「何でも話していいよ」と伝え、話しやすい雰囲気づくりにも気をつけているのに、部下からプライベートな相談を受けたことはない。「求められていないし、悩んでもいないのだろう」と思えば、1on1はなぜやるのかという疑問が浮かぶのも無理はありません。
例えば、部下が家庭のことで気がかりを抱えていたとします。仕事の報告はいつもどおりで、あなたの目には変わった様子が映らず、相談の気配もない場面を想像してみてください。
こんな場面に心当たりはありませんか。
● 「何でも話していいよ」と伝えているのに、プライベートな相談は一度も来たことがない
● 相談がないのは悩みがないからだろうと、そのまま受け止めてきた
● 1on1が仕事の進み具合の確認で終わり、何のための時間か、ふと分からなくなる
この記事では、1on1はなぜやるのかを、本来の目的から整理します。「いつでも相談して」では届きにくい話があることと、決まった場があると話が出てくる理由も確かめていきます。プライベートな話が出たときの受け止め方と、初回の始め方もまとめました。
それでは詳しく見ていきましょう。
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1. 1on1はなぜやるのか?本来の目的は、話が出てくる場を先に用意しておくこと
1on1の時間をとりながら、「これは何のための時間なのだろう」と立ち止まるのは、部下との時間を大切にしているからこそです。まずは定義と本来の目的を整理して、評価面談や業務の打ち合わせとの違いも確かめておきましょう。
1.1. 1on1は、話が出てくる場をあらかじめ用意しておく時間
1on1とは、上司と部下が1対1で、決まった時間に定期的に話す場です。本来の目的は、部下が話したいことを話したいときに出せる場を、必要になる前に用意しておくことにあります。
「困ったら言ってね」という呼びかけは、困りごとが起きてから使う言葉ですが、1on1は、困る前から話せる時間を置いておく考え方です。話が出てくるのを待つのではなく、出てきやすい場を先に置いておく。この順番の違いが、1on1はなぜやるのかという問いへの答えです。
仕事の進み具合も、迷いも、仕事の外の気がかりも、話題にしてよいのが1on1です。話すかどうかを決めるのは本人で、上司の役割は、話が出てきたときに受け止められるよう、場を整えておくことにあります。
1.2. 評価面談や業務の打ち合わせとは、話の出どころが違う
評価面談は、期の終わりなどに評価の結果と理由を伝える場で、話の中心は上司の判断です。業務の打ち合わせは案件を前に進める場なので、話題は進み具合が中心になります。
一方で1on1は、話題を決めるのが部下の側にある時間です。評価も案件も話題の一つにはなりますが、席に着くなり「あの案件はどうなってる?」から入ると、中身は打ち合わせと変わらなくなります。
研修やサーベイとは何が違うのかは、研修やサーベイと比べてわかる対話の役割でも詳しく紹介しています。
2. 「いつでも相談して」では届きにくい話がある
「いつでも相談して」という言葉は、相手を思うあなたの気持ちから出た、あたたかい一言です。それでも部下が相談してこないとき、足りなかったのは気遣いではなく、その気遣いが届く形だったのかもしれません。
2.1. 「いつでも」は、相談の一歩を部下に任せる言い方でもある
「いつでも相談して」と言われた部下は、二つのことを自分で決めることになります。一つは、この話を相談するかどうかの判断で、もう一つは、上司の時間を取る一歩を踏み出すかどうかです。
例えば、廊下で上司とすれ違い、「そういえば」と言いかけたところで、上司が急ぎ足で会議室に入っていく場面を想像してみてください。「今ではないな」と飲み込んだ一言を、次の機会にも飲み込んでしまう人もいます。
相談しやすい雰囲気づくりを心がけていても、この二つの判断は、言葉だけでは軽くなりにくいものです。雰囲気は「相談してもよい」という許可を伝えますが、一歩を踏み出す手間までは減らしてくれません。
2.2. 相談の一歩を重くする4つのもの
部下の側で一歩を重くするものは大きく4つに分けられ、どれを重く感じるかは人によって違い、まったく感じない人もいます。
| 相談をためらう理由 | 部下の心の声の例 | 上司から見えること |
|---|---|---|
| 上司の時間を取ることへの遠慮 | 「忙しそうだから、今は声をかけないでおこう」 | 声をかけられることが、特にない |
| こんなことで相談していいのかという迷い | 「相談するほどの話なのかな」 | 小さな困りごとが、話題に出てこない |
| 評価に響かないかという心配 | 「この話をして、評価に響いたらどうしよう」 | 不安や弱音が、話に出てこない |
| 仕事の外の話を職場に持ち込むことへのためらい | 「家のことを、職場で話していいのかな」 | 仕事の話だけで、いつもどおりに進む |
表のとおり、上司から見えるのは「相談が来ない」という結果だけで、その手前にある迷いや遠慮は外からは見えません。見えないぶん、「困っていないのだろう」と受け取るのは、無理もないことです。
2.3. 原因は、雰囲気づくりの不足だけでも、部下が心を閉ざしているからでもない
相談が来ないと、「自分の雰囲気づくりが足りないのかもしれない」と考えたくなります。反対に、「部下が心を閉ざしているのでは」と感じることもあるでしょう。
けれども、雰囲気づくりの不足も、部下が心を閉ざしていることも、原因のすべてではありません。気軽に声をかけられる人がいる一方で、同じ呼びかけを重く感じる人もいて、その差は呼びかけの言葉だけでは埋めにくいからです。
雰囲気づくりだけでは本音が出にくい背景は、1on1で本音が出にくい3つの原因でも取り上げています。原因を人に探すより、一歩を軽くする仕組みを考えるほうが、あなたにも部下にも負担が少なくなります。
3. 「相談がない=悩みがない」とは限らない
相談が来ないとき、「話してくれないのは、困っていないからだろう」と考えるのは自然な推測です。ただ、上司に見えている景色と、部下の感じ方は、ずれていることもあります。
3.1. 管理職の見方と、一般社員の答えには差がある
調査会社のスコラ・コンサルトが、2024年10月に実施し11月に公表した「組織に関するアンケート調査」があります。従業員100人以上の企業で働く5,161人へのネット調査で、上司との面談で「本音で話せている」と答えた一般社員は55.6%でした。
一方で、管理職が「部下は本音で話している」と見ている割合は70.0%で、14.4ポイントの差がありました。管理職の側が「話してくれている」と見ていても、一般社員の感じ方は同じとは限らないことを示す、一つの目安といえます。
読むときは、設問が1on1に限らない「上司との面談」についてであることと、「本音」が私的な悩みと同じ意味ではないことに注意が必要です。
3.2. 仕事の外の話は、職場に持ち込みにくいことがある
まず仕事のストレスについて、厚生労働省の「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」を見てみます。2025年8月に公表され、有効回答は労働者8,596人で、仕事や職業生活に関するストレスを相談できる人がいる労働者は94.6%でした。
相談できる相手として最も多く挙がったのは家族・友人の68.6%で、上司を挙げた人は65.7%、同僚は62.8%と続きます。ただし、上司の割合は相談できる人がいる人のうちのもので、対象も仕事のストレスであり、私的な悩みの相談先を示す数字ではありません。それでも、相談できる相手が上司だけとは限らず、家族や友人のほうが先に挙がることは、頭に置いておきたい点です。
では、仕事の外の事柄はどうでしょうか。厚生労働省委託の「令和6年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」労働者調査(2025年3月)を見てみます。
現在介護をしている20〜60代へのネット調査で、介護に関する自身の悩みや不安の相談先として「勤務先」を挙げた正規雇用の人は、4.1%でした。
職場に介護の相談をすることに抵抗がある人は、正規・無期・有期のいずれの雇用形態でも、2割から2割5分ほどでした。「勤務先」は上司と同じではなく、対象も介護をしている人に限られますので、この数字から職場で私的な相談をする人の割合までは分かりません。それでも、仕事の外の事柄を職場に持ち込むことをためらう人がいる、という手がかりにはなります。
相談がないことは、悩みがない証拠にも、ある証拠にもなりません。見えないものを当てにいくより、話せる機会そのものを先に確保しておくほうが、確かな手立てになるのではないでしょうか。
4. 1on1という決まった場があると、話が出てくる理由
話が出てくるかどうかは、人柄や気遣いだけでなく、場の作りにも左右されるもので、1on1には、相談の一歩を小さくする作りがいくつかあります。
4.1. 予定に入っているので、呼び出さなくてよい
1on1が予定に入っていれば、部下は「お時間をいただけますか」と切り出す必要がなく、上司も「少し時間いい?」と呼び出さずに済みます。時間を取る遠慮は、一歩を踏み出す前の時点で、小さくなりやすいのです。
「忙しそうだから今は」と見送っていた話にも、「次の1on1で話そう」という置き場所ができます。相談の一歩が、「自分で切り出す」から「その日になったら話す」に変わるのです。
4.2. 話題を本人が選べて、前回の続きから話せる
話題を本人が選べると、「こんなことで相談していいのか」という迷いは、「今日は何を話そう」という選択に変わります。何を話すかが決まっていないので、仕事の小さなひっかかりも、仕事の外の気がかりも、出してよい話になります。
前回の続きから話せるのも、大きな違いです。「あれからどうですか」と聞いてもらえると、一から説明し直す手間が省け、前の話を受け止めてもらえたという安心にもつながります。
4.3. 決まった場があったことで、話が出てきた一つの例
1on1の研修を受け、ツールを使いながら1on1を続けた管理職の方から、こんな声をいただきました(要旨)。
その職場は中途で入社した人が多く、キャリア入社が半分ほどだそうです。その方は「何でも話してきていいよ」と伝え、そういう雰囲気づくりにも気をつけていました。
それでもプライベートな相談は特になかったので、「そういうことは求められていないし、悩んでもいないのだろう」と、当然のように思っていたといいます。ところが、研修を受けてツールを使いながら1on1をやってみると、意外にもプライベートの話をしてくれて驚いたそうです。
「正直、1on1でなくても話せばいいのにと思っていましたが、意外にハードルが高いのだと気づけました。そこに気づけたことが、とても良かったです」。
「話したければ、ふだんから話せばいいのに」と思うのは、ごく自然な感覚です。それでも、ふだんの職場では切り出しにくい話が、決まった場では出てくることがあり、この声はその一つの例といえます。
これは一人の管理職の方の声で、どの職場でも同じことが起きるとは限りません。決まった場があったことで話が出てきた、一つの例として受け取ってください。
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5. 1on1でプライベートな話が出たときの受け止め方と、始め方
話が出てくる場を用意すると、仕事の外の話が出ることもあります。そのときの受け止め方を決めておかないと、話してくれた人にも、聞いた側にも、戸惑いが残ります。
5.1. 聞き出すことが目的ではなく、話さない自由を守る
プライベートな話を聞き出すことは、1on1の目的ではありません。目的は、話したいときに話せる場を用意することで、話すかどうかを決めるのは本人です。
例えば、毎回「最近、家のほうはどう?」と聞かれたら、探られているように感じる人もいます。「今日は仕事の話だけにしたいです」と言われたら、その選び方を受け止めて、そのまま仕事の話を続けましょう。
5.2. 話してくれたときの、受け止め方の約束
もし話してくれたときは、次の約束を守ると決めておくと、聞く側も落ち着いて受け止められます。
| 場面 | 約束すること | 声のかけ方の例 |
|---|---|---|
| 話してくれたとき | 評価に使わない | 「話してくれてありがとうございます。聞いたことは、評価には使いません」 |
| ほかの人に伝える必要が出そうなとき | 本人の了承なく他言しない | 「この件を共有したほうがよさそうなときは、先にあなたに確かめます」 |
| 上司だけでは手に余るとき | 専門の窓口や制度につなぐ | 「社内の相談窓口や制度があるので、一緒に調べてみましょうか」 |
| 話したくないとき | 話さなくてよい | 「無理に話さなくて大丈夫です。話したくなったら、次の1on1でも聞きます」 |
つなぐ場合も、本人の了承を得てから進めましょう。あなたが一人で抱え込まなくて済むよう、頼れる窓口を先に確かめておくと安心です。
5.3. 初回の1on1で伝えること
約束は、話が出てからではなく、最初の1on1で先に伝えておくと、話す側も安心しやすくなるため、初回に伝えることを次の6つにまとめました。
- この時間は評価のためではなく、部下の話を聞くための時間だと伝える
- 話題は仕事のことでも、仕事の外のことでも、本人が選んでよいと伝える
- 話したくないことは、話さなくてよいと伝える
- 聞いたことは評価に使わず、本人の了承なく他の人に伝えないと約束する
- 必要なときは、社内の相談窓口や制度を一緒に探すと伝える
- 次の1on1の日時を、その場で決める
言い方の例は、「この時間は、評価のためではなく、あなたの話を聞くための時間です。仕事のことでも、それ以外のことでも、話したいことを選んでください。話したくないことは、話さなくて大丈夫です」というものです。
次の回では、前回の続きから「その後はどうですか」と聞いてみてください。話さなくてよいという前提を保ったまま、続きを話せる場があることが、少しずつ伝わっていきます。
まとめ
1on1はなぜやるのかについて、押さえたいことを3つにまとめます。
● 1on1の本来の目的は、話したいことが出てくる場を、必要になる前に用意しておくこと
● 「いつでも相談して」は相談の一歩を部下に任せる言い方でもあり、相談がないことは、悩みがない証拠にならない
● プライベートな話は聞き出さず、話さない自由を守り、話してくれたら評価に使わず、了承なく他言せず、必要なら窓口につなぐ
相談が来ないことの裏に、届いていない話があるのかもしれません。まずは次の1on1の最初に、この時間は評価のためではなく部下の話を聞くための時間だと、ひと言伝えるところから始めてみましょう。

