来期の昇格候補に声をかけたとき、「管理職にはなりたくありません」と返ってきたことはありませんか。誰に打診しても同じ答えが続くと、管理職の「罰ゲーム化」という言葉が頭をよぎるものです。
理由を尋ねても「自分には向いていないので」としか返ってこないと、本人の意欲の問題に思えてくるかもしれません。けれども、候補者が毎日そばで見ているのは、今の管理職の働き方という可能性もあります。仕事だけが足され、外されないまま残ってきた役割を、引き受けたいと思えないのは無理もありません。
こんな場面に心当たりはありませんか。
● 昇格を打診した相手から、理由をはっきり聞けないまま「なりたくありません」と断られた
● 管理職手当を上げる案は出ているものの、それで手を挙げる人が増えるのか見通せない
● 自分の数字を追いながら部下を育て、確認や報告にも追われる課長の姿が、ずっと気にかかっている
この記事では、「罰ゲーム化」という言葉の出どころと、管理職になりたくない理由を調査の数字で確かめ、3つの構造を整理します。組織が減らせる負担の表と、昇格候補と話すときの問い、来期の計画までに決めておくことのチェック項目も用意しました。4月に昇格を行う会社なら、候補者を決めて来期の人員計画を固めるまで、残りは数か月です。
それでは詳しく見ていきましょう。
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1. 管理職の「罰ゲーム化」とは?言葉の出どころと、なり手不足とのつながり
「罰ゲーム化」という言葉を目にして、あなたの職場の課長たちの顔が浮かんだことはありませんか。まずは、この言葉がどこから来たのか、どんな状態を指しているのかを、落ち着いて整理しておきましょう。
出どころは、小林祐児氏の著書『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル、2024年2月)です。著者はパーソル総合研究所の研究者で、管理職の負荷の増大や処遇の問題を、調査のデータをもとに論じました。
書名の「罰ゲーム化」とは、管理職の負荷が増える一方で、支えや処遇が追いつかず、引き受けることが割に合わない役回りに見える状態を指す言葉です。
1.1. 「罰ゲーム化」は、統計の用語ではない
「罰ゲーム化」は著者が示した見方を表す言葉で、統計の用語ではありません。自社の管理職が「罰ゲーム化」しているかどうかを、一つの数字で判定する決まった基準もないのです。
当てはまるかどうかを議論したくなるのは自然なことですが、議論を重ねても打ち手は決まりません。確かめたいのは、どんな仕事が足され、何が外されないまま残っているかという、役割の中身です。
1.2. 次の候補者は、今の管理職の働き方を見ている
例えば、会議と報告に追われながら自分の数字も追う課長の姿を、毎日そばで見ている候補者を想像してみてください。その姿を見て、その役割に前向きな印象を持ちにくくなる人がいても、不思議なことではありません。
なり手が足りない問題と、いまの現場で消耗が起きている問題は、つながった一つの問題です。パーソル総合研究所は2019年に「中間管理職の就業負担に関する定量調査」を公表しました。
管理職2,000名への調査で、課題と感じることとして「後任者不足」を挙げた人は56.2%でした。後任が見つからなければ、今その役割にいる人は、役割を降りることも仕事を任せることも難しくなります。
そうして悩む姿を見た候補者が、いっそう手を挙げにくくなる循環に陥ることもあります。今の管理職の負担を減らすことが、次の担い手を確保する取り組みにもなるのです。
2. 管理職になりたくない理由と割合|調査の数字で確かめる
候補者に断られ続けると、あなたの会社だけの特別な事情なのだろうかと気になることもあるでしょう。ここで調査の数字を確かめてみると、自社だけの事情とは言い切れないことが見えてきます。
国内の調査では一般社員の多くが管理職になりたくないと答えており、国際比較でも、日本は「管理職になりたい」人の割合が最も低い水準です。
2.1. 一般社員の77.3%が「管理職になりたくない」と回答
日本能率協会マネジメントセンターは、2023年4月に「管理職の実態に関するアンケート調査」を行い、5月に結果を公表しました。対象は、従業員300名以上の規模の企業で働く一般社員1,116名と管理職1,072名です。
一般社員のうち「管理職になりたくない」と答えた人は77.3%で、同社が2018年に行った調査の72.8%を上回りました。なりたくない理由を順位でみると、1位は「自分は管理職に向いていないから」でした。
2.2. 国際比較でも、日本は「管理職になりたい」人が最も少ない
パーソル総合研究所の国際比較の調査にも、目指す人の少なさが表れています。非管理職のうち「管理職になりたい」と答えた日本の割合は、「APAC就業実態・成長意識調査」(2019年)で21.4%でした。
14の国・地域の中では最下位で、「グローバル就業実態・成長意識調査」(2022年)でも19.8%と、18の国・地域の中で最も低い結果でした。
調査の対象も問い方も違うため、先ほどの77.3%と足したり引いたりして比べることはできません。ただ、どちらの調査も、目指す人が少ないという点では同じ結果を示しています。
2.3. 「向いていない」を、本人の資質の話で終わらせない
なりたくない理由の1位が「向いていない」だと、候補者の資質や意欲の問題に見えるかもしれません。けれども、向いているかどうかの答えは、何に向いているかによって変わります。
例えば、候補者が思い描く管理職が、自分の数字と部下の育成と増え続ける管理業務を一人で抱える姿だとします。その姿を思い浮かべたうえでの「向いていない」には、本人の資質だけでなく、その役割への答えという面もあるでしょう。
日本能率協会マネジメントセンターの同じ調査では、管理職の56.4%が「今の仕事が面白く、管理職を続けたい」と答えました。実際にその役割を担う人が感じている面白さは、外から見ている人には伝わっていないのかもしれませんね。
3. 管理職の「罰ゲーム化」を生む3つの構造
あなたも、いまの現場を見ていて、本人の頑張りだけでは追いつかないものがあると感じたことはありませんか。管理職の「罰ゲーム化」と呼ばれる状態の背景には、役割の積み増し・支えの不在・負担と処遇の釣り合いの崩れという3つの構造があります。
どれも個人の努力だけでは変えにくく、会社として決めることで変えられる部分が大きいものです。それぞれの構造が、引き受けるかどうか迷う候補者の目にどう映るかを、次の表にまとめました。
| 構造 | 管理職に起きていること | 候補者からの見え方 |
|---|---|---|
| 役割の積み増し | 仕事が足され、外されないまま残る | 管理職になると、仕事が際限なく増える |
| 支えの不在 | 自分の仕事について相談し、振り返る場がない | 管理職になると、一人で抱えることになる |
| 負担と処遇の釣り合い | 負担の中身が見えないまま、処遇が決まっている | 負担に見合う見返りがない |
3.1. 役割の積み増し|仕事は足されるが、外されない
例えば、部下との1on1やハラスメントの相談に応じる課長の一日を、想像してみてください。そこへ労働時間や情報管理の点検、各部署から届く調査への回答も重なり、手帳の空きがなくなっていきます。
役割の積み増しとは、仕事が足される一方で、外す判断が誰の担当にもなっていない状態です。一つずつ見ればどれも必要な仕事で、足した部署にはそれぞれ理由があるものです。
ただ、仕事の総量を見て何を外すかを決める役目を、どの部署にも置いていない場合があります。調査の数字にも、その重なりが表れています。
産業能率大学の「上場企業の課長に関する実態調査」(第7回、2023年)では、課長の94.9%が「自身はプレイングマネジャー」と認識していました。前出のパーソル総合研究所の調査(2019年)でも、管理職の57.5%が人手不足を、52.5%が自身の業務量の増加を課題に挙げています。
プレイヤーの仕事を持ったまま管理の仕事も重ねて引き受けている課長が多いことが、数字からうかがえます。
3.2. 支えの不在|管理職が相談し、振り返る場がない
支えの不在とは、管理職が自分の仕事の進め方を上司に相談し、振り返る場がない状態です。例えば、部下との1on1は制度として整っていても、課長が部長と話す1on1は決まっていない職場を想像してみてください。
就任時の研修が終われば、あとは本人の工夫に任される形になりやすく、今の管理職が何に消耗しているのかは、業績の報告に表れません。経営の手元に届くのは、数字と、階層を経てまとめられた報告です。
どの仕事に時間と気力を取られているのかは本人の言葉を聞かなければ分からず、その言葉を拾うには、上司が日常の対話の中で聞き続ける場が必要です。
3.3. 負担と処遇の釣り合い|負担が見えないまま、手当が議論される
管理職に報いたいという思いから処遇を見直そうとすると、議論は手当の額に集まりやすくなります。処遇は大切ですが、負担の中身が分からないままでは、いくらなら釣り合うのかを決められません。
例えば、手当の増額が決まっても、翌週の会議や報告の数が変わらない課長の姿を、あなたも思い浮かべられるのではないでしょうか。仕事が減らないまま手当だけが上がっても、候補者が思い描く役割の重さは変わらないままです。
では、手当の議論の前に何を確かめればよいのかを、次の章で順に整理していきます。
4. 組織が減らせる負担|外す仕事は会社が決める
あなたが負担を減らしたいと思っても、何から手をつければよいか迷うのは無理もありません。結論から言えば、管理職に求めている仕事を一覧にし、外すか残すかを経営会議で決めましょう。
他部署から依頼された仕事は本人の判断では外せないため、外す仕事を決めるのは、会社の役目になります。
4.1. 管理職に求めている仕事を棚卸しする手順
棚卸しは、誰が何のために足した仕事かを並べるところから始め、次の5つの手順で進めましょう。
- 管理職に仕事を依頼している部署に、依頼している仕事と目的を挙げてもらう
- 部長と課長の1on1で、時間や気力を取られている仕事を課長本人に聞く
- 仕事ごとに、やめる・減らす・ほかの人に渡す・仕組みに任せる・残すのどれにするか、案をつくる
- 案ごとに、決める人と期限を決める
- 経営会議で決め、外した仕事を管理職と社員に伝える
手順2で本人に聞くのは、依頼する側の目には、一つひとつの仕事の負担の重さが見えにくいからです。同じ仕事でも、部下の人数や担当によって、重さの感じ方は変わることがあります。
手順5では、外した仕事を管理職だけでなく社員にも伝えてみてください。仕事が減ったという事実は、次の候補者が引き受けるかどうかを考えるときの、大切な材料になります。
4.2. 減らせる負担の表
棚卸しで挙がりやすい負担と減らし方を、決める人と並べると次のようになります。
| 負担 | 減らし方の例 | 決める人 |
|---|---|---|
| 形を変えて何度も出す報告 | 様式と頻度を見直し、一つの報告にまとめる | 報告を求めている部署の責任者 |
| 出席するだけの会議 | 出席を任意にし、議事録の共有で代える | 会議を主催する部署 |
| 少額の承認や決裁 | 金額の基準を見直し、権限を担当者に移す | 経営(決裁の規程) |
| 各部署から届く調査や照会への回答 | 依頼の窓口を一つにし、時期をまとめる | 経営(依頼のルール) |
| 勤怠や経費の確認 | システムの確認に任せ、例外だけを管理職が見る | 管理部門の責任者 |
| 期末の評価書類の書き起こし | 期中の記録を使い、期末に一から書かない | 人事制度を所管する部署 |
| 1on1の記録と次回の準備 | 記録と要約を仕組みに任せ、準備の手間を減らす | 1on1を推進する部署と管理職 |
表のどれを外すかは会社ごとの判断ですが、外すと決めた仕事は、3か月後に本当に減っているかを確かめてみてください。
棚卸しは一度では終わらないため、新しい仕事を足すときは、同時に外す仕事を一つ決めるルールを置いておきましょう。そうしておけば、仕事を足す部署が、外す仕事も一緒に考えるようになります。
部門の中で課長の時間を測り、減らす仕事を決める手順は、プレイングマネージャーの限界で詳しく紹介しています。
4.3. 手当を見直す前に、残す役割を決める
手当の見直しは、まず負担を棚卸しして残す役割を決めてから、検討に入りましょう。外せる仕事を外したあとに残るのが会社の求める役割であり、処遇が見合っているかどうかは、そこで初めて判断できます。
あわせて、昇格の前後で、働く時間あたりの処遇がどう変わるかも、一度計算しておきたいところです。候補者が「割に合わない」と感じる理由が、そこに表れているかもしれません。
棚卸しの表にある「1on1の記録と次回の準備」は、仕組みに任せられる仕事の一つです。TONOME Coreは、1on1の対話をAIが記録・要約し、次にやることを整理します。前回の宿題は次回のアジェンダに自動でつながり、管理職には問いかけ方へのフィードバックが届きます。管理職が自分の対話を振り返る材料も、日々の1on1から残ります。対話の内容を見られるのは、上司と部下の当事者だけです。TONOME Coreの詳細を見る
5. 次の管理職を育てる|候補者の本音を聞き、就任の前後を支える
候補者に断られると、その場で説得したくなる気持ちはよく分かります。けれども、先に知っておきたいのは、その人が今の課長の姿を見て、この仕事をどう思っているかです。
次の管理職を育てるには、候補者の本音を評価と切り離して聞き、昇格の前と後の両方に支えを用意しましょう。
5.1. 候補者の本音を、評価と切り離して聞く
昇格を打診する場で本音を聞こうとしても、評価への影響を考えて言葉を選ぶ人もいるはずです。打診とは別の機会に、「ここで聞いたことは昇格や評価の判断に使わない」と伝えたうえで、管理職という仕事をどう見ているかを聞いておきましょう。
聞き手は直属の上司でなくてもかまいませんし、あなたが聞き手になるなら、次の問いが手がかりになります。
| 問い | ねらい |
|---|---|
| 今の管理職の仕事で、自分には難しそうだと感じるのはどの部分ですか | 「向いていない」の中身を、仕事の単位で知る |
| その部分がなくなったら、この仕事をどう感じますか | 外せる負担と、役割そのものへのためらいを分ける |
| 今の課長の仕事で、面白そうだと感じる部分はありますか | 外から見えている面白さを確かめる |
| 管理職になる前に、経験しておきたいことは何ですか | 昇格前に用意する機会を決める |
| 引き受けるとしたら、どんな支えがあれば続けられそうですか | 就任後の支えを決める材料にする |
答えを聞いたら、その場で説得を始めずに、挙がった仕事が4.2の表で外せるものかどうかを、あとで確かめましょう。
5.2. 昇格の前に、管理職の仕事の一部を経験してもらう
昇格を打診する前に、その仕事の一部を経験できる機会をつくりましょう。例えば、後輩の1on1を受け持つ、課長の代わりに課会を進める、予算や採用の検討に同席するといった機会です。
経験した人は、その仕事のどこが重く、どこに面白さがあるのかを、自分で確かめやすくなります。「向いていない」という判断も、想像ではなく経験をもとに下せるようになるでしょう。
5.3. 就任後の数か月を、本人任せにしない
昇格した人を誰が・いつ・どう支えるかは、昇格を決めるときに一緒に決めておきましょう。就任してしばらくは、新しい役割の進め方に迷いやすい時期だからです。
上司が月に一度、課長と1対1で仕事の進め方を振り返れば、困りごとを一人で抱え込む前に気づけます。就任後の3か月を月ごとに支える進め方については、新任管理職の育成もあわせてご覧ください。
5.4. 来期の計画までに決めることのチェック項目
来期の昇格と人員の計画を固める前に、次の6つを経営会議で確かめましょう。
| 決めること | できているかを確かめる問い |
|---|---|
| 管理職の役割の範囲 | 求める仕事と、外す仕事が一覧になっているか |
| 仕事を足すときのルール | 仕事を足すとき、同時に外す仕事を決める決まりがあるか |
| 管理職自身の相談の場 | 課長が上司と自分の仕事について話す場が、月に一度はあるか |
| 処遇の釣り合い | 外したあとに残る役割に対して、処遇が見合っているかを確かめたか |
| 候補者との対話 | 評価と切り離して、候補者の本音を聞く場を設けたか |
| 就任後の支え | 昇格した人を誰が・いつ・どう支えるかが決まっているか |
一つでも「いいえ」があれば、そこが手当より先に手をつける場所です。
まとめ
● 「罰ゲーム化」は著者が示した見方を表す言葉で、統計の用語ではない。調査では一般社員の77.3%が管理職になりたくないと答えている
● 「罰ゲーム化」と呼ばれる状態の背景には、役割の積み増し・支えの不在・負担と処遇の釣り合いの崩れという、会社として決められる3つの構造がある
● 手当を見直す前に仕事を棚卸しして外す仕事を決め、候補者の本音を評価と切り離して聞くと、次の担い手を育てる手が打てる
昇格を打診された人が見ている材料の一つは、今の管理職の一日かもしれません。まずは仕事を依頼している部署を書き出し、来期の昇格を話し合う前に、外す仕事を一つ決めるところから始めてみましょう。

