期末の評価シートの「主な実績」の欄を前に、期の前半に部下が何をしていたのかが思い出せず、あなたも手が止まってしまったことはありませんか。評価エラーの種類は研修で学んだはずなのに、気づけば直近の出来事で判断していたとしても、無理もないことです。

研修で教えたことが守られないと、評価者の意識の問題に見えるかもしれませんが、行動の記憶は時間がたつほど薄れていきます。期中の事実が残っていなければ、注意深い評価者でも判断は直近の出来事に寄りやすく、基準の読み方をそろえる場もなければ、ずれは印象の言い合いになります。変えられるのは記憶の薄れではなく、期中に事実を残す仕組みと、評価者の目線をそろえる仕組みのほうです。

こんな場面に心当たりはありませんか。

● 期の前半に部下が何をしていたのかを、メールや週報をさかのぼらないと思い出せない

● 評価会議で「うちの課は全員B」「あの課はいつも甘い」という話が続き、根拠を尋ねると「よくやっていた印象がある」と返ってくる

● 評価エラーの種類を研修で毎回教えているのに、期末の評価がなぜかぶれてしまう

評価エラーとは何か、どんな種類があるのかを、人事院のガイドが挙げる7つに沿って整理します。あわせて期末に評価がぶれる3つの理由と、期中の記録の残し方、評価会議で目線を合わせる手順を紹介します。評価者研修の資料にそのまま加えられるよう、7つの種類と記録の項目は表にしました。

それでは詳しく見ていきましょう。

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1. 評価エラーとは?記憶の薄れと、評価期日に近い出来事への偏り

評価をつけたあとで「直近の出来事に引っ張られていたかもしれない」と感じると、自分を責めたくなるものです。評価エラーとは、評価者の思い込みや記憶の偏りによって、評価が本人の実際の働きぶりからずれることです。

内閣人事局と人事院がまとめた「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」(2022年6月版)は、評価者が陥りやすい評価エラーとして7つを挙げています。国家公務員の人事評価のために作られたガイドですが、誤りの種類を一覧にした資料として、民間の評価者研修を組み立てるときにも参考になるでしょう。

1.1. 記憶は薄れ、評価は期日に近い出来事に寄る

評価シートを開いた朝に、頭に浮かぶのが先週の出来事ばかりだったとしても、数か月前の出来事ほど思い出しにくいのは自然なことです。人事院のガイドは、評価の材料になる行動の記憶は時間がたつにつれて鮮明でなくなると書いています。

そのため、評価期日に近い時期の出来事だけで評価しがちになるという指摘です。一般には期末誤差とも呼ばれる偏りで、ガイドの7つの評価エラーには含まれていません。

ガイドの考え方では、評価は評価期間の全期間にわたる事実にもとづくものです。そのために記録に留めておくことも有益だとし、事実の把握に1on1を活用することにも触れています。

1.2. 評価エラーは、名前を知っていても起きる

研修で学んだはずなのに同じずれが起きるのは、評価者の力不足だけが理由ではありません。評価エラーは、種類と名前を知っている評価者にも起きます。評価の場で手元にあるのが記憶だけなら、思い出せる出来事の範囲で判断するしかないからです。

たとえば期の前半に大きな成果を上げた部下でも、直近の小さな失敗のほうが記憶に残っていれば、評価はそちらに引き寄せられるかもしれません。ハロー効果も同じで、項目ごとの事実が手元にないと、全体の印象で判断を埋めることになります。

研修で教える知識とは別に、期末の判断に使う事実を用意しておくことが大切です。

2. 評価エラーの7つの種類と、防ぐ手立て

7つも名前を覚えるのは大変ですが、評価エラーを一覧にすると、あなたの評価を見直す手がかりになります。人事院のガイドが挙げる評価エラーは、ハロー効果・寛大化傾向・厳格化傾向・中心化傾向・論理的錯誤・対比誤差・逆算化傾向の7つです。「起きること」の列はガイドの説明にもとづき、「起きやすい場面」と「防ぐ手立て」は評価の実務に合わせて加えました。

種類 起きること 起きやすい場面 防ぐ手立て
ハロー効果 全体の印象や一つの目立つ印象から、個々の項目まで同じように評価する 大きな成果や失敗が一つだけ強く記憶に残っている 項目ごとに、その項目に当たる出来事を別々に挙げる
寛大化傾向 実際より甘い評価をつける 部下との関係が気になる。低い評価の理由を説明できる材料がない 基準の境目を行動の例で確かめ、上の評価には根拠の事実を添える
厳格化傾向 基準以上に辛く評価する。寛大化傾向と表裏の関係にある 評価者が自分の期待の水準を、基準の代わりに使っている 基準の文言と行動の例に照らして読み直す
中心化傾向 大部分を「普通」「平均的」とし、優劣をつけるのを避ける 差をつける根拠が手元にない 上と下の評価の候補を先に挙げ、それぞれの根拠を確かめる
論理的錯誤 自分の論理を持ち込み、関連がありそうな項目に同じ評価をつける 「企画力が高いから実行力も高い」のように項目を結びつける 項目ごとに、別の出来事で評価を確かめる
対比誤差 自分の能力を基準にして評価する 評価者が部下と同じ仕事で実績を上げてきた 自分ならどうするかを脇に置き、基準の文言に照らす
逆算化傾向 処遇から逆算して評価をつくる 昇給や昇格の枠が、評価より先に意識される 評価を固めてから処遇の話に移る

2.1. 根拠を聞くと見つかるエラー(ハロー効果・論理的錯誤・対比誤差)

ハロー効果・論理的錯誤・対比誤差という3つの評価エラーは、どの項目の評価もそれらしく見えるため、点数だけを見ても見つかりません。手がかりになるのは、項目ごとに挙げた根拠の事実です。

たとえば「顧客対応」と「後輩の指導」の根拠に同じ一つの案件しか挙がっていなければ、ハロー効果かもしれません。根拠が「企画力が高いから」だけなら論理的錯誤、「自分ならもっとできた」なら対比誤差が起きていないかを確かめましょう。

2.2. 分布に表れるエラー(寛大化傾向・厳格化傾向・中心化傾向)

一人ひとりの部下を丁寧に見ているほど、自分の評価が甘いのか辛いのかは、自分では気づきにくいものです。寛大化傾向・厳格化傾向・中心化傾向という3つの評価エラーは、評価者ごとの評価の分布に表れます。一人の部下の評価だけでは甘いか辛いかを判断できませんが、評価者ごとに並べると偏りが見えてきます。

パーソル総合研究所の「人事評価制度と目標管理の実態調査」(2021年9月公表)は、企業800社と従業員8,000人へのネット調査です。目標管理を実施している企業430社が挙げた期末の課題で、最も多かったのは「評価結果に差がつかず、中心に偏る」の52.1%でした。分布の具体的な見方は、5章で紹介します。

2.3. 評価者研修では、名前と一緒に見つけ方を教える

研修の時間が限られていると、評価エラーの名前の説明だけで終わってしまうのも無理はありません。7つの種類は、見つける場所で3つに分けられます。根拠の事実を聞くと見つかるもの、評価者ごとの分布に表れるもの、評価と処遇の手順から生まれるものです。

逆算化傾向は3つ目にあたり、評価会議で処遇の話をどの順番で扱うかに左右されます。評価者研修で名前と定義を教えるときは、自分の前回の評価を表に照らして見直す時間を加えましょう。

項目ごとの根拠が別々の出来事か、自分の評価が一つの段階に集まっていないかを確かめます。処遇の話が評価より先に頭にあったかどうかも、振り返る問いに入れておきましょう。

3. 期末に評価がぶれる3つの理由

研修のあとも期末の評価がぶれると、評価者の努力不足を疑いたくなるかもしれません。ただ、評価エラーの種類を教えても期末の評価がぶれるのは、評価者の心がけだけでは変えられない3つの理由があるからです。

3.1. 期中の事実が、決まった形で残っていない

忙しい日々の中で、出来事を書き留める余裕がなかったとしても、責められることではありません。期中の出来事を記録する決まりがなければ、記録するかどうかも、何をどこに書くかも上司ごとに違います。

あなたの職場にも、手帳に細かく書く上司もいれば、何も残さない上司もいるかもしれません。決まりのないまま期末を迎えると、記録を残してきた上司と残してこなかった上司で、評価の材料の量に差がつきます。

前述のパーソル総合研究所の調査によると、中間面談やフィードバックは多くの会社で制度化されています。ところが、制度どおりに実施できている上司は3割前後でした。期中に部下と事実を確かめる場が予定どおりに開かれなければ、事実はさらに残りにくくなります。

3.2. 評価者どうしの目線をそろえる場がない

「期待どおり」「期待を上回る」の境目をどこに引くかは、同じ基準書を読んでも評価者によって変わり、一人で自分の評価を確かめるのは難しいものです。例えば、同じ仕事ぶりを見て、ある評価者は「期待どおり」と読み、別の評価者は「期待を上回る」と読むことがあります。

日本の人事部の「人事白書2025」(2025年10月公表)は、会員企業の人事部門の担当者へのWeb調査です。評価制度の運用の課題を3つまで選ぶ問いでは、「評価者による基準や運用のばらつき」が67.7%、「評価者のスキル不足」が51.0%でした。いずれも、回答した担当者がそう認識しているという数字です。

前述のパーソル総合研究所の調査では、上司の37.4%が評価者研修を受けたことがないと答えています。目標管理を実施している430社が挙げた期末の課題では、「最終の評価調整が不明確な基準で行われる」が48.6%で2番目に多い結果でした。研修を受けていない上司がいるうえに、最終の調整の基準もはっきりしなければ、評価者ごとの読み方の違いは確かめられないままです。

3.3. 評価をつける段階と、処遇を決める段階が混ざっている

評価の結果がそのまま昇給や賞与の額、昇格を決める仕組みでは、評価をつける前から処遇の結果が頭をよぎるのも無理はありません。「この部下は今回こそ昇格させたい」「賞与の原資が限られている」と考えると、処遇の結論から評価をつくる逆算化傾向が起きやすくなるでしょう。

評価会議が処遇の配分を決める場を兼ねていると、事実の話より枠の話が先に出ます。評価と処遇を結びつけること自体は、制度として自然なことです。見直す対象は、評価をつける段階と処遇を決める段階が、同じ会議の中で混ざっている手順のほうです。

4. 記憶に頼らない評価の進め方|期中の記録と期末までの手順

日々の仕事に追われる中で、記録まで手が回らないのは無理もありません。だからこそ、評価エラーを減らすには、評価の材料になる事実を期中に残し、期末はその記録から評価をつけましょう。記録の項目と置き場所を決めておけば、上司ごとの記録の差も小さくなります。

4.1. 何を残すか|記録の5つの項目

記録には評価の言葉を書かず、起きたことをそのまま残しましょう。「頑張っていた」「意欲が高い」と書くと、期末に読み返したときに何があったのか分からず、あなたも思い出せないかもしれません。1件の出来事を、次の5つの項目で残します。

項目 書くこと 例
日付 出来事が起きた日。話した日と違えば両方 ◯月◯日(取引先への提案の前日)
事実 何が起きたか。評価の言葉を使わない 提案資料の数字に、前の年の値が残っていた
行動 本人が実際にしたこと 担当外の表まで見直し、営業担当と相談して当日の朝までに差し替えた
結果や影響 行動のあと、何が変わったか 提案は予定どおり行われ、取引先から数字についての質問は出なかった
本人の言葉 本人がどう考えて動いたか。1on1で聞いたこと 「前回の提案で数字の誤りを指摘されたので、全部の表を確かめると決めていた」

本人の言葉の欄があると、偶然うまくいったのか、本人が考えて動いたのかを区別できます。

4.2. どの粒度で、どこに残すか

1件の記録は、一つの出来事を3〜5行で書ける大きさにしましょう。「3か月分の仕事ぶり」のようにまとめて書くと、どの項目の根拠に使えるのかが分からなくなります。

うまくいった出来事だけでなく、期待に届かなかった出来事も同じ形で残しておきます。片方だけを残すと、記録そのものが寛大化傾向や厳格化傾向といった評価エラーに寄るためです。

期待に届かなかった出来事は、記録するだけでなく、その場で本人に伝えておきましょう。伝え方はネガティブフィードバックの伝え方で紹介しています。

置き場所は、上司と部下の二人が同じものを見られる場所を選びましょう。上司の手帳だけに残すと、部下が覚えている出来事とずれても期末まで確かめられません。部下が自分で出来事を書き足せるようにしておけば、上司が見ていない場面の事実も集まります。

一方で、記録を第三者が読む前提にすると、部下は話す内容を選びやすくなります。日々の記録を読むのは当事者の二人に限りましょう。評価会議に持ち込むのは、評価の根拠として上司が選んだ出来事だけで足ります。

4.3. 期末までの手順

期の途中で気づいた場合でも、遅すぎることはありません。記録は、期の途中からでも次の手順で始められます。

  1. 評価項目ごとに、記録を書き込む欄をつくる
  2. 期の途中から始める場合は、期初からの出来事を部下と一緒に書き出せる範囲で埋める
  3. 1on1のたびに、出来事を1〜2件残す
  4. 月に一度、記録が一件もない項目と、出来事の少ない時期を確かめる
  5. 期末の前に部下と記録を読み合わせ、自己評価の材料にしてもらう
  6. 評価は記録をもとに項目ごとにつけ、根拠のない項目には「材料不足」と書き添える

手順2で思い出せない期間があれば、空白のまま残しておきましょう。空白を印象で埋めないことが、期末誤差を小さくする第一歩になります。

その記録を、1on1のあとに上司が一から書き起こしていませんか。TONOME Coreは、1on1の対話をAIが自動で記録・要約し、話した事実を当事者の二人だけが見られる形で残します。前回の宿題は次回のアジェンダにつながるので、取り組みの経過も追えます。AIは評価も代行もせず、対話を映す鏡として設計しています。期末の評価に対話の記録を生かす考え方は、印象評価から、データにもとづく評価へで紹介しています。

5. 評価者どうしの目線合わせ|評価会議の進め方と分布の見方

他の評価者の評価に意見を言うのは、あなたでも気が引けるものです。だからこそ、評価エラーを見つけるために、評価会議では点数ではなく、根拠の事実と基準の読み方をそろえて目線を合わせましょう。

人事院のガイドも、調整者が評価の甘辛などの偏りを確かめるものとしています。分布で偏りを見つけ、根拠の事実で理由を確かめる順に進めると、会議は点数の配分の話で終わりにくくなります。

5.1. 評価会議は、エラーを見つける順に進める

評価会議の議題は、7つの評価エラーを見つけやすい順に並べましょう。

  1. 会議の前に、評価者ごとの評価の分布と、上と下の評価をつけた部下の根拠の記録を集める
  2. 分布を並べ、寛大化傾向・厳格化傾向・中心化傾向の偏りがないかを確かめる
  3. 上と下の評価について、項目ごとの根拠の事実を聞く
  4. 迷った事例を一つずつ出し、どの事実をどの項目に当てたかを話し合う
  5. 評価が固まってから、処遇の話に移る
  6. 評価を変えた場合は、一次評価者が部下に説明できる言葉で理由を残す

手順3では、ハロー効果・論理的錯誤・対比誤差が起きていないかを、根拠の事実から確かめます。手順5で処遇の話を最後に回すのは、逆算化傾向を避けるためです。

例えば、あなたの評価会議で「うちの課は全員B」という発言が出ても、まず分布を並べ、そのBの根拠を聞く順に進めれば、点数の言い合いになりにくくなります。調整した評価を面談でどう伝えるかは、評価フィードバック面談の進め方で紹介しています。

5.2. 評価者ごとの分布を確かめる問い

分布は、評価エラーの偏りを機械的に直すためではなく、理由を聞く場所を見つけるために使いましょう。成果を上げた部下が多い課なら、上の評価が多くなるのは自然なことです。

部下が数人しかいない課では偏りが出やすいので、前の期の分布と並べて見るとよいでしょう。5.1の手順2では、次の問いで分布を確かめます。

確かめる問い 偏りの例 次に聞くこと
評価者ごとに、上・中・下の評価の割合はどう違うか ある課だけ上の評価が多い 上の評価に、項目ごとの根拠の事実があるか
ほぼ全員に同じ評価をつけた評価者はいないか 課の全員が「B」 差をつける材料が記録に残っていたか
一人の部下の中で、全項目が同じ段階になっていないか 全項目が「A」 項目ごとに別の出来事が挙がっているか
評価者が変わった課で、分布が大きく動いていないか 前の期より上の評価が急に減った 部下の働きが変わったのか、基準の読み方が違うのか
処遇の候補と評価が、会議の前からそろっていないか 昇格候補の部下だけ全項目が高い 処遇の話と切り離して、評価の根拠を説明できるか

分布を見た結果は評価者を責める材料にせず、次の評価者研修で基準の読み方を話し合う題材にしましょう。自分の分布を全体の分布と並べて返せば、評価者が自分の甘さや辛さに気づくきっかけにもなります。

まとめ

● 評価エラーは、評価者の思い込みや記憶の偏りで評価が実際の働きぶりからずれること。人事院のガイドは7つの種類を挙げている

● 期末に評価がぶれるのは、期中の事実が決まった形で残らず、評価者の目線をそろえる場がなく、評価と処遇の手順が混ざっているから

● 期中の記録を5つの項目で残し、評価会議では分布と根拠の事実で評価エラーを見つけると、評価を記憶と印象から切り離せる

評価エラーの名前を教える研修に、期末の判断に使う事実を期中に残す仕組みを組み合わせましょう。期の途中から始めても、残りの期間の記録は期末の評価に使えます。まずは記録の5つの項目の表を評価者に配り、次の1on1から出来事を1件ずつ残してもらうところから始めてみましょう。