あなたが課長に「もう少し部下の育成に時間を使ってほしい」と伝えても、返ってくるのは「時間がない」という言葉だった。プレイングマネージャーの限界を前に、何から手をつければよいのか迷ってしまうのは無理もありません。
担当顧客への対応と部門の会議、本部に出す報告資料で予定表がほぼ埋まるプレイングマネージャーにとって、1on1が延期され続けるのも自然な流れです。それでも「何を減らせばよいのか」は、伝えた側にも伝えられた側にも、はっきりしないままになりがちです。
こんな場面に心当たりはありませんか。
● 「マネジメントに時間を使ってほしい」と伝えたのに、課の1on1がここ数週間、延期のままになっている
● 「時間がない」「正直、きついです」という声が、複数の課から同じように聞こえてくる
● 何を減らせばよいのかが分からないまま、課長の予定表だけが埋まっていく
この記事では、課長の時間がマネジメントに回らない3つの理由を整理したうえで、時間の記録表と棚卸し表、課長と話すときの問いを紹介します。下期が始まったばかりのいま、2週間の記録を取っておけば、来期の組織と人員の計画を、課長の実感だけでなく記録をもとに話し合えます。
それでは詳しく見ていきましょう。
1on1の延期が続く理由に、準備と記録の手間は入っていないでしょうか。TONOME Coreは、AIが1on1を支援するツールです。対話の記録と要約、次回のアジェンダの準備をAIが支え、前回の宿題は次回の話題に自動でつながります。TONOME Coreの詳細を見る
1. プレイングマネージャーの限界とは?課長の時間で起きていること
自分の数字を持ちながら部下の育成も任されているプレイングマネージャーにとって、どちらの仕事にも手を抜けないと感じるのは自然なことです。
プレイングマネージャーの限界とは、プレイヤーの仕事とマネジメントの仕事を兼ねるうちに、マネジメントに回す時間が足りなくなる状態です。どちらの仕事も手を抜けないため、期限のない仕事から後回しになっていき、1on1や部下の育成はその代表といえます。
1.1. 課長の仕事の、およそ半分がプレイヤー業務
課長の仕事のおよそ半分が、プレイヤーとしての仕事に使われているという調査があります。産業能率大学の「上場企業の課長に関する実態調査」は、従業員300人以上の上場企業の課長を対象にした調査です。
2019年の第5回では、仕事に占めるプレイヤー業務の割合は49.1%でした。2021年の第6回では課長の99.5%がプレイヤーを兼務し、プレイヤー業務の割合は50.1%でした。
2023年の第7回でも、94.9%の課長が「自身はプレイングマネジャー」と認識しています。対象は上場企業の課長に限られるものの、3回の調査を通して、プレイングマネージャーという働き方は課長にとってほぼ前提になっていると読めます。
1.2. プレイングマネージャーの限界は、時間の取り合いとして表れる
プレイヤーの仕事とマネジメントの仕事は、同じ課長の時間を取り合う関係です。第5回の調査では、59.0%の課長が「プレイヤー業務がマネジメントに支障がある」と答えました。
取り合いになったとき、先に削られるのは、マネジメントの仕事になりやすいものです。顧客への対応には相手と期限がありますが、1on1や部下の指導は、1週間ずらしてもすぐには何も起きないからです。
たとえば、「今週は提案書の締めがあるので、1on1は来週に回そう」と決めたとします。その一回は小さな判断でも、部下の成長の遅れや相談されないまま大きくなった問題として、数か月後に表れるかもしれません。
2. プレイングマネージャーの時間がマネジメントに回らない3つの理由
「課長の時間の使い方に、何か問題があるのでは」と感じて、モヤモヤしたことはありませんか。ただ、同じ「時間がない」が複数の課から聞こえてくるなら、一人ひとりの段取りだけでは説明がつきません。
プレイングマネージャーの時間がマネジメントに回らないのは、課長の意欲や段取りだけの問題ではありません。成果の見られ方と管理業務の増え方、仕事を減らす決め方という3つの仕組みが、課長の時間をプレイヤーの仕事と管理業務の側へ寄せています。
2.1. 課長の成果が、プレイヤーの数字で見られている
課長の目標に個人の売上や担当案件の数字が入っていれば、課長がプレイヤーの仕事を優先するのは自然な判断です。期末に問われるのがその数字なら、限られた時間をそこへ回すのは合理的だといえます。
育成に力を入れて1on1を続けた課長と、延期を重ねて数字を優先した課長が、期末に同じ評価の資料の前に並ぶ場面を想像してみてください。目標や評価の項目に育成や対話が入っていなければ、二人の違いは資料に残りません。
「マネジメントに時間を使ってほしい」と言いながら評価がプレイヤーの数字で決まるなら、課長は言葉より評価に合わせて動きやすくなります。そのとき見直す対象は、課長の心がけだけでなく、目標と評価の設計にもありそうです。
2.2. 管理業務は足されるが、引かれない
管理業務は、新しい施策が始まるたびに、本部への新しい報告や社内規程への対応、新しいシステムへの入力、部門をまたぐ会議といった形で足されていきます。
足すときには担当部署と目的がはっきりしているのに、役目を終えた報告や会議をやめる担当は決まっていないことがあります。新しい報告や会議が一つ増えるたびに課長の一週間から少しずつ時間が消えていく積み重ねを、想像してみてください。
負担が増えているという受け止め方は、調査にも表れています。産業能率大学の第7回の調査(2023年)では、2019年と比べた職場の変化として「業務量が増えている」を挙げた課長が38.3%いました。
リクルートマネジメントソリューションズは2026年8月、マネジメントについて人事と管理職層の意識を聞いた調査を公表しています。管理職層が挙げた最大の課題は「仕事の増加や期待の高まりによる負担増」で、44.9%でした。
パーソル総合研究所の「中間管理職の就業負担に関する定量調査」(2019年)は、管理職2,000名に聞いた調査です。自身の業務量の増加を課題に挙げた管理職は52.5%で、人手不足は57.5%、後任者不足は56.2%でした。
ただし、調査から分かるのは負担が増えたという受け止め方までで、どの仕事がどれだけ増えたのかは分かりません。あなたの部門で課長の時間を何が占めているかは、実際に測ってみる必要があります。
2.3. 減らす決定を、誰もしていない
「プレイヤーの仕事を減らしてほしい」と伝えたとき、課長が返事に困っているように見えたことはありませんか。何を減らすかの判断が、課長に預けられたままになっているからかもしれません。
課長の時間を占める仕事の中には、課長が自分でやめると決められないものが少なくありません。部門の定例会議は部門が開き、本部への報告は本部が求めていて、担当顧客を部下に渡すにも、課の数字の配分を変える判断がいります。
リクルートマネジメントソリューションズの「ミドル・マネジャーの役割に関する実態調査」(2020年)を見てみましょう。対象は、従業員300名以上が在籍する企業の課長601名で、86.9%が時間配分を変えるのは難しいと答えました。
減らす決定が課長の手元にない仕事が多いなら、課長の工夫だけで配分を変えにくいのは無理もありません。時間を測る手続きと減らす仕事を決める手続きがあれば、課長一人に預けていた判断を部門で引き取れます。
3. 課長の時間を2週間記録する
「課長の時間は、結局何に使われているのだろう」とあなたが思っても、確かめる手段がなければ、話し合いは感覚のぶつけ合いになりがちです。プレイングマネージャーの時間の使い方は、2週間の記録でおおまかにつかめます。1か月の記録は続けにくく、1週間では締めの週かどうかで偏りが出やすいためです。
3.1. 記録の前に、評価に使わないと約束する
記録表を渡された課長が、「これを書いたら評価に響くのでは」と不安になるのは無理もありません。評価に使われると思えば、部下との対話の時間を多めに書き、プレイヤーの仕事を少なめに書くかもしれず、そうなると減らすべき仕事が記録から見えなくなります。
だからこそ、記録を頼む前に、目的は課長を評価することではなく、部門で減らす仕事を決めることだと伝えましょう。約束は口頭だけでなく、記録を頼む連絡の文面にも書いておくと安心できます。
書くのは「記録を見るのは本人と、減らす仕事を一緒に決める相手だけ」「課長どうしで順位をつけない」の2点です。順位をつけないのは、課の人数や担当の重さが違えば時間の使い方も違うのが当然だからです。
3.2. 記録の手順と記録表
記録は、1日の終わりに5分で書ける形にしましょう。ただでさえ忙しいなかで記録そのものが負担になると、2週間は続きにくくなるため、手順は次の6つだけです。
- 締めの週を含む、連続した2週間を選ぶ
- 仕事の区分を6つにそろえ、課長全員で同じ区分を使う
- 1日の終わりに予定表を見ながら、30分単位で区分を書く
- 仕事ごとに、誰が求めた仕事かを書き添える
- 減らせそうな仕事には、気づいたときに一言メモを残す
- 2週間後に区分ごとの時間を合計し、課長と一緒に読む
区分は、プレイヤー業務・部下との対話と育成・会議・報告と資料・記録と事務・突発の対応の6つで、記録表は、たとえば次のような形になります。
| 日 | 時間 | 区分 | 仕事の内容 | 求めた人 | 減らせそうか |
|---|---|---|---|---|---|
| 1日目 | 9:00〜10:00 | 会議 | 部門の定例会議 | 部門 | 隔週でもよさそう |
| 1日目 | 10:00〜12:00 | プレイヤー業務 | 担当顧客への提案の準備 | 自分 | 一部はメンバーに渡せる |
| 1日目 | 13:00〜13:30 | 部下との対話と育成 | メンバーとの1on1 | 自分 | 減らさない |
| 1日目 | 13:30〜15:00 | 報告と資料 | 本部向けの週次の報告 | 本部 | 集計は手作業でなくてよい |
業務を見える形にして数字で見直す考え方は、中間管理職のマネジメント改革ガイドでも紹介しています。
3.3. 2週間後に見る3つの数字
2週間の記録からは、課長と一緒に、次の3つの数字を見ていきましょう。
● 区分ごとの時間の割合
● 部下との対話と育成に使った時間(1on1の予定・実施・延期の回数もあわせて数える)
● 自分以外が求めた仕事に使った時間
3つ目の数字が大きいほど、課長一人では減らしにくい仕事が多いことになりますが、調査の平均と比べて良し悪しを決める必要はありません。
記録を合計した課長が「思っていたより、会議と報告に取られているな」とつぶやく場面を、想像してみてください。見るのは、課長が「思っていたより多い」と感じた区分と、1on1を延期した日に代わりに何をしていたかです。
4. 減らす仕事を決める
記録が集まっても、「結局どれを減らせばいいのか」とあなたが迷い、手が止まってしまうことがあります。減らす仕事は、記録に残った仕事を「やめる・減らす・渡す・仕組みに任せる」の4つに仕分けて決めます。仕分けるときは、その仕事を誰が決められるかも同じ表に書きましょう。
4.1. 4つの扱いと、決める人を書いた棚卸し表
棚卸し表には、仕事ごとに扱いと変え方、決める人を1行ずつ書き、たとえば次のような形にまとめます。
| 仕事 | 扱い | 変え方の例 | 決める人 |
|---|---|---|---|
| 使われているか分からない月次の活動報告 | やめる | 読み手に使い道を確かめ、使われていなければ廃止する | 報告を求めている部署 |
| 毎週60分の部門の定例会議 | 減らす | 隔週30分にし、数字の共有は事前の資料で済ませる | 会議を開く部門 |
| 課長が持つ担当顧客の一部 | 渡す | 同行しながらメンバーに引き継ぎ、課の数字の配分を変える | 課長と部門 |
| 少額の経費の承認 | 渡す | 金額の基準を決め、係長などに承認を任せる | 決裁の規程を持つ部署 |
| 本部向けの週次の報告 | 仕組みに任せる | 既存のシステムの集計画面をそのまま提出する形にする | 報告を求めている部署 |
| 1on1の記録と準備 | 仕組みに任せる | 記録の型を決め、前回決めたことを次回の最初に確かめる | 課長 |
この例で課長が一人で決められるのは、「決める人」の列にあるとおり1on1の記録と準備くらいです。表にしてみると、課長だけでは動かせない仕事の多さに、気づくかもしれません。
4.2. 課長が決められない仕事は、部門で引き取る
課長が一人で決められない仕事は、部門の会議に持ち寄って決めましょう。課長会で棚卸し表を並べた瞬間に、「うちの課でも同じ報告を作っています」という声があがる場面を、想像してみてください。
同じ報告や会議が複数の課で時間を取っていることが分かれば、複数の課に共通する仕事ほど、やめたときに戻ってくる時間も大きくなります。本部や他部署が求めている仕事は、求めている側と話す必要があります。
課長一人で伝えるよりも、複数の課の声をまとめて伝えられる場のほうが、交渉は進めやすいものです。報告を一つやめるのが難しくても、頻度を下げたり様式を簡単にしたりする交渉の余地は残ります。
決めたことは日付と担当を棚卸し表に書き込み、1か月後にどれだけ時間が戻ったかを確かめましょう。
4.3. 渡すには、渡す前の時間がいる
「メンバーに渡せばよいと分かっていても、教える余裕がない」と感じている課長もいるはずです。プレイヤーの仕事をメンバーに渡しても、課長の時間はすぐには空かず、渡す相手に教え、しばらく同行する時間が先にかかります。
渡しにくさは、2.2で紹介したリクルートマネジメントソリューションズの2026年の調査にも表れています。プレイヤー業務を兼ねる理由として、35.5%が「メンバーに知識・スキルが不足し一任できない」を挙げました。
「メンバーに時間的な余裕がなく一任できない」も32.4%ありました。知識が足りない相手には教える時間が、余裕のない相手には先にその人の仕事を減らす段取りが必要です。
そのため「渡す」は、下期の数か月をかけて進める計画にし、最初の1か月は、教える時間で課長の負担がかえって増えることも見込んでおきましょう。渡す相手の仕事も同じ表で棚卸しすれば、忙しい人に仕事を寄せるだけで終わるのを防げます。
棚卸し表の「仕組みに任せる」に、1on1の記録と準備は入っていたでしょうか。TONOME Coreは、1on1の対話をAIが記録・要約し、次にやることを整理します。前回の宿題は次回のアジェンダに自動でつながるため、課長が前回のメモを探して準備し直す手間を減らせます。対話の内容を見られるのは、上司と部下の当事者だけです。TONOME Coreの詳細を見る
5. マネジメントの時間を、予定として守る
せっかくあなたの部門で会議を減らしても、空いた時間がいつの間にか別の仕事で埋まっていることは珍しくありません。減らして空いた時間は行き先を決めておかないとプレイヤーの仕事に戻るので、プレイングマネージャーの時間は、空くのを待たずに先に予定として押さえましょう。
5.1. 1on1の枠を、下期の初めに予定表へ入れる
1on1は下期の終わりまでの枠を先に予定表へ入れ、会議を減らして空いた時間は、その枠にあてるのが分かりやすいでしょう。
延期するときは同じ週のうちに振り替えることを課のルールにし、振り替えられなかった回数を数えておきましょう。ただし、延期の回数を数えるのは、課長を責めるためではありません。見たいのは、どの仕事と重なって延期になったかであり、それを知ることが、次の棚卸しにつながります。
5.2. 部下の人数とプレイヤーの数字を、来期の計画で見直す
「部下は何人まで見られるのだろう」という疑問は、時間を計算することで確かめられます。課長が見られる部下の人数には、1か月の時間から決まる上限があるからです。
必要な時間は「部下の人数×1か月の回数×(1回の時間+準備と記録の時間)」で出せます。たとえば部下が8人いて、隔週で30分の1on1をし、準備と記録に15分かかるとしましょう。1か月では8人×2回×45分で、12時間になります。
1on1のほかにも、同行や指導、相談への対応に時間がかかります。2週間の記録を2倍して1か月分に直し、部下との対話と育成に使えた時間がこれより少なければ、何かを変える必要があるでしょう。
変える方法は、課長のプレイヤーの数字を下げるか、部下の人数を減らすか、1on1の頻度や長さを見直すかの3つです。どれも課長一人では決められず、来期の組織と人員の計画で決めることになります。
部下の人数を何人までとする正解はありませんが、必要な時間を式で出しておけば、計画の場で課長の実感だけでなく数字をもとに話し合えます。
5.3. 課長と月に一度、時間の使い方を話す
記録と棚卸しを一度で終わらせず、月に一度は課長と1対1で時間の使い方を話しましょう。話すのは課長の働きぶりの評価ではなく、減らした仕事と戻ってきた時間です。たとえば次のような問いから、始めてみてはいかがでしょうか。
| 問い | ねらい |
|---|---|
| この1か月で、一番時間を使った仕事は何でしたか。予想どおりでしたか | 記録と実感の差を、課長自身が確かめる |
| 自分でなくてもできた仕事はありましたか | 「渡す」の候補を、課長が自分で挙げる |
| 求められているけれど、使われていないと感じる報告や会議はありますか | 「やめる」の候補と、求めている側を知る |
| 1on1を延期したのは、どんな仕事と重なった日でしたか | 延期を、心がけだけでなく重なる仕事の問題としても見る |
| 部門で決めてほしいことは何ですか | 課長一人では決められない仕事を引き取る |
| 空いた時間を、来月は何に使いますか | 減らした時間の行き先を先に決める |
1on1の進め方そのものを課長と振り返るときの問いは、エンゲージメントが低い部署の原因と対策で詳しく紹介しています。
まとめ
迷ったときに立ち返れるよう、ここまでの要点を3つに整理します。
● プレイングマネージャーの限界は、プレイヤーの仕事と管理業務がマネジメントの時間を取り合い、期限のない1on1や育成が後回しになる状態
● 時間が回らないのは、成果がプレイヤーの数字で見られ、管理業務が足されるだけで引かれず、減らす決定を誰もしていないことが重なるから
● 課長の時間を2週間記録し、4つの扱いと決める人を書いた棚卸し表で仕分けると、課長一人では減らせない仕事を部門で引き取れる
プレイングマネージャーの限界を前に、来期の組織と人員の計画は、課長の時間が実際にどこへ使われているかを知ってから組むほうが確かです。まずは記録を評価に使わないと約束したうえで、次の2週間の時間の記録を課長に頼むところから始めてみましょう。

