelcourtが2006年に150組織の研修担当者を対象に行った調査があります。学んだ内容を職場で使っている従業員の割合は、受講の直後で約6割と推定されました。6か月後には約4割、1年後には約3割まで下がっています。

ただし、これらは研修担当者による推定であり、実際に測った値ではありません。推定とはいえ、受講後の半年ほどで使われる割合が下がる傾向は読み取れます。

研修による行動変容を確かめるなら、終わってからの数か月を、観察の期間として最初から計画に入れておきましょう。

2. 管理職研修の効果測定が、満足度で止まる3つの理由

満足度のアンケートから先へ進めないのは、あなたの工夫が足りないからではありません。研修と現場のあいだにある、次の3つの構造が、原因になっていることもあるのです。

2.1. 評価が、研修の会場の中で完結している

受講後アンケートも確認テストも、受講者がその場にいるから回収できるため、効果測定の手段の多くは、研修の会場の中で使うように作られています。

一方で行動の変化は、受講した人が職場に戻ってから、部下との日々のやりとりの中で起きます。会場の外で起きることを見る役割が、計画の中で割り振られていないことも少なくありません。

2.2. 変えたい行動が、観察できる言葉になっていない

研修のねらいが「部下育成力の向上」や「対話力の強化」のままだと、受講後に何を観察すればよいかが決まりません。例えば3か月後に「対話力は上がりましたか」と聞かれても、見る人によって答えが分かれてしまいます。

一方で「1on1で部下が話す時間が、上司が話す時間より長い」であれば、誰が見ても同じように判断できるでしょう。観察するものが決まらなければ、研修後もアンケートで「役に立ったか」を聞くことしかできません。

2.3. 研修のあとに、行動を見る人と場所が決まっていない

受講後の行動を誰がどこで見るのかが決まっていないことも、測定が止まる理由です。受講した人の上司や研修を企画する側にも、日常のやりとりをそばで見続けるだけの時間と手段があるとは限りません。

受講した本人にも、余裕があるとは限りません。産業能率大学の「上場企業の課長に関する実態調査」(2021年)では、課長の99.5%がプレイヤーを兼務していました。仕事のおよそ半分(50.1%)も、プレイヤー業務でした。

管理職の負担が増えていることは、2026年8月にリクルートマネジメントソリューションズが公表した、人事と管理職層の意識に関する調査にも表れています。管理職が挙げた最大の課題は「仕事の増加や期待の高まりによる負担増」で、44.9%でした。

この状態で追加のアンケートや報告をお願いしても、回答は形だけになりやすく、長くは続きません。観察の場所は、新しく作るより、すでに続いている業務の中に置くほうが現実的です。

3. 管理職研修の効果測定の方法|行動の変化を測る3つのステップ

測り方を決めようとしても、何から手をつければよいのか迷ってしまいますよね。管理職研修の効果測定は、次の3つのステップで組み立てると、迷わず進めやすくなります。

  1. 研修で変えたい行動を、観察できる形で決める
  2. 研修後3か月の、観察の場所と頻度を決める
  3. 観察した変化を、来期の計画と予算の説明に落とす

3つとも研修が始まる前に決めておくのは、終わってから測り方を考えても、比べるための研修前の状態が残っていないからです。

3.1. 研修で変えたい行動を、観察できる形で決める(ステップ1)

最初のステップでは、研修のテーマごとに、次の3つの条件を満たす行動を、職場で観察できる形で1〜3個決めます。

● 誰が見ても同じ判断になること

● 回数や割合で数えられること

● 研修の内容と結びついていること

例えば、1on1の進め方がテーマなら、「次の1on1では、助言する前に部下の考えを聞く」と決めて職場に戻る受講者を想像してみてください。何を見るかが決まっていれば1か月後の振り返りも具体的になるので、よく扱うテーマの例を表にまとめました。

研修のテーマ 観察できる行動の例 いつ観るか 誰が・何で観るか
傾聴・1on1の進め方 部下が話す時間が、上司が話す時間より長い 毎回の1on1 受講者が、1on1の記録で振り返る
問いかけ 助言する前に、部下の考えを聞く問いを投げている 毎回の1on1 受講者が、1on1の記録で振り返る
期待のすり合わせ 部下が、上司の期待を自分の言葉で言い直している 目標設定面談と中間確認 受講者と部下が、面談の記録で確かめる
フィードバック 行動の事実を挙げて、良かった点と直す点を伝えている 1on1、仕事の振り返り 受講者の上司が、月1回の面談で具体例を聞く

表の行動はあくまで一例で、観察する行動が多すぎると見る側の負担が増えて続かなくなるため、自社の内容に合わせて絞りましょう。

決めた行動は、受講する人にも研修の中で伝えておきましょう。後で何を振り返るかが分かっていれば、学んだことを職場のどの場面で使うかを考えやすくなります。目標設定面談での期待のすり合わせ方は、目標設定面談の進め方とコツで詳しく紹介しています。

3.2. 研修後3か月の、観察の場所と頻度を決める(ステップ2)

2つ目のステップは、決めた行動を、いつ・どこで・誰が観察するかを決めることです。観察する時点は、研修前と、1か月後、3か月後の3つを基本にしましょう。

研修前は比べる基準となる状態を残し、1か月後には学んだことを職場で試しているかを、3か月後にはその行動が一度きりで終わらず続いているかを確かめます。

観察の場所には、次の章で紹介する上司と部下の1on1が使えます。受講した本人と部下、受講した人の上司という3つの立場から観察すると、見方の偏りを減らせるはずです。

ただし、先に見たとおり管理職の負担は増えているため、それぞれに頼むことは月1回、数分で終わる量にとどめましょう。

3.3. 観察した変化を、来期の計画と予算の説明に落とす(ステップ3)

3つ目のステップでは、3か月後に見えた変化を、来期の判断に使える形にまとめます。何を見て何を判断するかを事前に決めておけば、結果が良くても悪くても来期の計画に生かせます。

「結果が思わしくなかったら、どう説明しよう」と不安になるのも当然です。3か月後の結果ごとに、来期の判断を次のように分けておくと、説明の筋道が立てやすくなります。

3か月後に見えたこと 考えられる原因 来期の判断の例
行動を試し、3か月後も続いている 研修の内容と、職場の場面がかみ合っている 同じ設計で対象を広げる
1か月後は試したが、3か月後には元に戻っている 職場で続けるための支えが足りない 研修後の振り返りの場を増やす
研修のあと、ほとんど試されていない 研修の内容が、職場の場面と結びついていない 研修の内容と時期を見直す

変化が小さかった場合でも、何を変えるかを示せれば、結果の良し悪しにかかわらず、来期の予算を説明する材料になります。

4. 追加のアンケートを増やさずに、1on1を観察の場所にする

忙しい毎日の中で、新しいアンケートを増やすのは、あなたにとっても気が重いものです。そこで、研修後の行動を観察する場所として、上司と部下の1on1を使いましょう。

4.1. 1on1には、研修で扱う行動がそのまま表れる

傾聴や問いかけ、フィードバック、期待のすり合わせといった、管理職研修でよく扱うテーマの多くは、1on1の中で実際に使われる行動です。

1on1は月1回や隔週など決まった頻度で続くため、研修前と1か月後、3か月後を比べやすくなります。新しい場を設ける必要がなく、受講した人にも部下にも追加の負担がかかりません。

ただし、1on1が予定どおり行われていることが前提になるため、1on1の実施率そのものを、最初の観察項目にしておきましょう。

4.2. 対話の中身は読まず、本人の振り返りと傾向で見る

1on1を観察の場所にするときは、対話の中身を第三者が読む形にはしないようにしましょう。中身を読まれると分かれば、上司も部下も読まれる前提で言葉を選びやすくなり、見たかった行動が見えにくくなります。

例えば、自分の1on1の内容が研修の評価に使われると知ったら、あなたはいつもどおり本音で話せるでしょうか。言葉を選びたくなる人がいても、無理はありません。

中身を確かめるのは上司と部下の当事者だけにして、組織として集めるのは、1on1の実施率や対話のテーマといった傾向にとどめましょう。発話のバランスや問いかけの変化は、受講した本人が自分の振り返りに使います。

見る範囲をこう分けておけば、部下が本音を話しにくくなる心配も小さくなります。

4.3. 受講者が、自分の1on1を振り返れる記録を残す

行動の変化を最も早く、細かく確かめられるのは受講した本人です。ところが、先週の自分の1on1でどれだけ話し、どんな問いを投げたかを、あなたは正確に思い出せるでしょうか。

1on1のあとに、次の3つの問いで振り返ることを、研修の課題に組み込みましょう。

● 今日の1on1で、自分と部下のどちらが長く話したか

● 助言する前に、部下の考えを聞く問いを投げたか

● 前回決めたことを、今回の1on1で確かめたか

振り返りを1on1の記録とあわせて残しておけば、研修前と3か月後の1on1を本人が比べられます。受講した人の上司は、月1回の面談で「研修のあと、1on1で何を変えましたか」と聞けば、具体的な変化をつかめるでしょう。

受講後に管理職の1on1を育てる進め方は、研修で終わらせない。管理職の1on1を育てるもあわせてご覧ください。

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5. 来期の研修計画と予算の説明に、何を出すか

予算の説明の場は、緊張するものです。あなたが示す計画では、満足度と行動の変化を分け、受講後の観察まで組み込みましょう。

5.1. 満足度と行動の変化を、分けて報告する

満足度は研修の運営がうまくいったかを示す数字として残し、行動の変化は、それとは別の項目として示すのが基本です。二つを混ぜて「満足度が高かったので効果があった」と書くと、先に見たとおり説明が成り立ちません。

今期は行動を観察していなかった場合も、今期の数字を無理に作る必要はありません。今期は満足度しか測れていなかったことを率直に示し、来期は行動を観察する設計に変えると説明するほうが、相手は判断しやすくなります。

来期の計画書や予算の説明資料には、次の項目を入れておきましょう。

項目 書く内容 書き方の例
研修の目的 研修で変えたい行動 1on1で、部下が話す時間を増やす
対象と期間 受講者と、研修後の観察を含めた期間 新任の課長、研修と研修後3か月
測る行動と観察の方法 決めた行動と、いつ・誰が・何で観るか 部下が話す割合を、研修前と1か月後、3か月後に確かめる
今期の結果 満足度と、観察できた範囲の行動の変化 満足度に加え、1on1の実施率の変化
判断の基準 3か月後の結果で、来期の何を決めるか 行動が続いていれば、対象を広げる
費用 研修費と、研修後の支援にかかる費用 集合研修と、振り返りの場の運営

5.2. 投資対効果(ROI)は、行動の変化を示してから考える

予算の説明では、投資対効果(ROI)を求められることもあります。ROIを示すには、組織の成果のうち研修による分を金額で切り分ける必要があり、先に見たとおり簡単ではありません。

まずは行動の変化を確かな材料として示し、組織の成果とのつながりは仮説として添えましょう。「この行動が増えれば、部下の育成にこうつながると考えている」という筋道を、来期の観察で確かめる計画として書くのです。

5.3. 来期の研修計画に、研修後の3か月を含める

来期の計画では、日程だけでなく、研修後3か月の観察と振り返りまでを含めて1つの研修として組みましょう。その期間が計画に入っていれば、来期の今ごろには「研修をやった」ではなく「行動がどう変わったか」を報告できます。

まとめ

● 研修の効果測定では、満足度と行動の変化を分けて考えます。予算の相談で問われるのは、レベル3の行動の変化です

● 効果測定が満足度で止まるのは、研修と現場のあいだに、行動を観察する場所と担当が設計されていないからです

● 変えたい行動を観察できる形で決め、1on1を観察の場所にして研修後3か月を見れば、来期の予算説明に行動の変化を示せます

目指すのは、来期の今ごろ、あなたが「現場は変わったの?」と聞かれたときに、行動の変化で答えられる状態です。研修前の1on1の状態を残す方法もあわせて決めておけば、研修が始まる前に効果測定の準備が整います。

まずは11月ごろの予算検討までに、来期の管理職研修のテーマごとに、観察できる行動を1〜3個書き出すところから始めてみましょう。