期待して見守ってきた部下から退職の申し出が届くと、突然のことに感じてしまうものです。「あのとき話を聞いていれば」と振り返り、離職の予兆がどこに出ていたのかを探してしまうのは、無理もありません。
離職は、本人の気質や上司の努力だけで説明できる話ではなく、仕組みの側の理由もあります。予兆に最初に触れられるのは直属の上司との日常の対話ですが、その対話は忙しい時期ほど途切れがちです。記録も残らないため、前回と今回の対話がつながらず、変化に気づきにくくなります。
こんな場面に心当たりはありませんか。
● 退職面談で理由を尋ねると「新しいことに挑戦したい」と言われ、本当のところが分からないまま終わる
● 周りに聞くと「そういえば最近、元気がなかった」と返ってくるのに、何がいつ変わったのかを知っている人がいない
● 直近のサーベイにも目立った問題が出ておらず、離職の背景をどこから見直せばよいのか見当がつかない
この記事では、離職の予兆がどこに出るのかと、在籍しているあいだの対話で本音の変化に気づく方法を整理します。退職理由の本音が退職面談で出にくい理由を調査から確かめたうえで、予兆が出る場所の表と、対話を続けるためのチェック項目を示します。来期の人員計画と採用計画を固めるまでの数か月は、今の1on1の運用を見直せる時期なので、点検にそのまま使ってください。
それでは詳しく見ていきましょう。
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1. 離職の予兆とは?行動に出る前のサイン
「どんなサインを見落としていたのだろう」と、自分を責めてしまうこともあるかもしれません。離職の予兆とは、社員が退職を考え始めてから、実際に退職を申し出るまでのあいだに表れる変化のことです。
よく挙げられるのは、遅刻や欠勤が増える、会議で発言しなくなるといった行動の変化です。ただ、予兆は本人の言葉や上司との関係の変化として、もっと早い時期に表れることもあります。
1.1. 行動に出る予兆は、遅い段階のサインであることが多い
勤怠や仕事ぶりに表れる変化は、気づきやすい一方で、遅い段階のサインであることが多いと考えられます。行動が変わるころには、本人の中で辞めるかどうかの結論がおおむね出ている場合が少なくないからです。
例えば、遅刻が増えてから声をかけても、そのころには、役割の見直しや異動といった打ち手が、意味を持ちにくくなっていることも少なくありません。
1.2. 早い予兆は、辞めると決める前の迷いに出る
退職は、ある日突然決まるものばかりではなく、早い予兆は辞めると決める前の迷いの時期に表れます。仕事の手応えの薄れや、やりたいことと任される仕事のずれといった、小さな引っかかりが重なっていくことがあります。やがてそれが、「このままでいいのか」という迷いになっていくのです。
迷いの時期であれば、本人はまだ選択肢を比べている状態で、話せる場があれば、迷いが不満や希望の言葉として出てくることもあります。
例えば、あなたとの1on1で、部下が「そろそろ別の仕事もやってみたいんですよね」とふとこぼしたとしましょう。この時期なら、会社の側にも、役割の調整や挑戦の機会を用意する余地が残っています。離職の予兆に気づく意味は、辞める人を言い当てることではなく、この迷いの時期に話を聞けることです。
2. 退職理由の本音は、なぜ退職面談で出ないのか
退職面談で聞いた理由に、どこか腑に落ちない思いが残ることがありますよね。それは、辞めると決めた後の場では本音を話す理由が本人にほとんどなく、聞いた理由が本当の理由の一部にすぎないことがあるからです。
2.1. 会社に伝えた理由と、本当の理由はずれている
退職するときに、本当の理由を会社に伝えない人は少なくありません。エン・ジャパンの『エン転職』ユーザー調査(2024年12月公表、3,780人が回答)で、本当の理由を会社に伝えなかった人は44%でした。
会社に伝えた理由の1位は「新しい職種にチャレンジしたいため」(31%)でした。一方、会社に伝えなかった本当の理由の1位は「職場の人間関係が悪いため」(38%)です。
冒頭の場面で聞いた「新しいことに挑戦したい」は、会社に伝えやすい理由の上位にあたります。挑戦したい気持ちそのものは本当かもしれませんが、それだけで辞めると決めたとは限らないのです。
この調査は求人サイトの利用者が対象で、日本の働く人全体を代表する数字ではない点に注意が必要です。それでも、退職面談で聞いた理由をそのまま受け取ってよいかを考える材料にはなるでしょう。調査の結果は発表資料で公開されています。
2.2. 退職面談は、辞めると決めた後の場である
退職面談で本音が出にくいのは、話す人の性格だけの問題ではなく、面談が開かれる時期の問題でもあります。同じ調査では、本当の理由を伝えなかった理由として最も多かったのが「円満退社したかったから」(46%)でした。
例えば、退職を決めたあとの面談で「実は上司との関わり方に悩んでいました」と打ち明ける場面を、想像してみてください。きれいに次へ移りたい気持ちがあるほど、口にするのは勇気がいるものです。
辞めると決めた人にとって、残りの期間を穏やかに過ごし、きれいに次へ移りたいと考えるのは自然なことです。本当の理由を話しても自分の状況はもう変わらず、むしろ関係がこじれるおそれのほうを気にする人もいるでしょう。面談の相手が退職の理由に関わる上司であることもあり、本音を聞ける時期は、退職面談よりずっと前なのです。
2.3. 国の統計でも、人間関係が上位に並ぶ
厚生労働省の「雇用動向調査」(2025年)でも、転職した人が前職を辞めた理由の上位には、職場の人間関係が入っています。女性では労働時間や休日などの労働条件(12.9%)と職場の人間関係(11.5%)が、男性では収入(9.9%)と職場の人間関係(8.9%)が上位でした。数字は「その他」を除いた上位で、転職した人だけの回答です。
退職面談の記録だけを集計して離職対策を考えると、表向きの理由が積み上がります。その結果、挑戦の機会やキャリア支援の制度を増やす方向に対策が寄り、人間関係のような理由には手が届かないままになるおそれがあります。
3. 離職の予兆が最初に出るのは、上司との日常の対話
日々の業務に追われる中で、あなたが部下ひとりひとりの小さな変化まで追いかけるのは大変ですよね。それでも予兆に最も早く触れられるのは、直属の上司との日常の対話です。仕事の進み具合を話し、1on1で本人の考えを聞く機会を最も多く持っているのが、直属の上司だからです。
3.1. 予兆は、言葉と関係の変化として表れる
迷いの時期には、対話の中の言葉や上司との関係に、たとえば次のような変化が表れることがあります。
● 来期にやりたいことや、身につけたいことの話が出なくなる
● 「特にないです」「大丈夫です」で話が終わることが増える
● 以前は口にしていた不満や提案を、言わなくなる
● 相談の相手が、上司から別の人に移る
● 1on1の日程変更や、短く切り上げることが増える
不満を言わなくなる変化は一見落ち着いたように見えますが、「言っても変わらない」と感じて、言うのをやめただけかもしれません。どの変化も、一つだけで辞めるかどうかを判断できるものではなく、家庭の事情や体調、単に忙しい時期であることも考えられます。
変化に気づいたら、決めつけずに本人の話を聞く機会にしましょう。例えば「前回は来期に新しい案件をやりたいと話していましたが、いまはどう考えていますか」と、前回の言葉から尋ねると、話を切り出しやすくなります。
3.2. 予兆が出る場所と、気づける人・時期
予兆が出る場所ごとに、気づける人と時期を整理すると次の表のとおりです。
| 予兆が出る場所 | 変化の例 | 気づける人 | 気づける時期 |
|---|---|---|---|
| 対話の中の言葉 | 先の話が減る、「特にないです」が増える | 直属の上司 | 迷い始めたころ(早い) |
| 上司・同僚との関係 | 相談が減る、1on1の日程変更が増える | 直属の上司、同じチームの同僚 | 迷いが続いているころ |
| 勤怠や仕事ぶり | 遅刻や欠勤、休暇の取り方が変わる | 上司、同僚、勤怠の記録 | 結論が出つつあるころ(遅いことが多い) |
| サーベイ | 部署のスコアが下がる | 人事、経営 | 実施ごとの集計後(部署単位) |
| 退職の申し出・退職面談 | 退職の意思と、伝えやすい理由 | 上司、人事 | 辞めると決めた後 |
表は上の行ほど早い予兆を示していて、その早い予兆に気づける位置にいるのは、本人と日常的に話している直属の上司です。
3.3. サーベイで分かるのは、部署の傾向まで
サーベイで分かるのは部署や組織の傾向までで、一人の気持ちの変化は見えにくくなります。冒頭の場面のように、サーベイで目立った問題がなかった部署から退職者が出ることは、十分にあり得ます。
一人の変化は部署の平均の中に埋もれますし、実施と実施のあいだに起きた変化は次の回まで数字に表れません。部署の傾向はサーベイでつかみ、個人の変化は日常の対話で拾うという役割分担で考えましょう。
4. 予兆に気づける対話を続ける3つの条件
1on1の時間を取っているのに、手応えがつかめないと感じることもありますよね。1on1の場があるだけでは、予兆に気づける対話の条件はそろいません。
その条件は、対話が途切れないこと、前回の話が次につながること、そして安心して話せることの3つです。
4.1. 対話が途切れないこと
対話が途切れると、そのあいだに起きた変化は話題に上らないまま積み重なります。1on1は、業務の会議と違って締切がなく、延期しても誰も困らないように見えるため、忙しい時期ほど後回しになりやすい予定です。
例えば、繁忙期に「今週は難しそうだから来週で」と延期を重ねているうちに、気づけばしばらく話せていなかった。そんな場面を、あなたも想像できるのではないでしょうか。
1on1の間隔を決め、先の分までカレンダーに入れておきましょう。日程を変えるときは中止にせず、同じ週か翌週のどこかに移す運用にしておくと、途切れにくくなります。変化に気づくうえでは、間隔の長さよりも、決めた間隔が守られていることが大事です。
4.2. 前回の話が、次の対話につながること
変化は、前と比べたときに初めて分かります。前回の1on1で「来期は新しい案件を担当してみたい」と話していた部下が、今回はその話をしなかったとしましょう。
前回の話を覚えていれば上司はその違いに気づけますが、覚えていなければ、今回の対話は何事もない30分として終わってしまいます。
あなたが多くの部下と向き合っているなら、前回の話をすべて覚えておくのは大変ですよね。上司の記憶だけに頼ると、部下の人数が多いほど前回の話は抜け落ちやすくなります。
そこで、1on1のあとは、話題と本人の言葉と次回に話すことの3点を短く記録し、部下も確認できるようにしておきましょう。次の1on1は、その記録を見返すところから始めてみてください。記録の大切さは、実は離職を増やす1on1でも詳しく紹介しています。
4.3. 話した内容が、評価やラベルに使われないこと
迷いや不満を話すことが評価に響くと感じれば、当たりさわりのない話にとどめる部下もいます。Kakedasの「上司との1on1に関する実態調査」(2024年)は、1on1を受けている会社員400名に聞いたものです。
この調査では、上司との1on1で仕事へのモチベーションが1回でも下がった経験がある人が54.2%いました。1on1の場を設けても、話しやすい場になるとは限りません。
対話の中身を評価と切り離すことに加えて、本人にラベルを貼らないことも大事です。勤怠やアンケートのデータから、一人ひとりの辞めそうな度合いをAIで推定して点数をつける仕組みもあります。
こうした点数を上司や人事が見ていると本人が知れば、迷いはかえって口にしにくくなるでしょう。「辞めそうな人」と見られた部下に、上司が大きな仕事を任せにくくなることも考えられます。任されない経験が、本人の迷いを強めることもあるのです。
点数で辞める人を当てるより、迷っているあいだに本人が話せる場を保つほうが、打てる手は多く残ります。そのために、1on1で話した内容を何に使い、何に使わないかを部下に説明しておきましょう。組織として把握するのは、1on1の実施率や間隔といった傾向で足ります。
4.4. 対話を続けるためのチェック項目
対話の3つの条件を満たしているかを、次の項目で確かめましょう。すべてを一度に整える必要はなく、気になる項目から、ひとつずつ見直してみてください。
| 条件 | 確かめること | 満たしていないと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 途切れない | 1on1の間隔が決まり、先の分までカレンダーに入っているか | 忙しい時期に間隔が空き、変化が話題に上らない |
| 途切れない | 延期した1on1が、別の日に移されているか | 延期が重なり、実施されなくなる |
| 前回とつながる | 1on1のあとに、話題と本人の言葉が記録されているか | 前回と比べられず、変化に気づけない |
| 前回とつながる | 次の1on1を、前回の記録を見てから始めているか | 毎回が初回のような対話になる |
| 安心して話せる | 話した内容を何に使い、何に使わないかを部下に説明しているか | 評価を気にして、当たりさわりのない話になる |
| 安心して話せる | 対話の中身を、当事者以外が読まない運用になっているか | 読まれる前提で、言葉を選ぶようになる |
| 安心して話せる | 上司が自分の話し方や問いかけを振り返る機会があるか | 上司ばかりが話す1on1が続く |
比べる前回がなければ、部下の変化には気づけません。TONOME Coreは、1on1の対話をAIが記録・要約し、前回の話や決めたことを次回のアジェンダに自動でつなげます。変化に気づくのは上司自身ですが、前回の話が手元に残るので、対話を続けやすくなります。対話の内容を見られるのは当事者だけで、組織に届くのは実施率やテーマの傾向といった集計情報です。TONOME Coreの詳細を見る
5. 待遇や制度で防げる離職と、対話でしか防げない離職
すべての離職をあなたの対話だけで防ごうとすると、負担ばかりが大きくなってしまいます。離職への打ち手は、待遇や制度で手を打てるものと、日常の対話でしか手を打てないものに分けて考えましょう。
厚生労働省の「雇用動向調査」(2025年)によると、パートを含む常用労働者の1年間の離職率は13.7%でした。働く人のおよそ7人に1人が、1年のうちに職場を離れている計算です。
辞めた人の穴を採用で埋めるたびに、募集から立ち上がりまでの時間がかかります。防げる離職を見分けておけば、その時間は減らせるはずです。
5.1. 理由ごとに、打ち手と気づける場所を分ける
離職の理由によって、打ち手を決める人も、予兆に気づける場所も変わるため、理由ごとの違いを次の表にまとめました。
| 離職の理由の例 | 主な打ち手 | 打ち手を決める人 | 予兆に気づける場所 |
|---|---|---|---|
| 収入への不満 | 給与水準や評価制度の見直し | 経営、人事 | 退職理由の集計、他社の水準との比較 |
| 労働時間や休日 | 業務量の調整、休暇の取りやすさの改善 | 経営、部門 | 勤怠の記録 |
| 職場の人間関係 | 配置やチーム編成の見直し、上司の関わり方 | 上司、部門 | 日常の対話 |
| やりたい仕事とのずれ | 役割の調整、挑戦の機会、異動 | 上司、本人、人事 | 日常の対話 |
| 期待されている役割の分かりにくさ | 期待のすり合わせ、目標の見直し | 上司、本人 | 1on1、目標設定の面談 |
表の上の2つは、制度や予算として全社で手を打てる離職で、来期の計画にも入れやすくなります。下の3つは一人ひとり事情が違い、本人が話さない限り中身が分からないため、制度を増やすだけでは減りにくい離職です。
5.2. 制度があっても、使われるかは対話で決まる
社内公募やキャリア面談のような制度があっても、迷っている本人が使うとは限りません。迷っていることを上司に知られてよいのか分からなければ、社外の選択肢を探すほうが気楽に感じることがあります。
制度も、迷いを話せる対話があるときに、使われやすくなります。待遇と制度が経営の判断で動かせるように、対話の条件も、上司一人の努力に任せず組織として整えましょう。
5.3. 来期の人員計画の前にやること
来期の人員計画と採用計画を固める前に、次の手順で今の状態を確かめましょう。
- 直近1〜2年の退職者について、退職面談で聞いた理由と、当時の上司が感じていた変化を並べる
- 退職の理由を5.1の表に当てはめ、待遇や制度で手を打てるものは来期の計画と予算に入れる
- 対話でしか手を打てない離職について、4.4のチェック項目で今の1on1の運用を確かめる
- 下期の1on1の間隔と記録のやり方を、各部署で上司と部下が決め直す
- 次の人員計画の検討の前に、1on1の実施率と間隔を集計で確かめる(対話の中身は見ない)
手順1で退職面談の理由だけを並べると、2.1で見たように表向きの理由が多く集まります。当時の上司の見立てとあわせて読めば、本当の理由に近づけるはずです。
まとめ
● 離職の予兆は、勤怠などの行動より前に、対話の言葉や関係の変化として表れることがあります。行動に出たときには、遅いことが多いと考えられます
● 退職面談は辞めると決めた後の場なので、退職理由の本音が出にくくなります。本当の理由を会社に伝えなかった人は44%という調査もあります
● 予兆に気づくには、途切れず、前回とつながり、安心して話せる対話が必要です。気づくのは上司で、仕組みはその条件を支えるものです
予兆を言い当てられなくても、あなたが責められることではありません。迷いの時期に本人が話せる対話を整えることが、離職防止の取り組みの中心になります。
まずは直近に辞めた人について、退職面談で聞いた理由と、その前の1on1がどんな間隔で行われていたかを並べてみてください。そのうえで4.4のチェック項目を使い、下期の1on1の間隔と記録のやり方を決め直すところから始めてみましょう。

